テラーノベル
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トトトトッ、と小気味よい音がリビングに響き、大葉と生姜の爽やかな香りと、味噌の芳醇な匂いがキッチンに満ちていく。
パーテーションの向こうのソファで大人しく待っている目黒は、俺が包丁を動かすリズムに合わせて、まるで美味しいものを待つ大型犬のように耳をそば立てているのが気配で分かった。その姿を想像するだけで、自然と口元が緩んでしまう。
「お待たせ、目黒。」
トレイを手にしてリビングへ戻り、テーブルに料理を並べる。ガラスの器に美しく盛ったのは、艶やかな海鮮のなめろうだ。叩いたアジを薬味と絶妙に絡ませ、それを囲うように中トロと軽く皮を炙ったタイの刺身を添えてある。更には海苔と、小さな土瓶、そして炊き立ての白米。
「うわ、すげー…!」
「まずはそのまま、海苔に巻いて食べてみて?」
そう促すと、目黒は待ちきれないといった様子で早々に《いただきます。》と手を合わせる。箸を動かし、なめろうをたっぷり掬って海苔に乗せ、大きな口で頬張った。
「…っ!」
一口噛んだ瞬間、目黒はぎゅっと強く目を閉じ、うんうんと深く頷く。
新鮮なアジの甘みと薬味のアクセント、隠し味の味噌のコクが口いっぱいに広がったのだろう。海の幸の旨みを噛み締めるうちに、目黒の端正な顔はすっかり緩み、なんとも言えないご満悦な表情になった。
「うっま…舘さん天才だよ。何これ、幾らでも食える。」
「ふふ、気に入ってくれてよかった。お代わりなら沢山あるから、遠慮しないでね。」
嬉しそうに俺を見る目黒の視線を浴びつつエプロンを脱ぎながら、俺はテーブルの向かい側に腰掛けてグラスを傾ける。目黒は夢中で箸を動かし、今度は白米の上になめろうを乗せて頬いっぱいになる程に豪快にかき込み始めた。普段のクールな彼が、俺の作った料理を前にしてこれ以上ないほど無防備な素顔を晒している。
「やっぱり食べさせ甲斐があるね、目黒の表情は。」
「ほんと美味いもん…あ、もしかしてこれ、最後に出汁かけるやつ?」
「あ、気付いた?頃合いを見て、その温かい特製出汁をかけてお茶漬けにしてみてね。二度美味しいから。」
「最高過ぎるって…。あ、舘さんも一緒に食べようよ。」
「うん、そうしようかな。」
正直俺は目の前の光景だけで満たされてるんだけど…食を囲むことをご所望のようなので、俺は食べられる分だけを盛るかと炊飯器の前に立った時。
「…あ、ごめん。ついでに米となめろうおかわり貰っていい?」
茶碗を持ちながら振り返れば、もぐもぐと咀嚼してそれぞれの食器を持ってこちらに伸ばすわんぱくな表情の彼。
「、…っふ、はいはい。両方多めにしとく?」
そのマイペースな彼に俺は一度茶碗を置き、食欲全開な彼を優先することにした。
食事が一段落する頃には、心地よい満腹感と酒の所為で、部屋にはすっかり弛緩した空気が流れていた。
洗い物を終えて振り返ると、目黒はソファの背凭れに身体を預け、満たされた食欲に少し目元をトロンとさせている。普段の冷静なオーラはどこへやら、完全に無防備な姿だ。
俺はそんな目黒の隣へとそっと距離を詰め、少しだけ赤くなった彼の頬を覗き込む。
「綺麗に食べてくれたね。見てて気持ち良かったよ。」
「ん…?マジで美味かったからもう大満足。ご馳走様、舘さん。」
「どういたしまして。…じゃあ、俺も…満足したいな。」
彼の身体に中心に膝を立てて跨ぐ。いつもなら微笑んで流す筈の目黒だった。けれど、お酒の入った彼の瞳の奥に、すっと男らしい熱が灯るのが見えた。
彼はゆっくりと身体を起こす。その瞬間、それまでの大型犬のような可愛さが一瞬で消え去り、俺を圧倒するような『雄』のオーラが室内の空気を支配していく。
「そんなこと言われたら…俺、我慢できなくなるんですけど。」
「、…ん…っ」
不意に目黒の大きな手が俺の後頭部を掴んで引き寄せ、口付けを与えられながらそのまま組み敷かれる。
立場が瞬時に逆転し、見上げる形になった俺の視界が、驚きで僅かに揺れた。
「…狡いよ、舘さん。そんな顔して誘うなら…手加減、しなくていいんだよね?」
少し掠れた低い声。目黒の瞳にはもうさっきまでの無防備な煌めきはなかった。完全にスイッチの切り替わった目黒の質量に圧倒され、心臓がトクン、と大きく跳ね上がる。
「…っ、んぅ…ッふ、」
言葉を紡ごうとした俺の唇は、逃がさないという強い意志を持った目黒の唇によって更に深く塞がれた。翻弄されて俺の唇がかすかに開いた瞬間、目黒は一気に深い場所まで舌を滑り込ませ、独占欲を隠そうともせず貪り始めた。
「ン ふ…っ、はァ…っ、めぐ、ろ…」
一度唇が離れる。熱を帯びた息を吐き出す俺の顔は、自分でも分かるほどすっかり朱に染まっていた。潤んだ瞳で彼を見上げることしかできない。いつもは先輩として余裕を見せている俺が、目の前の後輩に乱されていく──その事実が、目黒の征服欲を激しく突き動かしているのが分かった。
「舘さん、めちゃくちゃにしていい…?」
目黒の言葉に胸の奥が甘く疼き、背中に心地いい戦慄が走る。問われた言葉に俺が頷くと、彼の手際のいい手つきでシャツのボタンが外され、露わになっていく肌へ彼は惜しみなく熱い唇を落としていく。
「ッぁ…っ、ん、…っ、」
小さく跳ねた俺の身体を、目黒は逃がさないように強い腕でしっかりと抱き留める。
ここからは甘く、激しく、隅々まで味わい尽くす濃密な時間が始まろうとしていた。
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