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「ぜーったい、絶対黙ってたよね」
「分かったから、引っ張んなよ」
皇宮近くまで、というか門の前まで転移した私達は、打ち合わせ通り、門をくぐった。
アルベドのマフラーを何度も引っ張ったため、彼は苦しそうに顔を歪めていたが、彼が余計なことを言わないようにと何度も釘を刺したのだ。
私がラヴァインとあったことは秘密。そして、助けたのはアルベドということにしようと、話を合わせてと頼んだのだ。ラヴァインと一緒にいたなど知られたら、またリースが怒ってしまうだろうしそうでなくとも、彼は敵で、彼に助けられた……ということが広まったら可笑しな事になると思ったからだ。かといって、アルベドに助けてもらったと言ってリースがいい顔をするとは思わないけれど。
(関係無い、関係無い。なんでリースの機嫌のことばかり考えてるのよ)
思えばそうだ。リースの事を第一に考えていることは可笑しいことだと。可笑しくないかも知れないが、彼の機嫌を取ることがそこまで重要ではない。ただたんに、私が彼に嫌なかおをして欲しくないと思ったからだ。私情が交ざっている。ダメだ。と、私は首を横に振った。
「いい? アルベド」
「わかーった。分かったから、一旦離せ。伸びるだろ」
「また、新しいの買えば良いじゃない」
「そういう問題じゃねえよ」
私は、それまでずっと引っ張っていたアルベドのマフラーから手を離し、呼吸を落ち着かせることにした。私より何度も息を吸って吐いてと、アルベドは繰り返していた。よっぽど苦しかったらしい。だが、そんなことを気にしている余裕などなかった。
皇宮の正面玄関から、リースがこちらに走ってくるのが見えた。その後ろにはルーメンさんがおり、彼はまたリースが一人走って行くのを止めようと必死なようだった。
「エトワール!」
再会早々、私をギュッと抱きしめるリース。アルベドがいることも、ルーメンさんがいることも忘れているのか、見えていないのか、私の体温を匂いを全て抱きしめるように、ギュッとその腕手私を抱きしめた。少し苦しいが、心配してくれていたのが嬉しかったこともあって、されるがままになっていた。
「よかった、無事で」
「うん、どうなるかと思ったけど、た……助けてもらって」
少し声がうわずった。
それを聞き逃さず、リースは顔を上げて、私の後ろに立っているアルベドを見た。アルベドの黄金の瞳とリースのルビーの瞳がぶつかったのを私は肌で感じていた。
相変わらず仲の悪そうなことで。
今すぐにこの場を離れたかったが、事情を話さないといけないし、そもそもにリースに離して貰えない状況だったため、諦めた。
「アルベド・レイ何故貴様がここに?」
「エトワールが言ったろ? 助けてもらったって。俺が、エトワールを助けたんだ」
と、アルベドが言えば、リースはすぐさま私の方を見て「本当か?」と真偽を確かめてくる。
リースの豹変ぶりというか、必死さに笑いが零れそうになったが、ここで先ほど打ち合わせたことと違うことを言ったら不味いと、落ち着いて、私は肯定の意味で首を縦に振った。
「ほんとだよ。大蛇をね、一発で倒して……って、ブライトは?」
私は、忘れていた人物の名前を口に出した。
色々あったせいで、逃がしたことをリュシオルを、と託した人物のことを忘れていたのだ。一番忘れちゃいけなかったのに。
(リースの様子からじゃ分からないけど……多分、ブライトなら大丈夫だよね)
大丈夫と言う確証が得られないのが辛かったが、ブライトなら大丈夫だろうという何処にも根拠のない自信があった。攻略キャラだからあんなことでは死なないと思っていたのかも知れないけれど、まあそれだけじゃなくて、彼なら……という安心感があった。
けれど、ブライトはあれだけ出血していたのに、大丈夫だったのか、今更ながらに不安にはなってきた。魔力はきれていなかっただろうけれど、かなり大けがをしていたし、薬草を届けられたのかも、今も気を失っているんじゃないかとも思った。
多分、大丈夫だと思いたい。
そんな風に、私が不安げにリースを見れば、リースも思い出したかのように顔を上げて口を開いた。
「ブリリアント卿なら――――」
「エトワール様、無事でしたか」
「ブライト!」
私の名前を呼ぶとともに、ふわりと花が舞うように現われたブライトは、私を見てあのいつもの優しい笑顔を私に向けた。頭には包帯を巻いているようだったし、上着も手を通していないことから、服の下に包帯が巻かれているのだと容易に予想がついた。まだ立ち上がっちゃいけないだろうに、無理してここにきた感が強くて何だか申し訳なく思った。
「ブリリアント卿大丈夫なのか?」
「はい。宮廷魔道士達にある程度は治癒魔法をかけて貰いましたし、大丈夫ですよ。殿下」
と、ブライトは頭を下げる。
リースは、大丈夫じゃないだろう。見たいな疑いの目を向けていたが、すぐに私の方に視線を戻した。最優先が私のは嬉しいが……いいや、別に嬉しいとはそこまで思わないこともないが、もっと周りを気にかけてあげても良いんじゃないかと思った。何というか、私以外には冷たい。後ろにいたルーメンさんも呆れて視線を逸らしていた。
「ブライト、本当に平気なの?」
「はい。エトワール様が、あの時転移させてくれたおかげで。少しでも遅かったらどうなっていたか分からないと、医師にも言われましたし」
「そ、それなのに、歩いて大丈夫なの?」
「え、ええ、まあ」
と、分かりやすく挙動不審になるブライトを見ていると不安になってきた。
だが、ここは仕方なく彼の言葉を飲んであげようと、私は咳払いをする。
大丈夫なら、生きているならどうにかなる。そう思って。
「それで、リュシオルは? 万能薬、届けてくれたんだよね」
「はい。気を失う前にしっかりと。今は、万能薬のおかげで解毒剤が作れ顔色も良くなっているようです。もう数時間すれば目覚めるかと」
「よかった……」
私は、ほっと息をついた。
ブライトが倒れていたら、リュシオルが死んでしまっていたら。沢山の不安から解放されて、私は倒れかかるようにリースにもたれ掛ってしまった。リースはそれをしっかり受け止めて、私の頭を優しく撫でた。
本当は心細かったし、怖かった。
大切な人が死ぬんじゃないかって事もそうだったけど、あの時不本意だが、ラヴァインが助けてくれなければ大蛇に殺されていたかも知れない。生と死の狭間に立たされて、そこで一人戦っていた自分を褒めてあげたい。
昔の自分じゃ考えられないから。
「それで、レイ卿は何故ここに?」
「ッチ……皆して、俺がいること不思議がりやがって」
ブライトがのぞき込むようにしてアルベドに尋ねれば、アルベドは大きく舌打ちを鳴らした。リースもルーメンさんは何も言わなかったが、皆アルベドがここにいることが不思議なようで、首を傾げていた。
まあ、そうなるだろう。だって、出発時にはいなかったし、ブライトが一緒にいたときに鉢合わせたわけでもないし。けれど、そんなに可笑しいことだろうか。
(いや、北の洞くつに一人で何のようもなしにいるのは可笑しいのかも知れないけれど)
あんな危険な場所に薬草とりか、魔法石ほりいがいにいく意味があるのかと言われればノーと答えるかも知れない。そういう意味で、なんでアルベドがいるのか気になったのだろう。
「だから、こいつを助けてやったんだよ。ブリリアント卿が、倒れて転移させられた後に」
そうアルベドが怒鳴れば、ブライトは「そうでしたか」と言ってアルベドに感謝を述べていた。だが、そのアメジストの瞳は疑うようにアルベドを捉えていた。
まるで「本当にそうなんですか?」とでも言うように。
「おい、ブリリアント卿」
「何でしょうか」
「俺は『本当』にこを助けたんだからな」
「はい、『そういうこと』にしておきましょう」
と、明らかにブライトは気づいたんだろうなという会話を繰り広げていた。
まあ、アルベドがさっき言ったように、魔力が残っているのなら、ラヴァインの魔力がまだ私の身体に残っているのだとしたら、光魔法の魔道士のなかでトップの貴族であるブライトが気づかないわけもなかった。どういう意図があって、私に本当のことを聞かなかったのかはさておき、彼なりの配慮と言うことにしておこうと私はそれ以上何も口を挟まなかった。
まあ、大方リースの前で言ったら面倒な事になることはブライトもアルベドも分かっているだろうし。
「でも、本当に無事で良かったです」
「ありがとう。ブライト。私も、すっごく心配だったんだから」
そういえば、ブライトは照れ笑いをしていた。
心配していたのは本当だ。凄く心配だった。私の無茶を聞いてくれて、私を守ってくれて、あんな傷を負って。心配しないはずがない。
そういう意味で、本当に良かった。と少し涙ぐんでブライトに近寄れば、ブライトは焦って私から距離を取った。
「え? 嫌だった?」
「そ、そうではなくて……その、周りの視線が痛くて」
と、ブライトは私の背後で嫉妬の視線を向けるリースや、何故か不機嫌なアルベドを見て苦笑いしていた。
「ブリリアント卿まさかと思うが、エトワールに惚れているんじゃないだろうな」
「い、いえ、そんな……いいえ、エトワール様はとても魅力的な方ですし、惚れていないといえば……う」
「ブライト?」
珍しくブライトが焦っているようで、私は首を傾げる。
ブライトは、言いにくそうに口ごもった後、咳払いをして話を逸らした。
「と、兎も角、エトワール様も無事で、エトワール様の侍女も無事で良かったです。ね、エトワール様」
「うん。ブライトの、皆のおかげで。ありがとう」
私は、ブライトとアルベド、そして心配してくれたリースに感謝を述べた。すると、皆嬉しそうにそれぞれの笑顔を浮べていた。ピコンとハモるように三人の好感度が上昇し、アルベドに関してはようやく100%になっていた。