テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
548
榎本くもり
6,007
すみじお
41
音舞 澪彩

790
ラスティ様が闇に飲まれて姿を消したあと、僕は必死に抵抗していた。
「スコル様だけでもお逃げください!」
「で、でも……ラスティさんが」
「彼はきっと生きています。信じましょう」
「そうですね。でも、せめてセインさんだけでも逃げてください」
そう言ってスコル様は、本を召喚した。
見たこともない分厚い本だ。
神聖な魔力を感じ、ただの本ではないことを僕は理解した。
「そ、それは……?」
「これは“世界聖書”です。不思議な力を秘めているんですよ」
「まさか!!」
「この本の力を使えば、セインさんを助けるくらいできるはず」
本から魔力が流れ始め、白い光が僕を包んだ。
優しく包まれるような感覚。
なんだか懐かしい匂い。
気づけば僕は知らない場所にいた。
「……こ、ここは?」
なにもない真っ白な空間だ。歩いても果てはない。なんなんだここは……!
『お困りのようだね、少年』
「!? だ、誰ですか!」
突如として声が反響した。
渋い男性の声だった。
警戒していると、その声の主は姿を現した。
『この世界に人間――いや、ハーフエルフがやってくるとはな』
目の前に白髪白髭の老人が現れた。賢人のような服装に身を包むエルフだ……。
「あなたは……?」
「ワシの名はヴァーツラフ・ズロニツェ。この聖書の住人でね」
「ヴァーツラフ!? 守護聖人様!?」
驚いた。
目の前にいるのは守護聖人と呼ばれる偉大なエルフ。ボロディン初代の“聖者”だ。
「驚いたかね、少年。ふぉっふぉっふぉ……いやしかし、来客とは非常に珍しい。ありえないと言っても過言ではない」
まるで珍獣でも見るかのように、守護聖人様は僕を観察した。まさか、こんな偉大な人に出会えるだなんて思わなかった。
そもそも、彼はもう数百年前にこの世を去っている。死んだと思われていた。なのに、ここにいた。
「ずっとこの世界におられたんですか?」
「その通り。ワシの肉体は滅びても、魂はこの世界聖書の中に留まった。だが、今までは魔王ドヴォルザークの力に押さえつけられ、自由がなかったのだよ」
「魔王ドヴォルザークの?」
「うむ。世界を混沌に陥れた恐ろしい魔王よ。だから、この世界聖書に封印したのだが、ヤツは機会を伺い、帝国の皇帝となったのだ。それからは分かるな?」
「ラスティ様、ですね」
「そうだ。彼が世界を救った。しかし、今また偽の聖者にしてダークエルフのトルクァートが世界の支配を目論んでおる」
「御存知だったのですね!?」
「当然だ。ワシは世界聖書そのもの。暇なのでな、外界をよく覗いでおるのだよ」
守護聖人様は、微笑みながらも手をかざし、目の前に椅子と机を召喚した。座れと言われ、僕は従った。
「あ、あの……守護聖人様。ラスティ様とスコル様を助けたいんです!」
「であろうな。だが、今のお前では無理だ」
「……力不足なのは重々承知しております。でも、それでも……僕は戦いたい」
「無論、ワシも黙って娘の不幸を傍観するわけにはいかん。そこでだ……セイン、お前を“真の聖者”として認めよう。この神器『グレイプニール』を受け取るがよい」
「グ、グレイプニール……! って、これ……ただのヒモですよ!?」
「見た目はただのヒモだが、これを巻きつければお主の力は十倍、百倍となろう」
……こ、こんなヒモで?
とてもじゃないけど、信じられない。
けど、守護聖人様がそう言うのだから……使ってみるしかない。
僕はグレイプニールを受け取り、腕に巻きつけた。
すると、力が湧き出るような物凄い魔力を感じた。
「……!?」
「そう、それこそがグレイプニールの力。聖者セイン、お前ならボロディンを救える。任せたぞ」
「ありがとうございます、守護聖人様!」
「では、そなたを外の世界へ還す。……ああ、そうだ。娘に……いや、なんでもない」
「伝えておきますよ! お父上様が見守っていると」
「……セイン、そなたの真っ直ぐな心は、まさに聖者に相応しい。さあ、行け……!」
再び光が僕を包む。
これでユーモレスク宮殿へ戻れる。
凄い力を手に入れた今の僕なら、トルクァートを倒せる……!
ラスティ様のお力になれるし、ボロディンだって救えるんだ。
この聖者の力で。
コメント
1件
読み終えました……! セイン、ついに"真の聖者"として覚醒したんですね……!✨ 守護聖人ヴァーツラフとの邂逅、まさかの展開で胸が熱くなりました。「ただのヒモ!?」ってツッコんじゃうセインの純粋さ、めっちゃ可愛いし、それを受け取って覚悟を決める姿にグッときました。 ラスティ様とスコル様を救いたい一心でここまで来たセインの成長が愛おしいです。 次でトルクァートとどう戦うのか、もうドキドキが止まらない……!🥀