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#インフルエンサー
「美玲さん、落ち着いてください。SNSの通知なんて、ただのアンチの仕業ですよ」
楽屋に飛び込んできたマネージャーの佐藤が、私の肩を掴む。
でも、その顔すら怪しく見える。
こいつ、さっきスタッフと何を見て笑ってた?
私の破滅を、裏で手伝ってるんじゃないの?
「触らないで!!」
私は佐藤の手を振り払い、ドレッサーの上にある化粧品をなぎ倒した。
高級な美容液の瓶が床で砕け、部屋中に甘ったるい香りが充満する。
「アンチの仕業? じゃああのハサミは何なのよ! 私の私物を持ってるなんて、スタッフの誰かが私の家に忍び込んだってことでしょ!?」
「それは……でも、美玲さんが持ってきたって現場のみんなは言っていて……」
「嘘よ! 全員嘘つき! 私を陥れようとしてるんだわ。あいつら、私が成功してるのが羨ましくて仕方ないのよ!」
私は鏡に向かって叫んだ。
鏡の中にいる私は、髪は乱れ
マスカラが涙で溶けてパンダのようになっている。
醜い。
こんなの、400万人が憧れる私じゃない。
「美玲さん、撮影を中断するわけには…監督も待っていますし、スポンサーへの違約金だって……」
「金、金、金!うるさいわね!!」
私は足元に落ちていたパンプスを、佐藤の顔面めがけて投げつけた。
角が当たったのか、彼の額から血が流れる。
それを見た瞬間、私の中にドロリとした快感が走った。
そうよ。これよ。
中学の時もこうだった。
逆らう奴には、こうやって「分からせて」やればいいの。
「いい? 私はこの映画の主役なの。私の言うことが聞けないなら、全員クビにしてやるわ!」
「あの気味の悪い監督も、ニヤニヤしてる若手俳優も、まとめて業界から干してやるんだから!!」
私は楽屋のドアを蹴破るようにして開き、廊下に出た。
そこには、次のシーンを待っていたスタッフたちが数人立っていた。
みんな、無言でスマホを構えている。
「何よ、撮ってんじゃないわよ!!」
私は手近なスタッフからスマホをひったくり、床に叩きつけた。
バキッ、と嫌な音がして画面が粉々になる。
「……あーあ。美玲さん、今の全部撮れてますよ」
背後から、あの監督の冷ややかな声がした。
振り向くと、彼はモニターの影から、ビデオカメラをこちらに向けて立っていた。
「……は?」
「今の罵倒、暴力、そしてその傲慢な顔。台本よりもずっと『いい画』だ。これこそが、僕が見たかった美玲さんの『真実』ですよ」
「ふ、ふざけないでよ!削除しなさい! 今すぐ!!」
私が掴みかかろうとすると、監督はひらりと身をかわした。
その時、彼の帽子の隙間から、一瞬だけ鋭い視線が見えた。
それは、私を憎んでいる人間の目だった。
中学の時、あの女を助けようとして私に返り討ちにされた、誰かの目に似ていた。
「さあ、後半戦です。次は───あなたが一番隠したがっている、あの『冬の日』のシーンを撮りましょうか」
監督の言葉に、私は金縛りにあったように動けなくなった。
廊下の照明がチカチカと点滅し
どこからか、あの女が泣きじゃくる声が聞こえてきた気がした。