ある晴れた朝、都会の喧騒を背にして、オフィス街にひっそりと佇むカフェ『ヒノモト』がオープンした
カフェの扉を開けると、温かい香りと優しい店主が迎えてくれる
店主は会社員たちの顔を見ると自然と笑顔がこぼれ、忙しい日々に疲れた会社員たちは、カフェでのひと時を通じて心の安らぎを得る
今日もまた、個性豊かで賑やかなお客が集まり、彼の料理と交流を楽しんでいる
和やかな雰囲気に包まれたカフェはまるで第二の家のようになっていた
そんなカフェの日常を覗いてみよう
薄暗さの残る日の出の刻、閑静なオフィス街に響くノック音
小さな店の前には、片手に大きな紙袋を抱えたトリコロールの男が佇んでいる
返事を待たずして開けた扉がカランと鈴の音を奏でた
開店前の店内の厨房は賑やかで、予熱中のオーブンや沸騰する寸銅鍋、稼働中のスタンドミキサーが楽しそうにセッションしている
まるで、客である自分を歓迎しているようだ
愉快なBGMを奏する誰もいない空間へ、やあ、と声をかける
すると、カウンターの下からひょこっと日の丸が顔を見せた
「Bonjour!今日もいい朝だね」
「フランスさん!おはようございます」
穏やかな声音で挨拶をする彼はこの店の店主である日本
ふわっと微笑んだ笑顔がとても素敵だ
はあ…今日も可愛いな……いっけない、用事を忘れるところだった
「はいこれ、どうぞ」
気を取り直して、手に持っていた紙袋を差し出す
「ありがとうございます!いつも助かります」
中に入っているのは今朝焼成したばかりのフランスパン
袋を開けた瞬間広がる香ばしい小麦の香りに「いい香り…」と顔を綻ばせる
何度見ても見飽きない反応に、僕の顔も彼以上に綻んでいた
この至福の時間は、ある”契約”により産み出されている
僕の趣味の一つにパン作りがあり、週二回ほど自宅でパン・トラディショネル、日本でいうフランスパンを作っている
そのことを彼に話したら、言い値で買うので店用にも作ってくれないかお願いされたのだ
彼曰くモーニングのメニュー数が少ないので新しく追加したいが、設備と時間の関係上難しいとのこと
確かにパンさえあれば専用の設備や材料も要らないし後の作業量は少ない
個人経営であることを踏まえると、労力のかかる部分は外注するのが最善だ
そんな理由があるとはいえ、一常連客である自分に店のことを相談するだけでなく頼ってくれた
なんと嬉しいことだろう
元々、自分も何か日本の役に立てないかと思っていたし、まさにwin-winの関係だ
なので、お代はいらないから開店前の数十分を2人きりで過ごす権利が欲しいと言った
権利については、半分冗談でダメ元のお願いのつもりだった
なのに、彼は二つ返事で承諾した
これだけでも充分嬉しいのに、大切な物を頂くのにそれだけでは申し訳ないからと、彼の計らいでモーニング代がタダになった
そのため、パンを届けに行く日の朝は、こうして2人きりの空間でモーニングをご馳走になっているのだ
馴れ初めのような事の経緯を思い返しながら、うっとりする彼をニコニコと見つめる
だが、こちらの熱視線に気づかれたようで、恥ずかしそうに紙袋を両手で抱え厨房へ逃げ込んでしまった
「すぐ作るので少々お待ちくださいね」
あーあ。もう少し見ていたかったな
悔しい気持ちを追いやって、キッチンの様子がよく見えるカウンターへ座る
厨房からはコンソメの香りがふわりと漂っていた
テキパキと同時進行で作業を進めていく日本
落ち着く作業音を聴きながら、提供を待つ間、彼と世間話を楽しむ
この時間と彼の料理が、僕の1番の癒しだ
「ねぇ日本。浮世絵の展示が近くの美術館でやってるんだけど、週末に一緒に行かない?」
トースターにパンをセットした日本がこちらを向く
「フランスさん本当に浮世絵好きですね」
「うん、大好き!だって、あれを初めて見た時の衝撃は凄かったんだから!」
かつての西洋には無かった、独創的で自由な構図
鮮やかかつ繊細な色彩
巧みに表現された立体感
あの素晴らしさには、名だたる画家達が影響を受けるのもよく分かる
ペラペラと熱く語る僕を優しい眼差しで見つめ静かに話を聞く日本
時々共感するように相槌をうってくれるので、嬉しくてついヒートアップしてしまったようだ
気づけば近くから漂う暖かい空気
区切りのいいところで、少し冷えた手が僕の肩に触れた
「お待たせしました。続きは今度のお出かけの時に聞かせてくださいね」
楽しみにしています、と屈託のない笑顔を見せる彼
こちらの気を悪くさせないよう上手く鎮める所もなんとも好ましい
それ以上に、お誘いを承諾してくれたことに僕は気を良くしていた
丁寧にサーブされる明太フランスと卵サラダのプレートとコンソメスープ
明太子は自国にはない食材だったので、最初は戸惑ったもののやはり日本の食材。美味しくないわけがなかった
今では僕のお気に入りだ
日本から教わった食前の挨拶をして、メインを手に取る
いい焼き色のついたフランスパンの切れ込みからのぞく、鮮やかな赤色
リベイクしたてなのでしっかりと温かい
鑑賞も程々に、その真ん中へ齧り付いた
鼻腔を抜けるパンの香ばしい香り
噛むほど口の中に広がる濃厚な旨味
パンの酸味にピリッとした辛さがよく合う
たっぷり塗られた明太子だがパンの風味を邪魔しないよう絶妙に調整されている
なのにしっかり味は濃く、僕好みだ
外はサクサク中はもちっとしたパンに明太子のつぶつぶ食感が加わり豊かな食感を楽しめる
メインもいいが、そろそろサブも楽しもうか
スプーンを手に取って、それぞれを一口ずつ、ゆっくりと味わう
辛味を和らげる卵とマヨネーズのマイルドな味わい、野菜の旨味が詰まったシンプルなスープがいい口直しになり、飽きることなくそれぞれを楽しむことが出来る
見た目の彩りも良い上に栄養バランスまで完璧
流石は僕の日本。美食大国である僕を唸らせる素晴らしい食事だ
さらに美味しくなった自作のパンをもう一口齧る
うん、美味しい
自分が愛情込めて作ったものを美味しく調理してもらえるというのは作り手にとって何よりも嬉しいことだ
心を満たす美味しさと嬉しさで頬が緩む
自分でもわかる幸せな表情に、日本は愛おしいものを見る目をしていた
「ふふ、美味しいね。僕たちの愛の結晶は」
目の前のキョトンとした顔が可愛らしく傾く
「愛の結晶、ですか?」
「そうだよ。僕の愛をふんだんに込めたバゲットと、君の愛が詰まった料理。これを愛の結晶と言わずしてなんと言うんだい?」
口説きの意も込めた賞賛の言葉
鈍感な彼も、来る度に愛を伝えれば流石に学習したようで、口説きの意をしっかり受け取っている
伏せた瞼と赤みを帯びた頬がその証拠だ
「その表情、とても素敵だ。絵画にして手元に置いておきたい」
右手でスルリと、温かく滑やかな頬を撫でる
それに呼応して真っ赤に染まった顔が彼の手によって覆い隠されてしまった
「おっと、もうギブアップか」
「そろそろ慣れてくれないと困るよ。僕の愛はこの程度で収まるものではないのだから」
「ぜ、善処します…」
再び厨房の奥へ逃げてしまった彼
沸騰する脳を鎮めるため、黙々と作業をする姿を眺めながら食べ進めていく
平静を装おうと頑張る彼をスパイスに食べるパンはさらに美味しく感じた
美味しい料理ほど、いつまでも味わいたい気持ちと反対に、あっという間に食べ終えてしまうもの
すっかり空になった皿
食後の挨拶をして席を立つ
それと同時に作業音が止み、見送りの為日本が厨房から出てきた
「今回もとても美味しかった。ご馳走様」
「こんな素晴らしい朝食を独占できないことが残念だな」
「いくらでも作りますから、満足するまで食べていってくださいね」
「今はそれで我慢してあげるよ」
指先の淡く染まる、彼の右手をそっと握って口元に近付ける
「いつか、僕の為だけに腕を奮っておくれ」
掌にキスを一つ
続けて頬に挨拶のキスをしてドアノブに手をかけた
「À bientôt!君とのデート、楽しみにしているよ」
二人の間で、カラン、と音を立てて閉まる扉
ドアにかかる小さな看板をひっくり返してOPENに変える
東から射す太陽光、すっかり明るくなった空
僕の心境を表すような風景に口元が緩む
さて、デートにはどんな服を着ていこうか
数日後の楽しみに心を踊らせながらオフィスへと向かった。
コメント
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🇫🇷 🇯🇵 ってこんなにも 大人で えっちなんだ .. 🤔🤔 🇯🇵 の ウブウブな感じが 可愛すぎる 、すーぐ 顔 赤らめて .. 😡😡 いけない子 !!!! 🇫🇷 は 大人の余裕が 溢れ出てる 、.. 最後の 手の甲と 頬に キスを落とすのが また なんとも 素晴らしい .. 出発前に 神作品みれて 最高でした 、悔いは無い !!!!
かわいいいい😍照れ照れしてる日本くん可愛すぎる食べちゃいたい🤤今日お弁当作るために早起きしてたんですけど朝から語彙力が限界突破しているフラ日の新作を見れるなんて感謝感激感無量です!