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「いい式だったな、二次会も楽しかったし」
酒もまわって、いい気分だ。
タクシーを拾えるところまで杏奈と歩く。
「うん、授かり婚だって言ってたけど、まだ目立たなかったね。若いからお母さん業って大変だろうけど、幸せになって欲しいね」
「……だな」
どうやらそれは罠らしいぞ、ということは黙っておいた。
佐々木の面目のためというより、どうしてそれを知ったのか?何故佐々木に話さないのか?と訊かれたくないからだ。
「ここまで街中から離れると、月も綺麗に見えるのね」
立ち止まって夜空を見上げる杏奈の、顎から喉元鎖骨までのラインが、妙に艶めかしい。
いつもと違って見えるのは、酒のせいかこの月夜のせいか。
「あぁ、月を見上げるなんて、もう何年もしたことなかったな」
月を見ているフリで、色めいてる杏奈を見ていた。
「あ、タクシー来たよ」
タクシーに揺られて家に帰り着いた頃には、完璧に酔いがまわっていた。
眠気に襲われてソファに傾れ込んで、そのまま微睡んでしまった。
杏奈が何か声を掛けてきたのがわかると、唐突に抱きたくなり、強引に押さえこんだ。
「え、やだ、ちょっと、やめて!」
まただ、また拒否する杏奈。
でも今夜はどうしても抱きたい、それがあの月を見上げる杏奈を見たからか、酒のせいかわからないけど。
「いいだろ?今夜は圭太もいないんだし。久しぶりに濃厚なやつ、しようよ、ほら」
圭太がいない夜なんて、滅多にない。
なのに嫌がる杏奈に、苛立つ。
頭の中はいつになく興奮していた。
嫌がる杏奈を強引に押さえ込む。
「いやだってば!」
「よく言うよ、こういう強引なのが好きだってこの前言ってたじゃないか。嫌がるフリなんだろ?」
興奮し過ぎて失言した。
杏奈の抵抗が止まる。
_____しまった!
杏奈と紗枝が重なってしまったとは、口が裂けても言えない。
酔っているせいにしてなんとか誤魔化すしかない。
杏奈の顔を見ることができないまま、勢いに任せて果てた。
あまりにも深く満足してしまい、あとは記憶がない。
◇◇◇◇◇
朝方、目が覚めて隣のベッドに寝ている杏奈を見た。
こちらに背中を向けて、眠っている。
_____大丈夫だな
起こさないようにベッドを抜け出し、シャワーを浴び、また寝ようとした時、スマホが何かの知らせで光っていた。
「ん?なんだ?」
メッセージが届いていた。
《今日は楽しかったです。今度、舞花がお邪魔する時、私も行っていいですか?》
送り主は仲道京香だった。
これが違う女の子ならうれしかったが、佐々木に罠を仕掛けた舞花の友達だと知ったから、油断できないと思う。
酒の席で連絡先を交換してしまったことを少しばかり後悔し、返事はしなかった。