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白山小梅
白山小梅
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「ね、ちなみにほとりちゃんって誰狙い?誰でもいいとか、居ないは無しね!」
ユカちゃんの唇に乗った、ネオンみたいなキラキラのラメが三日月を描いている。
柊以外なら誰でも!と、素直に言いたいけれど、ここは慎重にいかねば。
もしも意見が被れば、あたしとユカちゃんの間に引かれた境界線に、亀裂がはしる恐れがあるのを、重々心得ているからだ。
慎重に、慎重に。
「……ルイくん、かな?」
「そっか!カワイイ系が好きなの?」
どうやら、ユカちゃんはあたしの意見をお気に召してくれたみたいだ。
ひと安心を覚えてお手洗いを出ると、とん、と誰かにぶつかった。嗅いだことがある、甘ったるいにおいだった。
瞳が掴んだアッシュグレイの髪の毛。アイスブルーの瞳。あたしの目の前にいるのは、他人行儀を決め込んでいたあいつだ。
「大丈夫」
低く、気怠い声が耳を撫でる。こくん、と頷くしか出来ずにいれば、あたしの視界にふわっとした金髪が揺れた。
「柊くんは、二次会行くよね?」
「んー……俺は一次会だけの予定だったから、たぶん、行かない」
「えー?行こうよー」
チラッとユカちゃんが横目で見てくる。あ、ユカちゃん、柊狙いなのね?と、彼女のターゲットを察した。邪魔者は退散したほうが、穏便に済むらしい。
「ほとりちゃんはどうするの?」
波風立てずにいることを決めたって言うのに、あたしの思惑を知らない柊は平気で覆すので「え!?」と声がひっくり返る。
さっきから慌てすぎで、不審者登録をされないか非常に心配である。
「い、いきます、よ」
「ふーん。顔色悪そうだけど、大丈夫?」
「え?悪くないよ〜」
あたしへの質問をユカちゃんが返せば、すう、と自然なモーションで柊の手がこちらに向かってくる。思わず、目を閉じた。目尻あたりに感じる指の感触に、恐る恐るまぶたを上げる。
「目」
一文字だけを告げた柊は、ゆったりと目尻を拭った。
軽く見上げないと届かない視線。常々思っていたけれど、恵まれた長身は相変わらず憎たらしい。
見た目の麗しさよりも、四肢のバランスの良さよりも。あたしは柊の指先に目を奪われていた。
たまに、バスケ部の柊に誘われて、試合を見に行くことがあった。華々しい場所にいる柊の邪魔にならないようにとあたしは隅っこで見ていたけれど、柊の綺麗な指先が丁寧にボールを弾ませているのを見て、ひっそりとときめいていた。
「あ、ごめん。触って良かった?」
恋愛ってやつを未経験だったころは気づかなかったけれど、いま思うと、柊は色々やばい、気がする。
思考回路のどこかで、黄色い信号が点滅する。これ以上は危険だと、あたしに知らせている。
「平気、です!そ、れに、確かに酔ってるし、明日も学校あるし……二次会、行くのやめよーかな!」
「じゃ、俺たちは先に帰ろっか。二次会組がシラケる前に」
「は!?」
柊も、この会話で二次会に行く気にはならなかったようだ。なんてことだ。あまりの衝撃に、あんた何言ってんの!?と口を滑らせるところだった。危ない。
星が降ったのはあたしだけではなく、ユカちゃんも同じみたいで、心無しか笑顔が引き攣っている。
「え?え?帰るの?」
そうだよ、残った方がいいよ柊は。あたしは一人で帰りたい。ていうか、帰る。
「うん。ユカちゃん、内緒にしてくれるよね」
内緒?するわけないよ、部屋に戻ったら即報こ……
「出来るぅ。たまに連絡していい?」
出来るのかーい。え、ホウレンソウどこに行ったの!?
「返事ほとんど送らないけど、読みはする。それでもいいなら、いつでも良いよ」
なにそれ。なにかの懸賞ですか?当選したら返事くれるの?そういう仕組み?
「うんっ!じゃあまたね〜」
あたしの行く末を決めるのは、あまりに短いやり取りだった。居酒屋を出てすぐの大通りに停まっていたタクシーに押し込まれ「適当に、まっすぐ」と柊は運転手さんに向かって適当な指示を出すと、タクシーはゆっくりと発進する。