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ーーそして、中生代(約2億年前)から未来へ。
「博士、本当にあの部隊を出動させるのですか?」
そう問いかけたラウアは、反重力駆動衣を身に纏っていた。
全身は装甲で保護されているが、頭部のみは露出しており、端正な目鼻立ちがはっきりと見える。髪は頭頂が淡い水色、毛先に向かって白へと溶けるようなグラデーション。上半身の装甲は胸元がV字に開いた構造となっており、機能性の中に妖艶さを帯びたデザインだった。
「ああ、もちろんだよ、ラウア君」
Dr.Jこと博士はそう言って、愉快そうに口角を上げた。
「光遡行α-A部隊には、“アレ”を回収してもらわねばならない。あれさえ手に入れば、我が国は救われる。やがては――このエイジア連邦国が、世界そのものを掌握することも可能になるだろう」
博士は、緩くパーマのかかった長髪を揺らしながら、視界に浮かぶホログラムを操作していた。右腕は精巧なメカニクス義手で、指先の動きに合わせて情報ウィンドウが展開される。
彼は空中から小型デバイスを取り出し、軽く放った。
そのデバイスは重力に逆らうように浮遊し、滑るようにラウアの前へと届く。
「博士……これは?」
「回収装置だ。空間収納技術が施されている。ただし、使用は一度きり。保管する対象は慎重に選びたまえ」
彼は肩をすくめる。
「もっとも、私はあまり期待していないがね。どうせ、回収対象は塵と化している可能性の方が高い」
デバイスは黒を基調とし、赤いラインが脈動するように光っていた。
だが博士は、それ以上の価値があるとでも言うように、両手を広げ語り始める。
「それよりもだ。私はこの惑星を“希望の星”へと変えられると確信している」
「ラウア君、“エネルギー記録装置”という概念を知っているかね?
それは物質ではなく、量子場の揺らぎそのものに情報を刻み、エネルギーとして保存する装置だ。文明、環境、歴史――無限とも言える情報をだ」
彼は愉快そうに笑った。
「エネルギーは劣化しない。時間にも縛られない。理論上は完璧だ。
……もっとも、現代の科学技術では実現不可能だがね」
ラウアは無表情のまま、彼の言葉を受け止めている。
「そこでだ。この情報エネルギーコアだが――これはあくまで“貯蔵庫”に過ぎない。情報を保管することはできても、処理には別の機構と莫大なエネルギーを要する。コストばかりが膨れ上がり、研究は何度も頓挫した」
彼は一瞬、遠い目をした。
「この惑星で生まれ、蓄積されてきた膨大な情報を、簡易かつ低コストで保存する方法など存在しない……そう思っていた。だが、ある時、気づいたのだよ」
博士は、指を一本立てる。
「最も長く、最も安定して情報を保存してきた存在――それは“生命”そのものではないか、とな」
彼の語りは止まらない。
「遥か昔、恐竜が支配していた時代。巨大隕石が地球に落下し、彼らは滅んだ。
その後、人類が進化の果てに誕生した……と、一般にはそう考えられている」
「だが私は違う見解を持っている。人類は、隕石衝突以前から存在していた。しかも、我々を遥かに凌駕する形で、だ」
彼はホログラムを操作した。
(黒いホログラムが展開される)
それはやがて、炭化した黒い球体へと変化する。
「これは、海底一万一千メートルで発見された物体だ。用途は不明。しかし、成分分析、AIモジュール測定、あらゆる解析の結果――私は確信した」
「これは生体核だ。我々が知る生体エネルギーと同系統の力を用いている」
彼は高揚した声で続ける。
「構造は我々のコアと似ているが、それは進化の収斂に過ぎない。ははは……驚いたよ。しかし、いくら解析しても“表層”しか読み取れない。内部へアクセスするための鍵が存在するのだろう」
「それがDNAなのか、あるいは別の何かなのか――まだ分からない。さらなる解析が必要だ」
彼はふっと笑った。
「もっとも、彼らは既に滅び去っている。文明の記録も、歴史も、今は深海の底だ。
生体技術という異なる進化の道を選んだがゆえに、隕石という理不尽に敗れた……皮肉な話だ」
「だが時代は巡る。深海探査が容易となった今、このコアは再び日の目を見る。これも必然なのかもしれないな」
「そして残念ながら――我々は、その“系譜”ではない」
一拍置いて、彼は不敵に笑う。
「だが、希望はある。極秘裏に開発してきた“光遡行システム”が、ついに完成したのだ」
「光遡行空間移動装置――長い年月、代々受け継がれてきた叡智の結晶だ」
「ふはははははは! 今日は実に良い日だ!」
「光遡行α-A部隊には期待している。回収が叶わずとも、君たちには果たすべき“役目”がある。――決して忘れるな」
(ハッ!)
反重力駆動衣にさらなる強化を施した、黒い装甲と多重デバイスを備える兵士たちが、一斉に敬礼した。