テラーノベル
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風呂場から出ると、
廊下の空気が少し冷たかった。
らんはタオルで髪を拭きながら歩く。
ドアの向こう、
リビングの光が見える。
(……いるま)
いる。
それだけで、
足が止まらない。
リビングに入る。
いるまはソファに座っていた。
テレビはついてるけど、
ちゃんと見ていないのが分かる。
スマホを持ったまま、
時々画面から目を離している。
「……あがった」
らんが言う。
「ん」
短い返事。
でも、
それだけで十分だった。
らんは少し迷って、
ソファの反対側に座る。
前より、
少しだけ近い位置。
でも、
まだ触れない距離。
ドライヤーをかける。
ブォォォという音。
その音の向こうで、
視線を感じる。
(……見てる)
直接じゃない。
でも、
ちゃんと、
“そこにいる”って確認する視線。
ドライヤーを止める。
静寂が戻る。
その瞬間、
いるまが立ち上がった。
らんの心臓が少し跳ねる。
(……なに)
何か言われる?
離れろって?
邪魔って?
体が、
ほんの少しだけ固まる。
でも。
いるまは、
らんの横を通り過ぎて、
棚の前で止まった。
タオルを一枚取る。
そして、
らんに向けて投げる。
「使え」
短い一言。
らんは反射的に受け取る。
「……え」
見る。
柔らかい、
まだ新しいタオル。
「濡れてんだろ」
いるまは、
それ以上説明しない。
またソファに座る。
(……覚えてた)
自分のタオルが、
さっき濡れてしまったこと。
ちゃんと、
見てた。
「……ありがと」
小さな声。
「……ん」
テレビを見たままの返事。
でも、
耳が少し赤いのを、
らんは見逃さなかった。
らんは、
そのタオルで髪を拭く。
柔らかい。
少し、
あたたかい気がする。
そのまま、
また座る。
沈黙。
でも、
前みたいな、
逃げたい沈黙じゃない。
外で風の音がする。
窓が、
かすかに揺れる。
「……寒い?」
らんが聞く。
無意識だった。
いるまは少しだけ驚いた顔をして、
「……別に」
と答える。
らんは、
少し迷ってから、
立ち上がる。
クローゼットから、
もう一枚毛布を持ってくる。
そして、
ソファの端に置く。
「使って」
いるまが、
その毛布を見る。
らんを見る。
少しの沈黙。
「……お前が使え」
「俺は大丈夫」
「……」
数秒。
いるまは、
毛布を手に取る。
でも、
自分じゃなくて、
ソファの真ん中に置いた。
ちょうど、
二人の間。
「……ここ」
短く言う。
「寒いなら使え」
共有。
どっちのものでもない、
真ん中。
らんは、
ゆっくりうなずく。
「……うん」
毛布の端を、
少しだけ握る。
いるまも、
反対側を、
少しだけ握る。
触れてはいない。
でも、
同じ毛布。
同じ温度。
テレビの光が、
二人を照らす。
誰も、
何も言わない。
それでも、
ちゃんと分かる。
ここにいる。
一緒にいる。
同じこの地球で、
同じ屋根の下で、
同じ夜を過ごしている。
二人の境界線の間、
その線の上に、
同じ毛布がかかっていた。
本当はこれで完結しようと思ってたけど、ちょっとかんけつできへんや
コメント
1件
この、表現、最後の、はい好きです(?)