テラーノベル
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#ヒトコワ
#仕事
#裏切り
「ママ、見て! 庭のチューリップが咲いたよ!」
陽太の明るい声が、朝日が差し込むリビングに響く。
直樹、高木、九条。
あの三人に実刑判決が下り
私の人生から「怯え」という名の固定費が消えてから、初めて迎える穏やかな朝だった。
私はキッチンで、1円の妥協もない、最高に贅沢な香りのコーヒーを淹れる。
かつての私は、この豆の値段を見ただけで動悸がしていた。
けれど今の私は、その価値を正当に評価し
自分への投資として「計上」できる強さを持っている。
私は、使い慣れた黒い手帳を開いた。
51ページ目。
今日から始まるのは、復讐の続きではない。
「真の再生」の記録だ。
◆◇◆◇
午前中
私は新しく設立した「S&Y自立支援財団」のオフィスへと向かった。
そこには、かつての私と同じように
夫のモラハラや経済的DVに苦しみ、逃げ出してきた女性たちが集まっている。
「詩織さん…本当に、私たちに投資してくれるんですか?私たち、何のスキルも、お金もないのに……」
一人の女性が、震える手で通帳を握りしめている。
私は彼女の目を真っ直ぐに見据え、静かに微笑んだ。
「お金がないのは、ただの『一時的なキャッシュフローの停滞』です。…あなたには、今まで家庭を守ってきた『忍耐』という巨大な無形資産がある」
「私はその資産を、一円の誤差もなく、社会で通用する『力』に変換するお手伝いをするだけです」
私は彼女たちに、直樹から叩き込まれ
皮肉にも私の武器となった「精密な計算術」と
九条から学んだ「冷徹な戦略」を、今度は「誰かを救うための知恵」として伝授し始めた。
一方、その頃。
冷たく湿った刑務所の独居房で、直樹は配給された冷めた食事を前に、虚空を見つめていた。
彼に許された唯一の娯楽は
私が月に一度だけ送ることに決めた「陽太の成長記録」の、文章だけの報告書。
写真は一枚も入れない。
声も聞かせない。
ただ、あの子が自分とは無関係な場所で、健やかに
そして豊かに育っているという事実だけを、文字というナイフで刻み続ける。
夕方
私は父の形見の万年筆を手に、新しいプロジェクトの契約書にサインをした。
それは、直樹たちがかつて食い物にした下請け企業たちを繋ぎ合わせ
一つの巨大な「誠実な企業連合」を作る計画。
「……お父さん。見てて。…あなたが守りたかった誠実な商売を、私がもっと大きな形で実現してみせるから」
私の家計簿は、もう一家庭の域を超え
社会の仕組みを書き換え始めている。
【残り49日】
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