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雪緒がレジの客を捌いている間に、雇われ店長――穂乃里が注文の品をテーブルに運び、手が空いた雪緒が食器を洗い――30分後に、ようやく落ち着いた。
「はぁー助かったよぉお雪緒ちゃん。座って。何飲む?」
カウンターの椅子について、雪緒は一息つき、
「ブレンド。濃いめで」
「了解ー。トースト付けるよね」
「うん、バターで」
「はーい。お待ち下さい」
小首を傾げて穂乃里が言う。
どんなに店が溢れかえっていても、ふんわりと可愛らしい雰囲気に包まれている。
その穂乃里の雰囲気が、この店の人気の理由でもある。
「バイトの子、どうしたの?」
バッグからスマホを取り出しつつ、カウンター奥で作業している穂乃里に尋ねる。穂乃里は苦笑いして、
「すみませぇーん、熱出ちゃってーって、電話来てた。後ろに電車の音したから、寝込んでるわけじゃなさそう」
「またか。困ったね」
「病院に行くとこだったかも、知れないけどねぇ」
「そんなわけないでしょ」
バイトの子を厳しく叱る穂乃里は想像できない。
叱ったところで、迫力が足りなくて効果もないだろう。
穂乃里の華奢な背中から目を逸らし、雪緒はそろそろとスマホを見た。――やっぱり。高見からの着信やメッセージがたまっている。深々とため息をつく。
あれだけ飲んでも、意識はしっかりしていた。全て覚えている。
これまで、酒で意識が飛んだことはない。
だから、昨日のこともつぶさに覚えている。
――夫の弟……郁に言われたことも、全部。
『雪緒さんって割と軽いんだね。意外』
『兄貴を捨てて、半年も経たないで他の男とヤレちゃうんだ』
キツい。キツいな。
この言葉が頭で繰り返されて、昨日は眠れなかった。
何がキツいって……それを言ったのが、真と同じ顔だったということ。
そして、誤解があるということ……。