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第7話「君にだけ、嘘をつけない」
放課後の校庭。
薄暗くなりかけた空に、星がいくつか瞬き始めていた。
文化祭の練習で残っていた類とゆいは、片付けを終えて並んで歩く。
「今日のリハ、すごかったね」
「そう? 僕はまだまだかな。君のツッコミの方が完璧だった」
「それ褒めてる?」
「もちろん。ツッコミって、舞台のバランスを支える主役だよ」
ゆいは思わず笑った。
でも、類の声はどこか柔らかく、
まるで言葉の奥に何かを隠しているように聞こえた。
二人で歩く帰り道。
校門の前で、類がふと立ち止まる。
風が、ゆいの髪を揺らした。
「……ゆい」
「ん?」
「僕さ、舞台ではどんな役でも演じられる自信がある。
でも──君の前だけは、うまく演じられないんだ」
心臓が跳ねる音が、静かな夜気に響く気がした。
「いつの間にか、君の反応を見て、
君の笑顔を探して、
君の一言で一喜一憂してる自分がいて……」
言葉を探すように、類は少しだけ視線を落とした。
その横顔は、どんな舞台よりも真剣だった。
「これ、演技じゃないんだ。
本当に、僕は──君が好きだよ」
ゆいの喉が、ぎゅっと詰まった。
何か言いたいのに、息がうまく吸えない。
だけど、見上げた先の類の瞳が、
冗談ひとつない真っ直ぐな光でゆいを映していた。
「……類」
やっと、声が出た。
震える声で、それでもしっかりと。
「私も……好き、だよ」
その瞬間、
類が少し驚いたように目を見開き、
ゆるく、優しく笑った。
「そっか。……ありがとう」
風が止まり、
星だけが二人を照らしていた。