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帝国・ 夜。
皇城の外れ。
誰も来ない回廊。
月明かりだけが差し込んでいる。
静寂の中に一人。
リョウヘイは立っていた。
動かない。
ただ、じっと自分の手を見ている。
💚…らしくない
小さく呟く。
その手は、わずかに震えていた。
拳を握る。
止めるように。
💚命令は絶対だろ
自分に言い聞かせるように。
ラウールの声が頭に残っている。
『連れてこい』
短い命令。
それだけ。
それだけなのに、やけに重い。
リョウヘイは壁にもたれる。
目を閉じる。
思い出す。
湖。
最初に見たダイスケ。
あの時の顔。
あの時の声。
💚…っ
眉をひそめる。
(今さらだろ)
自分で吐き捨てる。
でも、次に浮かぶのは
別の光景。
レンの隣にいるダイスケ。
あの距離、あの空気。
💚…ああ
小さく笑う。
乾いた笑い。
💚ちゃんと選ばれてる
分かっている。
とっくに。
最初から。
それでも、捨てきれない。
感情が。
その時。
足音。
規則正しい靴音。
止まる。
🤍迷ってるの?
振り返る。
ラウール。
いつの間にかそこにいた。
リョウヘイはすぐ跪く。
💚…いいえ
ラウールは笑う。
🤍嘘だね
ゆっくり近づく。
足音がやけに響く。
🤍顔に出てるよ
リョウヘイは何も言わない。
ラウールは目の前に立つ。
見下ろす。
🤍ねえ、リョウヘイ
優しい声。
だが冷たい。
🤍君は何?
問い。
リョウヘイは即答する。
💚影です
ラウールは満足そうに頷く。
🤍そう、俺の影
少しだけ間を置く。
🤍影は光に逆らえない
リョウヘイの拳がわずかに強くなる。
その言葉が胸に刺さる。
だが、リョウヘイは顔を上げない。
💚…命令を遂行します
ラウールは笑う。
🤍うん
軽く肩に触れる。
その瞬間、リョウヘイの体が一瞬だけ硬直する。
まるで “縛られている”みたいに。
ラウールは囁く。
🤍期待してるよ
そして離れる。
背を向ける。
🤍壊さないようにね
🤍まだ“使う”から
足音が遠ざかる。
静寂が戻る。
リョウヘイはゆっくり立ち上がる。
呼吸が少し乱れている。
💚…くそ
小さく吐き出す。
壁を拳で叩く。
鈍い音。
血が滲む。
それでも止めない。
もう一度。
💚…なんでだよ
感情が漏れる。
💚なんで今さら
答えはない。
分かっている。
でも、止まらない。
しばらくして動きが止まる。
息を整える。
そして、ゆっくり目を開ける。
もう迷いはない。
いや、正確には違う。
迷いを押し殺しただけ。
小さく呟く。
💚…最後にする
誰に向けた言葉かも分からない。
💚これで終わりだ
影が揺れる。
足元から広がる。
その中に、沈むように消える。
その直前。
ほんの一瞬だけ顔が緩む。
💚一回くらい、選びたかったな
完全に消える。
帝国の闇だけが残る。
深夜の大公城。
静まり返った廊下。
誰もいないはずの空間に
“影”が揺れる。
音もなく、リョウヘイが現れる。
💚…久しぶりだな
小さく呟く。
そのもう以前の柔らかさではない。
任務の目。
ラウールの“影”としての目。
だが、ほんの少しだけ
迷いが残っている。
視線の先。
扉。
ダイスケの部屋。
手をかける。
開けようとするその瞬間。
中から微かな声。
🩷…レン
ダイスケの甘い声。
リョウヘイの手が止まる。
動かない。
中から小さな笑い声。
レンの声。
🖤まだ起きてたのか
柔らかい声。
リョウヘイの呼吸が止まる。
(…ああ。もうそういう関係か)
分かっていたはずなのに。
現実として突きつけられると胸が軋む。
それでも、任務は任務。
手に力を込める。
だが、開けられない。
代わりに静かに背を向ける。
💚…らしくないな
自嘲気味に笑う。
その時、後ろから声。
🖤誰だ
低い声。
振り返る。
レン。
すでに剣に手をかけている。
鋭い視線。
リョウヘイは軽く手を上げる。
💚そんな怖い顔すんなよ
レンの目が見開かれる。
🖤…リョウヘイ
一瞬の沈黙。
空気が張り詰める。
🖤何しに来た
即座に問い。
リョウヘイは少し笑う。
💚挨拶
レンの剣がわずかに抜かれる。
🖤嘘だな
🖤帝国の人間が夜中に来てそれはない
リョウヘイは否定しない。
沈黙。
そして言う。
💚…命令だ
レンの目が細くなる。
🖤ラウールか
💚ああ
短い肯定。
空気がさらに重くなる。
その時、扉が開く。
🩷レン?
ダイスケ。
眠そうな目。
しかし、リョウヘイを見た瞬間
固まる。
🩷…リョウヘイ?
その声。
その顔。
リョウヘイの中で何かが揺れる。
だが、押し殺す。
💚久しぶり
軽く笑う。
いつも通りに見せる。
ダイスケは一歩近づく。
🩷どうして…
その問いにリョウヘイは答えない。
代わりに言う。
🩷綺麗だな
ダイスケが戸惑う。
🩷え?
リョウヘイは視線を落とす。
婚姻の名残。
指輪。
💚ちゃんと、手に入れたんだな
ダイスケの胸が痛む。
レンが一歩前に出る。
🖤用件を言え
完全に遮るように。
リョウヘイはレンを見る。
その目は冷たい。
だが奥に熱がある。
💚連れてこいって言われた
静かに。
はっきりと。
ダイスケの呼吸が止まる。
レンの剣が完全に抜かれる。
🖤断る
即答。
一切の迷いなし。
リョウヘイは笑う。
💚だろうな
そして、少しだけ真面目な顔になる。
💚だから確認しに来た
💚お前がどこまで本気か
レンは一歩踏み込む。
🖤今すぐ消えろ
リョウヘイも一歩動く。
💚断る
空気が震える。
戦闘寸前。
ダイスケが叫ぶ。
🩷やめろ!
二人が止まる。
ダイスケは震える声で言う。
🩷戦わないで
リョウヘイはダイスケを見る。
その目が、一瞬だけ揺れる。
💚…お前は
言いかけて止まる。
本当は言いたい。
“来い”と。
“一緒に来い”と。
でも言えない。
代わりに違う言葉を選ぶ。
💚選べよ
ダイスケが息を飲む。
💚どっちにつくか
レンの空気が一気に冷える。
🖤ふざけるな
リョウヘイは続ける。
💚いずれそうなる
💚帝国か
💚公国か
💚それとも―
少しだけ間を置く。
💚自分か
ダイスケの心が揺れる。
リョウヘイは視線を逸らす。
💚…今日は帰る
レンは警戒を解かない。
🖤次はない
リョウヘイは背を向ける。
💚あるよ
小さく言う。
💚必ず
影が揺れる。
消える直前、一瞬だけ振り返る。
ダイスケを見る。
その目は、初めて出会った時と同じだった。
優しくて少し寂しい。
💚ちゃんと守れよ
レンに向けて。
そして消える。
静寂。
ダイスケの体が震える。
レンがすぐ抱き寄せる。
🖤大丈夫だ
低い声。
強い腕。
でも、ダイスケは分かっている。
さっきの言葉。
“選べ”
あれは脅しじゃない。
未来の確定だった。