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「レトさん?」
ハッと我に返って顔を上げると、たこ焼きを持ったキヨくんが俺を心配そうに見ていた。
「あ、ごめん…」
「何かあった?」
「なにもないよ、大丈夫」
「それならいいんだけど…」
片方を俺に差し出して、ゆっくりと歩き始める。そんなキヨくんの浴衣姿は本当に綺麗で、隣に並ぶのも気後れするほどだ。そりゃ、こんなイケメンオーラダダ漏れなら女の子たちの視線なんて独り占めだよ。男の子俺ですらいいなって思うくらいだもん、さっきの子たちみたいにさ…キラキラした雰囲気が似合うんだなって思ったら―
―俺なんて場違いじゃないかって思っちゃうよね。
「レトさんは浴衣着るの初めて?」
「うーん…覚えてないけど小さい頃着たのかも」
「じゃあ最近はないんだ」
「出掛けることがなかったからね、全然ないよ」
「そっか」
そう言ってふわりと笑っては
「黄色、レトさんの雰囲気出ててすごく似合ってる。いいね」
って言ってくれた。
「俺にそんなこと言ったって…褒め言葉はもっと特別な時に使うものでしょ」
「今日はだめかー」
「少なくとも俺に言うのは違うね」
「えー?」
少し不満そうにしながらも、ケラケラと笑っている。そう、このくらいゆるい感じが俺には合ってるよ。あんなキザな台詞言われなくたって、俺は俺なりに楽しめる。それが普通だと思っていた。
「あー…惜しい…」
お祭りの定番といえば射的。経験値がない俺は全然当たらなくて、唯一良かったところと言えば掠ったくらいのものだった。
「っしゃ、俺がやる!」
「キヨくんできるの?」
「任せろ!」
慣れた手つきで銃を構え、その視線の先に集中する。
すると、シュパッ、という音が聞こえたと同時に、マスコットが倒れているのが見えた。キヨくんは俺の方を見て、ニヤッと笑う。
「うわ!マジで取れた!」
「これ、レトさんにやるよ」
受け取ったものを見てみると、なんともひしゃげた表情の黒猫のぬいぐるみ。
「うわ…ぶさいく…」
「いいだろ取れたんだから!」
「まぁいいや、ありがと」
「ん」
もらったぬいぐるみは持ってきたポシェットにつけてみた。こうして見ると案外可愛いかもしれないな。
その後も俺たちは色んな店を見て回り、これでもかというほど食べ歩きをした。リベンジを掲げた金魚すくいでは、またしても一匹も取れず、ふたりとも残念な結果に終わってしまった。
空も暗くなり、笹がライトアップされている。短冊に願い事をするべく、入口に小走りで向かった。
To Be Continued…