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白山小梅
白山小梅
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居酒屋の賑やかな空気から解放されて、狭いタクシーの中に入ると安心感からほっと息を吐き出す。しかしすぐに柊の甘ったるい香りが近付いて、高鳴る鼓動に困惑したのは意外に早かった。
「て、なんで柊と一緒のタクシーなわけ?」
「割り勘のがエコで良いっしょ。給料日前で俺いま金欠って知ってた?」
「知るわけないっしょ。てか、金欠なのに合コンは来るんだ」
「それな」と柊は怠そうに背中を凭れた。
「女側が一人増えたからって、強制参加させられた俺の話聞く?飛び入り参加にとばっちりくらって、良い迷惑なんですけど、その子、誰だろうねー?」
声だけは愛くるしいくせに嫌味ったらしく無表情で告げられ、慣れていたはずの、性格の悪さを垣間見る。
合コンに参加させられたのは、どうやらあたしのせいらしい。
愛想の良いオトナへと成長した柊はどこへ行ったのか、ツンと澄ました表情で見下ろされ、視線を逸らした。
気まずさがほんの少し戻ったタクシー内の空気。喉の奥にピンポン玉みたいな何かが閊える。
「で、でも!今日の女子のメンバー、良い子たちだったよね?可愛い子と飲めて良かったじゃん?」
「そうかな」
「そうだよ。見る目な」
「はいはい、無いですよ」
「ていうか、ユカちゃん、多分柊狙いだったのに、今あたしが柊と一緒にいるの良くない。柊は今すぐ下りて、二次会参加して!」
「は?だるすぎるし、金欠って今言ったろ。自分の首を絞めて二次会にいく理由がいっこも無いわ」
「お金くらいあたしが貸すから〜〜!」
「……てか柴崎、だいぶ酔ってるよな」
「え?わりと」
あたしもオトナなので、” 誰かさんのせいで”は付けなかった。
あたしの酔い状況を確認した柊は、背もたれから身体を離して、食い気味である。
「じゃあ言うけど、俺、遅れて来たじゃん。トイレ寄ったのね、先」
「うん」
「二人組の女が” 清楚そうにみえて慰めてもらいに合コン来るとかあざとすぎ “、て言ってたの、聞いてたわけよ。で、そいつが同じ個室に居てビビったよね」
柊が来る前に、離席していたのは……ユカちゃんとリサちゃんだ。
…即ち、あざとすぎな女は、もちろん、あたしのことだろう。
「それに、芽依ちゃん?黒井さん?が言ってたけど、柴崎、最短一週間で彼氏できるってまじ?」
「あー……あれは一回だけだよ。ていうか、ネタにされてたのね」
「いやいやネタなんて。別れた直後に合コンとか強いネって言われてただけだよ?」
「十分ネタじゃん。しかも、ついでに言うけど、そーゆーの萎えるから教えてくれなくても、平気です」
「そうですか。合コン中の柴崎、俺の事めっちゃ見てたから、会話が気になってるのかと思ったわけよ」
「自意識過剰すぎじゃん。てか、めっちゃ見てるあたしをよく見てたね?そっちがキモいんですけど」
「柴崎があまりにお綺麗になられてたので、つい」
沈んだり、浮かんだり。軽い言葉にでさえ、いちいち動かされる鼓動がうるさい。そろそろ鎮まってくれてもいい。
「…絶対、うそ」
「うそにしとけば」
他人事みたいに、あっさりとした口調で事実らしいことを告げられ、自分でも信じられないくらい、ユカちゃんに対する罪悪感が消えてった。
見下してくる相手に心を痛めるほうが馬鹿らしいや。
「ついでに言うと、男見る目もゼロな」
「酷すぎ。ルイくん、慣れてるふうだったけど、良い人っぽかったよ」
「へー。ルイは彼氏いるけど、それでも平気なタイプか」
「…………彼氏?」
「カレシ。あいつどっちも行けんのよ。大変だよ〜?」
「それは大変だ……」
あたしは女の子も男の子の見る目も無いらしい。無念。でも、ルイくんが心ここにあらずというか、無関心な線引きをされていた違和感を、なんとなく感じ取る。しっかりと思い出した。
あたしは柊の、こういうところが苦手だった。
気怠い雰囲気で他人に興味ありませって空気醸しながら、ひとたび口を開けばズカズカと入り込んでくるところ。
「まあそれもどうでもいいんだけど。俺、昨日バイト上がって、だらだらしてたら寝たの結局四時くらいになったわけよ」
柊がこちら側にもたれ掛かる。ちょっと、心臓に負担が掛かるけれど、あたしは表情をつくるのが上手なので、ツンと澄ます。代わりに、膝の上に置いた手を、ぎゅっと握りしめてみる。
「ごめん、それこそどうでもいいんだけど」
「じゃあどうでも良くない話をすると、少し休むなら俺ん家とホテルどっちにする」
「いやあの、究極の二択すぎるから、普通にあたしの家に帰る」
「今の柴崎にナビ機能搭載されてなくね?あ、そこ右で」
「ナビくらい出来るし!セブンの隣!」
「はいはい、セブンの横な」
「あと、近くにTSUTAYAもあるし、バイト先からも徒歩じゅっぷんだし、それにっ」
どくん!とアルコールの回った心臓が跳ねた。柊が、固く閉ざしたあたしの手の甲を、指でつうっとなぞったからだ。
反則技だと、主審にいいつけてやりたい。
でも、もちろん誰にも言えないので、代わって睨みつけてやると、柊は造形の良い目を半月に細めた。
「なあ、もしかして、俺が柴崎に手え出すと思ってる?」
” 知らない “
柊の言葉が、記憶の彼方に閉じ込めていた、美しくもない思い出と重なる。