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#切ない
#長編
草凪葉月🌙⭐️🐈⬛@活休中?
第七話 鈴の記憶
眠れなかった。
朔也は部屋の中で、一晩中帳簿を読み返していた。
桜ノ間で見つけた古い記録。
『口封じ完了』
その文字が頭から離れない。
二十年前。
“桜”という花魁が死んだ。
そして今、銀鈴も殺された。
偶然とは思えなかった。
「……同じだ」
誰かが秘密を知り。
消された。
それだけだ。
だが。
ならなぜ、銀鈴は桜ノ間の存在を知っていた?
誰から聞いた?
どうやって帳簿を見つけた?
分からないことばかりだった。
窓の外が白み始めた頃。
コン、コン。
静かな音が響く。
「……誰だ」
襖を開けると、そこには禿の少女が立っていた。
「朝倉様……」
目元が赤い。
泣いたのだろう。
「どうした」
少女は不安そうに周囲を見回す。
「話したいことがあます……」
二人は人目につかない裏庭へ移動した。
朝露に濡れた草が、静かに揺れている。
「……桜ノ間に行ったんですね」
少女が小さく呟く。
朔也の目が細くなる。
「誰から聞いた」
「女将が……怒ってた」
少女は俯いた。
「“あの部屋には近づくな”って」
「お前、何か知ってるな」
沈黙。
少女は迷うように袖を握る。
だが。
やがて震える声で言った。
「銀鈴花魁……最近、よくあの部屋に行ってたんです」
「……なに?」
「誰にも見つからないように、夜中に」
朔也の胸がざわつく。
「何をしてた」
「分からない……でも、何か探してた」
銀鈴は最初から気づいていたんだ。
この店に、秘密があることを。
「花魁、言ってたんです」
少女はぽつりと続ける。
『この場所、何人もの女の涙でできてる』
その言葉が、胸に重く沈む。
「……桜って花魁を知ってるか」
少女の肩が震えた。
「知ってる」
小さな声。
「昔、この店にいた人らしいです」
「どんな女だった」
「すごく綺麗だったって……銀鈴花魁に少し似てたって聞いた」
朔也は息を呑む。
似ていた。
その言葉が妙に引っかかった。
「桜花魁も、優しい人だったらしいです」
少女は空を見上げる。
「逃げようとしてたんだって」
「逃げる?」
「吉原から」
風が吹く。
遠くで鈴の音が鳴った気がした。
「でも、死んじゃった」
少女は小さく俯く。
「病死ってことになってるけど、本当は違うって……」
「誰が言ってた」
「みんな噂してるだけ」
噂。
だが、この場所の噂は時に真実より正しい。
その日の夜。
朔也は再び桜ノ間へ向かっていた。
理由は分からない。
だが、どうしても気になった。
銀鈴が何を見ていたのか。
何を知ったのか。
知りたかった。
古い廊下を歩く。
ギシ、ギシ、と床が鳴る。
まるで誰かに見られているみたいだった。
「……」
襖を開ける。
暗い部屋。
冷たい空気。
だが。
今日は違った。
部屋の奥。
窓際に。
誰かが立っていた。
「——っ!」
白い着物。
長い黒髪。
細い背中。
朔也の呼吸が止まる。
「……銀鈴?」
女がゆっくり振り返る。
だが。
顔は見えない。
月明かりが逆光になっている。
「お前……」
一歩近づく。
その瞬間。
ふわり、と風が吹いた。
鈴の音。
リン——。
次の瞬間、女の姿は消えていた。
「待て!!」
駆け寄る。
だが誰もいない。
窓だけが開いている。
「……なんなんだ」
幻覚か。
疲れているのか。
だが。
畳の上には、小さな紙が落ちていた。
朔也は拾い上げる。
そこには、一行だけ文字が書かれている。
『地下を探して』
銀鈴の字だった。
桜ノ間の畳を調べる。
以前見つけた隠し箱の周囲。
すると。
床板に不自然な隙間があることに気づいた。
「……ここか」
力を込める。
ギギ、と音を立てて床が動いた。
地下へ続く階段。
冷たい空気が流れてくる。
「こんな場所が……」
朔也は提灯を手に、ゆっくり降りていった。
地下は思った以上に広かった。
埃だらけの部屋。
古い木箱。
そして。
壁一面に並ぶ、大量の帳簿。
「これは……」
全部、取引記録だった。
遊女の売買。
裏金。
人身売買。
吉原の裏側、その全て。
「狂ってる……」
その時。
提灯の火が揺れた。
ゾワ、と背筋が冷える。
気配。
誰かいる。
朔也は振り返る。
暗闇の奥。
そこに、人影が立っていた。
「誰だ!!」
低い声が響く。
だが、人影は動かない。
ゆっくり。
ゆっくりと前へ出る。
月明かりが差し込む。
その瞬間。
朔也の目が見開かれた。
「……お前……」
そこに立っていたのは。
銀鈴だった。
白い着物を纏い。
静かにこちらを見つめている。
死人のはずの女が。
確かに、そこにいた。
コメント
2件
えやばい、めっちゃうまい