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コメコパァァン
───翌朝。
カーテンの隙間から、白い光が差し込む。
翠は、ぼんやり目を開けた。
天井。
見慣れた、自分の部屋。
一瞬だけ、何も思い出さない。
でも。
次の瞬間。
校舎裏。
動画。
血。
保健室。
みんなの顔。
一気に押し寄せる。
「……っ」
息が浅くなる。
今日は、学校。
正式対応が始まる日。
守られる側でいいって、言われた日。
なのに。
体が、重い。
布団の中で、指を動かそうとする。
動く。
でも──
起き上がろうと腹筋に力を入れた瞬間、
全身が固まった。
「……え」
心臓が、どくん、と大きく鳴る。
足が、鉛みたい。
呼吸が浅くなる。
「……行かなきゃ」
声に出してみる。
「大丈夫。
もう、終わった。
守られるんだから」
言い聞かせる。
でも。
玄関の音を想像しただけで、
胃がぎゅっと縮む。
教室のドアを想像しただけで、
視界が狭くなる。
「……無理」
ぽつりとこぼれる。
起き上がれない。
怖い。
昨日は、みんながいた。
保健室だった。
守られるって、言われた。
でも——
“教室”は、まだそこにある。
布団の中で、体を丸める。
震えが止まらない。
「……俺、守られるって言ったのに」
悔しい。
弱い。
甘えていいって言われたのに。
それでも。
足が、動かない。
コンコン。
ドアをノックする音。
「翠、起きてる?」
桃の声。
いつもより少し柔らかい。
翠は、返事をしようとする。
でも声が出ない。
喉が、締まる。
もう一度。
「翠?」
静かな足音。
ドアが、ゆっくり開く。
桃が、部屋を覗く。
布団の中で、小さく丸まってるすち。
目は開いてる。
でも、動いてない。
桃はすぐ気づく。
「……もしかして、動けない?」
怒らない。
焦らない。
ただ、確認する声。
翠の目から、涙がじわっと溢れる。
小さく、首を横に振る。
「……行きたいのに」
声が震える。
「体が、動かない」
それは、サボりじゃない。
逃げでもない。
本気で、動かない。
桃は、ベッドの横に座る。
無理に起こさない。
「いいよ」
一言。
翠は驚いて、桃を見る。
「今日は、行かなくていい」
はっきり言う。
「怖いのに無理して行くの、
それもう頑張りじゃなくて自傷だから」
強い声。
でも優しい。
翠の喉が、ひくっと鳴る。
「でも……正式対応……」
「正式対応は学校がやる」
ももは即答。
「翠の仕事じゃない」
沈黙。
翠は、ぽろっと言う。
「……俺、また迷惑?」
桃の眉がぴくっと動く。
「次、迷惑って言ったら本気で怒るから」
低い声。
でも震えてる。
「昨日、何聞いてた?」
翠の頬に、そっと触れる。
「守られる側になってって言ったじゃん」
その瞬間。
また涙が溢れる。
「……怖い」
小さく、でもはっきり。
桃は、静かに頷く。
「うん。怖いよな」
否定しない。
「じゃあ今日は、怖い日でいい」
無理に強くしない。
「怖い日は、家でいい」
翠は、ぎゅっと布団を握る。
「……みんな、行く?」
「赫は保健室。
黈と瑞は教室まで行くけど、
危険があればすぐ戻れるようにする」
桃は続ける。
「茈も今日は遅らせる」
翠が、目を見開く。
「え」
「翠を一人にしない」
即答。
その言葉で。
翠の体の強張りが、少しだけ緩む。
まだ動けない。
でも。
“置いていかれる恐怖”は、消えた。
桃が、ぽんっと頭を撫でる。
「今日はさ」
少し笑う。
「起きれただけで満点」
翠の喉が、また鳴る。
「……ほんとに?」
「ほんと」
ゆっくり、深呼吸。
まだ怖い。
でも。
一人じゃない。
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