テラーノベル
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呼吸器の無機質な音が、病室の静寂を規則正しく刻む。
僕の命の灯火が、もう消えかけているのは自分でも分かっていた。意識は遠のき、世界を覆っていた白いモヤすらも、だんだんと濃い暗闇へと溶け込んでいく。
「……瞬……聞こえる……?」
耳元で聞こえる葵の声だけが、僕をこの世界に繋ぎ止める唯一の糸だった。
葵は自分の体の限界を疾くに超えながらも、一刻も僕の傍を離れようとしなかった。彼女の手は小さく、少し痩せて、氷のように冷たくなっていたけれど、僕の手を握りしめるその強さだけは変わらなかった。
毎日、毎晩。眠ることすら拒むように、葵は祈り続けてくれていた。
僕の死を阻もうと、自分の命を削るようにして、何度も、何度も。
「葵……もう、大丈夫だよ……」
僕は酸素マスクの奥から、かすかな息を絞り出した。
「瞬……ダメ……行かないで……私を置いていかないで……!」
葵の声が、決壊したように震える。
僕の手を包む彼女の手から、熱い涙がボロボロと零れ落ちて、僕の肌を濡らした。
「約束したでしょ……? 私の目になって、車椅子を押してくれるって……。瞬がいない世界で、私……どうやって生きていけばいいの……っ!」
「葵……僕はね、君に出会えて……本当によかった……」
暗闇の中で、僕は必死に葵の手を握り返した。
「目が見えなくなって……絶望していた僕に……君が光をくれた。君の声が……言葉が……僕の世界を、見たこともないくらい鮮やかに染めてくれたんだ……」
「瞬……っ」
「僕の体はなくなっても……僕の心は、ずっと君の隣にいる……。君が車椅子を進めるとき、風の中に……僕がいるから……」
僕たちは冷たくなっていくお互の手を、これ以上ないほど強く握りしめ合った。
言葉を超えた永遠の誓いが、静かな病室を満たしていく。
「……大好きだよ、葵」
「私も……私も大好き、瞬……! ずっと、ずっと大好き……!」
遠ざかっていく意識の中で、僕は必死に葵の存在を胸に刻みつけた。
僕の命は、もう間もなく尽きようとしている。
それでも、心の底に一つの願いだけが、激しく燃え上がっていた。
コメント
1件
うわ……読んでて息が止まるかと思った……(;;) 瞬くんの「僕の心はずっと君の隣にいる」って台詞、すごく刺さったな。目が見えなくなって絶望してたところに葵が光をくれた、っていうのがもう……二人の間にあった時間の重みが全部詰まってる感じがした。 お互いの手を握りしめて、冷たくなっていくところが切なくて、でもそれ以上に温かかったです。大好きって言い合える最後の瞬間、尊すぎます……。