TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する




黙秘権というのは、この場合使用可能なのだろうか。

出来れば言いたくない。というか、いったら、言ったで誤解を生みそうで嫌だ。

彼に対して黙秘権を使えるのなら、使いたいところだが、うんとも、はいとも言わないといけないぐらいに睨まれているため、私は萎縮してしまっていた。

満月の瞳をこれでもかというぐらいに細めて睨んでいる、目の前の紅蓮にどう言い訳をするべきかと。


「んで? なんでお前はラヴァインと一緒にいたんだよ」

「な、なんで、一緒にいたとか思うのよ。何も言ってないじゃん」

「匂いか?」

「何よ、その犬みたいな!」


アルベドはこてんと首を傾げてさも普通であるかのようにそう発言した。匂いで分かってたまるものかと思ったし、そもそも一緒にすんでいないっぽいのに、匂いが同じなわけない。いつも一緒にいれば相手の匂いが分かっても何となく流せるのだが、今回はそういう風に流すことは出来なかった。

だが、アルベドは鋭い。

私は、言い訳を考えることを頭が放棄したため、これはもうはなした方がいいんじゃないかと口が開きそうになった。


(いいや、でも矢っ張り面倒くさいことになるんじゃ!)


そう思って、開きかけた口は閉じてしまう。


「匂いっつっか、魔力の痕跡。お前、転移魔法彼奴に使われただろう? その時の魔力が残ってんだよ。鬱陶しい」

「し、知らないわよ!」


鬱陶しいなど、私だってあそこで彼に会うとはおもっていなかったため、何というか完全に私に当たるのは違うと思った。でも、アルベドは私に残っているラヴァインの魔力が鬱陶しいと嫌そうに眉をひそめていた。

だが、これはどうしようもない。


(魔力って残る物なんだ……)


私は、未だよく分かっていない此の世界の魔法について感心しつつアルベドを見た。アルベドは、椅子に座ったまま私を見下ろしている。私は萎縮して正座してしまったが、もう立ち上がっていいのではないかと思った。ドレスも汚れるし。


「マーキングされてんじゃねえよ。つか、彼奴ほんと嫌がらせするよな」

「……ま、マーキングって…………わ、私だって色々あって、偶然会っちゃっただけで。会いたいなんてこれっぽっちも思ってないんだけど」

「俺には?」

「ん?」

「いいや、何でもない。で?なんでここに来たんだよ。というか、飛ばされたんだよ」


一瞬訳の分からない質問をされた気がして聞き返したが、彼は何事もなかったようにスルーして、話を戻した。

私は、事の経緯をアルベドに話した。彼は真剣に聞いてくれて、「そりゃあ大変だったなあ」と、少し言葉は鈍っていたが、本気で心配してくれているようだった。私とリュシオルの仲の良さを知ってのことだろう。数回しか会ったことないのに、良く覚えていると思った。


「つか、北の洞くつにいったのかよ」

「だって、万能薬がないと、解毒できなかったわけだし」

「いーや、そういう問題じゃなくてだな……確かに、あそこにしか生えてねえし、闇魔法の奴らでもあそこにいる大蛇を倒すのは難しいだろうな」

「え? でも、ラヴァインは一発で……」

「彼奴は、そこら辺の魔道士とは違うんだよ」


と、アルベドはすぐに私の疑問にたいして答えを言った。

北の洞くつがそこまで危険だとは思わなかったわけではないが、アルベドも危険だというぐらいなので、それはもう危ないところだったのだろう。確かに、そんな危険な場所に、私とブライトだけでいったといえば、驚かれると思う。無謀だったとも思うし。

けれど、闇魔法の魔道士でさえあの闇の中で大蛇と戦うのは難しいというのに、ラヴァインは一発で倒したのだ。アルベドに話を聞く前だったら、闇魔法の魔道士なら倒せるのでは? と思ったが、実際そうではないらしい。

単純にラヴァインが強いと言うことらしい。


「つっても、何かポーションでも飲んでいったのかも知れねえし。彼奴でも、手こずりはしないが、一発で倒せるなんて事はないだろうからな。だが、強いのには変わりねえ」

「そんなに?」

「ああ、一応俺の弟だしな」

「そう……」


自分の弟だ。と明言した割には、あまり嬉しそうなかおをしていなかった。アルベドとラヴァインの仲の悪さは知っているし、彼も彼で弟のことを兄弟だとは、家族だとはもう思っていないのだ。

にしても、ラヴァインの強さはあっかんだった。


「アルベドと、どっちが強いの?」

「ああ? そりゃあ、俺に決まってんだろう」

「なら……いいや、それなら良かった」

「何が?」

「アルベドか、ラヴァインか選んでって言われて……選んでくれたら味方についてくれるってラヴァインが言ったから。まあ、初めから選ぶつもりも何もなかったけど、でも、強いアルベドが味方でいてくれて本当に良かったなって思って」


そう私が言えば、アルベドは驚いたように目を丸くしていた。変なことを言ったつもりはなかったのだがと見上げていれば、アルベドはフッと笑った。

ピコンと機械音が鳴り響き、彼の頭上の好感度が1上昇する。99%と100%にちかい数字をたたき出しており、もう間近に迫った100に私はただ呆然とその数字を眺めていた。

100%になったからといって何かが変わるわけではない。このゲームのクリア条件は、攻略キャラと結ばれる事……あるいは、混沌を倒すことにある。それも、厄介なのがエトワールストーリーはこちらから告白しなければならないらしい。ゲームであれば、選んで勝手に告白してくれたり、ヒロインストーリーであれば、選んだ攻略キャラが告白してくれたりするのに。全く難しいゲームである。


「何処見てんだ?」

「別に……部屋のシャンデリア?」

「珍しいものでもねえだろう」

「……聖女殿壊されちゃったし。まあ、皇宮のよりかはあれだけど」

「そうか」


アルベドは同情するように俯いた。

このはなしも先ほどしたが、私がもう一度それを口にしたので、彼はすまなかったとでもいうような、申し訳ない顔をしていた。


「ううん、いいの。別に気にしないで! それより、ほんとラヴァインには迷惑してるんだから」

「あー彼奴の性格なあ……」

「でも、アルベドと女の趣味は一緒だー! って言ってたよ」

「はあ?」


地雷だったか。

私は、顔を引きつらせて、「だったと……言ってた気がする、聞き間違いかな。あはは」と誤魔化そうとしていたが、アルベドの顔はみるみるうちに険しくなっていった。弟と一緒にされるのが嫌だったのか、単純にラヴァインの話が嫌だったのかはわからない。私はすぐさま話題を変えようとしたが、アルベドは「かも知れねえ」と口を開いた。


「へ?」

「何でもねえよ。『兄弟』だから色々と似てるのかも知れねえって話だ!もう、これ以上聞くな」

「わ、分かった……でも、似てると言われれば似てるかもだけど、髪色と瞳の色はアルベドの方が綺麗だと思うけど」

「エトワール?」

「何?」

「本気でいってんのか?」


と、アルベドはピタリと動きを止めて私を見た。私はまた何か余計なことを言ったのかと身構えていれば、アルベドは立ち上がり、私の方に歩いてきた。逃げようかと思ったが、金縛りに遭ったように動けず、正座したままただただアルベドを見上げることしか出来なかった。

彼は私の目の前まで来るとかがみ、視線を合わせ私の顎を掴んだ。


(へ、へ、へ!? き、キスされる!?)


馬鹿みたいに、少女マンガ思考になってしまい目を瞑れば、顎を掴んでいたはずの手が、指が私の唇をなぞるだけだった。ゆっくりと目を開ければ、真剣な表情で私を見つめているアルベドの顔が至近距離にあり、思わず投げ飛ばしそうになった。出来るわけ無いのに。


(黙っていれば、本当にイケメンなのに)


乙女ゲームの攻略キャラなんだと、改めて実感した。口を開けば、汚い言葉と冗談しか言わない男なのに、黙っていれば本当に絵になるというか、少しこのみの顔をしている。


(といっても、私はリース様一途なんだけどね!)


私は、自分の中で慌てて一番を訂正しなおし、アルベドを見た。何も言わないものだから、私から何か言った方がいいのかと考えていると、彼はフッと口の端をあげた。


「何だよ。キスして欲しそうな顔しやがって」

「してない! というか、キスとか安くないから!」

「もう、一回は貰ってるけどな。タダで」

「不意打ちだったじゃない。てか、アンタらキス魔なの? 本当に安くないからね? 他の令嬢とかにもやってんじゃない?」

「やるわけねえだろ。俺が好きなのは……」

「好きなのは?」


そう聞き返すと、アルベドは私から手を離し立ち上がって、その紅蓮の髪をむしった。

苛立ったように、でも耳まで真っ赤で少し可笑しかった。


「あーああ! もう、何でもねえよ。つか、お前帰らないと心配するだろうが、あの皇太子とか、ブリリアント卿とか!」

「でも、帰る手段がない……」

「んなの、俺を頼ればいいだろうが」

「え?」

「えって何だよ。お前が、俺の事『一番』信頼しているって言ったじゃねえか。なら、頼ればいいだろうが」

「あ、うん」


あれ? デレた?

そう思いつつ、私は耳まで真っ赤でこっちを一向に向いてくれないアルベドを見つめた。彼は、恥ずかしそうに何度も頭をかいていたが、あまりからかうとまた怒りそうな気がして口を閉じた。


(そっか、頼ればいいんだ……)


改めて、頼る。ということを実感して、いざ他人を頼るってこんなのなんだと、私は思った。何せ、これまで人を頼ったことがあまりないため、こういう時に人に頼ればいいんだってアルベドが教えてくれたような気がする。

対等な関係で、頼ると言うことを。


「じゃあ、アルベド……『頼って』いい?」

「当たり前だろ、聞くな」

「え~」

「……ッチ。ほら、手ぇ出せ」


と、アルベドに指示され私は彼の手のひらの上に自分の手を乗せた。黒い手袋越しにもその体温が伝わってくるような気がして少し恥ずかしかった。

そうしているうちに、アルベドは詠唱をとなえ、真っ赤な魔方陣が私達の足下に浮かび上がる。彼に魔力を吸い取られているような感覚もあり、闇魔法と光魔法の違いも再度認識する。


「意識、飛ばすなよ?」

「誰が、これぐらいでとばすもんですか」


ニヤリとアルベドが笑ったのと同時に、私とアルベドは皇宮近くまで転移した。


乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

42

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚