テラーノベル
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激しい雨が去り、静まり返った病室。
ドアがそっと開く音が聞こえた。
入ってきたのは、葵だった。昨日飛び出していったはずの彼女は、目を真っ赤に腫らし、濡れた髪も気に留めない様子で、車椅子を僕のベッドの脇へと寄せた。
「……葵」
「謝らないで、瞬」
僕が掠れた声で言葉を紡ごうとすると、葵が僕の手をそっと包み込んだ。その手は冷たく、けれど驚くほど力強かった。
「私ね、昨日気づいたの。瞬が『足になれない』って苦しんでいたのは、私のことを誰よりも大切に思ってくれていたからだって。……私こそ、瞬の恐怖や痛みに寄り添えていなかった。ごめんなさい」
葵の温かい涙が、僕の甲にぽとぽととこぼれ落ちる。
「私の体なんて、どうなったっていい。瞬がここにいてくれるなら、声を聞かせてくれるなら、それだけで私は生きられるの。……お願いだから、一人で抱え込まないで。私に、瞬の痛みを分け合わせて」
彼女は僕の手を両手でギュッと握りしめ、ベッドに額を押し当てた。
毎日、毎晩。自分の限界なんて疾くに超えているはずなのに、彼女はこうして僕の手を握り、奇跡を祈り続けてくれていたのだ。
(ああ……僕は、何を恐れていたんだろう)
見えなくなった目。動かなくなった足。失っていくものばかりに囚われて、一番大切な葵の想いを見落としていた。僕たちは「目」や「足」の代用品として出会ったんじゃない。お互いの存在そのものを愛するために、ここにいるんだ。
「……葵」
僕は残された力を振り絞り、彼女の手を握り返した。
「ありがとう。……僕の手を、離さないでくれて」
「離すわけないじゃない。……最後まで、一緒だよ」
葵が顔を上げ、声の奥で小さく微笑んだ気配がした。
僕たちは未完成のまま放置されていた録音機を手に取り、静かにマイクに向かった。
途切れ途切れの息、震える声。けれどそこには、二人が生きた確かな証が、熱い色彩となって吹き込まれていった。雨上がりの窓から差し込む夕光が、僕たちの繋いだ手を優しく包み込んでいた。
コメント
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第8話、読み終わりました……もう、涙が止まらなかったです🥀 葵が「私の体なんてどうなったっていい」って言うシーン、本当にグッときました。自分を犠牲にしても瞬を想うその執着心、重くてでもすごく綺麗で。二人がやっと本当の意味で繋がれた瞬間だったんだなって。 「足になれない」って苦しんでた瞬の本心が、ちゃんと葵に届いてよかった。闇の中に咲いた一輪の花、そんな温かい気持ちになりました。次も読みますね🌙