テラーノベル
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#離婚
#ヒトコワ
#仕事
新しいビジネスの契約を終え
夕暮れのオフィスを出た私の前に、異様な悪臭を放つ人影が立ちはだかった。
ボロボロに汚れたコート、手入れのされていない白髪
そしてかつて私を「平民の娘」と見下していた面影を微塵も残さない、変わり果てた義母の姿。
「……詩織さん、お願い。助けて……」
地面に額を擦り付けんばかりに頭を下げる彼女の声は、掠れて聞き取りにくかった。
実家を差し押さえられ、親戚からも縁を切られた彼女たちは
直樹の隠し財産もすべて没収された後、文字通り路頭に迷っていたのだ。
「お義母様。……私に何か、支払い義務が残っていましたか?」
私は一歩も動かず、冷徹に問いかけた。
「そんなこと言わないで! 陽太にとっては、たった一人の祖母なのよ!少しでいい、あの子の教育費として貯めているお金から、私たちの生活費を融通して…!直樹だって、あの子の将来を思えば……」
「……笑わせないで」
私の声が、夜の街角に鋭く響いた。
かつて、陽太が熱を出して入院した時
付き添う私の食費すら『無駄遣いだ』と切り捨てたのは誰?
直樹が不倫旅行に行くための金を、私の生活費を削ってまで捻出させ
それを『妻の務め』だと笑って強要したのは誰?
「陽太の名前を、その汚れた口で呼ばないでください。…あなたたちが陽太から奪ったのは、お金だけじゃない」
「父親という存在への信頼と、平穏な子供時代よ。…その損害賠償額、あなたが死ぬまで働いても、1円も返せないはず」
「そんな……。私たちはもう、食べていくものもないのよ!死ねって言うの!?」
「いいえ…一円の助けも得られず、自分が踏みにじってきた『1円の重み』を、ゴミ拾いでもして噛み締めながら、長く、惨めに生き延びてください」
私はバッグから、一枚のチラシを取り出して彼女の足元に投げた。
それは、私が運営する支援施設ではなく
市役所の生活困窮者相談窓口の番号が書かれた、ただの紙切れだった。
「それが、私があなたに支払う唯一の『慈悲』です。……二度と、私たちの前に現れないで」
私は一度も振り返ることなく、迎えの車に乗り込んだ。
バックミラーに映る義母の姿は、まるで道端に捨てられたゴミのように小さくなっていく。
帰宅すると、陽太が学校で描いたという「将来の夢」の絵を見せてくれた。
そこには、私と二人で笑いながら、大きな船に乗っている絵が描かれていた。
「ママ、僕、大きくなったらママを守る船長さんになるんだ!」
「……ふふっ、船長さんになるの?楽しみだわ」
私は陽太を抱きしめ、心の中で静かに誓った。
あのアリ地獄のような一族の血を、この子の未来には一滴も残さない。
そのためなら、私は何度でも鬼になる。
新しい家計簿の「清算」の欄に、義母の名前を書き込み、太い線で消した。
これで、外の世界に残っていた直樹の残滓はすべて消えた。
【残り48日】
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