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その日から少しばかり、ギクシャクした空気が漂っていた。
それでも日常の暮らしを繰り返していくと、いつのまにか消え去っていく。
これが恋人同士ならばきっと、亀裂が入ってちぐはぐなお互いの感情に振り回されて別れることになるかもしれないけれど、結婚しているとそこには第三者も認める繋がりがあるから、簡単には別れることはない。
どちらからともなく、なかったことにして穏やかな日常に戻そうとする。
そういうところに安心できるから結婚というシステムは、いいと思う。
◇◇◇◇◇
佐々木と舞花の結婚式から、半月ほどが経っていた。
ぴこん♪とLINEが届いた。
《元気か?式はありがとうな。ハネムーンから帰ってきてやっと落ち着いたところだ。お土産があるから、近々、遊びに行きたいんだけど、都合はどう?》
〈ハネムーンは楽しかったか?都合?帰って杏奈にも訊いてみるよ〉
《おう。舞花も一緒に行くから、よろしくな》
〈了解〉
佐々木のことを罠にかけて自分の夫にした策略者の舞花。
結婚式の時は、ごく普通の可愛らしい花嫁にしか見えなかったが、女に怖い生き物もいるのだと記憶した。
それから数日後、佐々木と舞花がハネムーンのお土産を持ってやってきた。
「こんにちは、お邪魔します」
「おう、あがれ。ちょっと狭いけどな」
「おとーたん、だれ?」
「ん、圭太、あのなお父さんのお友達だよ」
「圭太ちゃん、はじめまして」
「あーい、これあげる」
圭太はお気に入りの新幹線のおもちゃを、舞花に渡した。
「ありがとう」
「こちらへどうぞ」
キッチンでお茶の用意をしていた杏奈も加わって、賑やかに話が弾んだ。
「これ、ノンカフェインだからどうぞ。それからクッキーは甘味を抑えて豆乳で作ってあるから」
「わぁ、ありがとうございます。杏奈さんってやっぱりとても家庭的なんですね」
「そんな、これくらいのこと」
少々大袈裟なくらいに褒めてくれるのは、悪い気はしないのだろう、杏奈も機嫌がいい。
「舞花も杏奈さんに色々教えてもらうといいよ。色んな意味で先輩なんだから」
佐々木が舞香と杏奈を仲良くさせたいのが、よくわかる。
杏奈が手作りのお菓子とお茶で、佐々木夫婦をもてなしてくれた。
杏奈の家庭的なところも舞花に見て欲しいと、佐々木は考えているらしい。
話していくうちに、話題が立ち合い出産のことになった。
佐々木はどうもそういうのが苦手らしく拒否していたら、杏奈が出産について力説(?)を始めた。
出産は命懸けだと熱く語っている。
「ほら、舞花さんのためにも立ち合ってあげてくださいね。そうしないときっと一生頭が上がらなくなりますよ」
「え?一生?それは困る」
佐々木が俺をチラリと見るが、俺は知らないふりをする。
「冗談ですって」
「ううん、舞花、一生隼人くんのこと、恨んじゃうよ」
「これは怖い奥さんになりそうだな、舞花ちゃんは。佐々木、気をつけろよ」
夫婦仲が悪くなるような火種を、わざわざ作る必要はいから立ち合ってやれよと目で合図をする。
「わかった、なんとかするよ」
「やった!杏奈さんのおかげです。やっぱり愛する旦那さんに付き添って欲しいですよね?」
「そうね、本当に命懸けなんだからね」
「あ、あんまりそれを言われると怖くなります。そうだ無痛分娩にしようかな、うん、そうしよう」
なんだかんだ言って、佐々木はもう舞花に押さえつけられてるように見える。
それからはハネムーンで行ったハワイのお土産話を聞いた。
杏奈はお茶のお代わりを用意してくれる。
「うわ、やっぱりベテランの奥様は違うんだ、お茶のお代わりが出てきた。舞花、こんなことできないかも?」
「そんなことないですよ、きっと。慣れればすぐ気がつくようになるし」
「そうかなぁ?あ、そうそう!私、杏奈さんに訊いてみたいことがあったんですよ、いいですか?」
「難しいことはわからないけど、どうぞ」
「簡単ですよ。あのね、もしもご主人が浮気したらどうします?」
「ぶっ!ぶはっ」
俺は思わずお茶を吹き出してしまった。
_____この新妻は、一体どんな話を杏奈にしようとしてるんだ?
舞花の隣で、佐々木の顔色も変わったのがわかる。
「あー、もう、ティッシュで拭いてよね!雅史!何の話だっけ、そうそう、もしも雅史が浮気をしたら?うーん、そうだなあ。それがどうやって私にバレたか?にもよるかな」
「えー、バレ方の問題ですか?」
舞花にとって、杏奈の答えは意外だったようだ。