テラーノベル
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時は昼時、短い影がぞろぞろと闊歩し急に活気づくオフィス街
この店も例外ではなく、店内は昼休憩の会社員たちで賑わっている
そんな中、突然やってきた爆音が注目を集めた
「Hi there!日本!会いに来たぜ!」
陽気な声の主はアメリカ
この店一番の常連客で、いつか店のドアを弁償することになる人物である
全くの無駄のない動きで目標を定めた彼は、案内待ちを確認するため厨房から出ていた日本の元へ一直線に近づき、ハグをかました
「いらっしゃいませ、アメリカさん!いつも言ってますが、ドアはゆっくり開けてくださいね」
腕の中にすっぽり収まった日本は驚くことも無く平然としている
お小言に対し頭上から返ってきたのは呑気な了承の返事と更なる力強い抱擁
幸せそうに日本を抱きしめるアメリカは好き好きオーラ全開で、蕩け落ちそうな程顔が緩み切っていた
「………あれ、本当にアメリカさんっすか?」
「恋ってのは人を変えるんだよ」
「そういうもんっすかね」
隅の席に座る新入社員の困惑に、彼の先輩が答える
そう。このアメリカという男、社内では『有能だが傍若無人で塩対応、他国と喧嘩ばかりしている人』と評価をされている
そのため、同じ会社の社員たちは初めて”あの姿”を見た時、本当に自分の知っているアメリカと同一人物なのか?と大層驚くのだ
まあ、毎日のように来店するからすぐに慣れたし、今となってはお昼時の恒例行事となったのだが……
そのことを知ってか知らでか、今日も彼は店主へと愛の言葉を贈る
「日本は今日もかわいいな、日毎に可愛さが増してる気がするぜ」
「はは、ありがとうございます。ご注文はいつものでよろしいですか?」
「Of course!よろしく頼むぜ」
緩んだ腕からするりと抜けた日本は厨房へ、アメリカは指定席と化しているカウンターの中央へ向かう
厨房の様子が一望できる唯一の席
どれだけ混雑していてもそこだけは”暗黙の了解”により空いている
上機嫌な席の主は悠々と着席した
アメリカの注文は決まって同じ
てりやきバーガーとウーロン茶、そして持ち帰り用のバーガーとコーヒーだ
本当はコーラにしたいようだが、日本にもっと健康に気を遣った方がいいと言われたので、妥協して日本が勧めてくれたウーロン茶にした
やめるべきは毎食ハンバーガー生活だと思うが、これだけは絶対に譲れないらしい
店内に拡がる蒸し焼き中の肉の香ばしい香り
その間にトマトとたっぷりのレタスをちぎりパンを切る
肉が焼けたら、そこにバンズをのせ、肉汁を吸い込ませつつ軽く焼き目をつける
慣れた手つきでハンバーガーをつくる様子をアメリカはニコニコと穴が空いてしまいそうな熱視線でみつめていた
(ここが俺ん家だったら……)
自分を中心に、段々と拡がるモヤ
木目調の落ち着いた店内はシックでシンプルなマンションの一室に変わる
いかにも飲食店といった厨房は、少し広いシステムキッチンに、ユニフォームは家庭用のエプロンへ変貌を遂げていた
仕事のない休日、同棲している家のキッチンで日本は二人分のパティを焼いている
ジュゥー、パチパチ、トントン
肉が焼け、油が弾ける音と、野菜を切る小気味のいい音
それらが奏でるリズムに日本の鼻歌が合わさり、愉快で華やかなハーモニーが形成される
これが幸せのメロディーか
ダイニングテーブルからキッチンを眺めていたアメリカは、誘われるかのように席を立った
火を止めて、焼けたバンズにパティと野菜を乗せる
上手くできたと喜ぶ日本の背後からアメリカは優しくハグをした
「わっ、アメリカさん!驚かさないでくださいよ〜」
「haha、照れちゃって可愛いな」
「気恥しさに慣れないんですって」
「これ以上に恥ずかしいこと、いっぱいしたのにか?」
首に残る紅い花へバードキスを落とす
昨夜の出来事を思い出したのか、日の丸が溶け込むほど顔を真っ赤にさせ、俯いてしまった
「ばっ、バカっ!アメリカさんの意地悪…」
「はは、悪かったよhoney」
「んもぅ……ちゃんとキスしてくれたら…許します」
「Hun…俺にとっちゃご褒美だな」
ゆっくりと触れ合う唇と唇
細く開いた黒の瞳がじんわりと熱を寄越す
角度を変えてもう一度口付けてやると、満足したのか目尻がふにゃりと緩んだ
向こうから離れていく熱
#いらすと
みたらし団子@イラコン@は?
16,011
アルミ
502
#いらすと
みたらし団子@イラコン@は?
11,610
もうすっかりいつもの日本に戻っていた
「じゃあ、お昼ご飯食べましょうか」
これ持ってってください、と手渡される自分の分のハンバーガー
そう、丁度こんな感じに……
「お待たせしました〜」
「…アメリカさん?ボーッとして、大丈夫ですか?」
パチンと弾けた妄想の世界
マンションの一室だった空間は元通りの姿に戻ってしまった
「あ…ああ、ちょっとな…」
「お疲れですかね、ちゃんと休憩は取らないとダメですよ」
「ん、そうだな。気をつけるよ」
気を取り直して、日本からハンバーガーのセットを受け取る
猫のマークが入ったラッピング紙に包まれる大きなハンバーガー
日本に教わった通り、手を合わせて元気に挨拶をする
「いただきます!」
大きく開けた口が、ガブリと齧り付く
口の中に拡がるバンズの豊かな小麦の香り、新鮮な野菜のシャキシャキとした食感
噛むほどにてりやきソースとマヨネーズが具材を彩ってくれる
そして、メインである肉汁溢れ出すパティ
分厚く食べ応えのあるそれは照り焼きソースと相性抜群で、甘みと旨味が波のように押し寄せる
毎日食べても新鮮に感じる美味しさにアメリカの目が輝いた
「うめぇ…日本の作るhamburgerは格別だな、完全に胃袋を掴まれちまった。もう他の店では満足できないぜ」
「お褒めいただきありがとうございます。アメリカさんはとても美味しそうに食べてくださるので私もうれしいです」
美味い美味いと食べ進める彼を、日本は幸せそうに、愛おしそうに見つめている
自分の作ったものでこれだけ喜んでくれる、というのが嬉しいのだろう、口の端についたソースをそっと拭ってあげる彼は、まるでアメリカの妄想の続きのようであった
10分も経たずに空になったテーブル
しかし、アメリカは退店しようとしない
いや、席を立とうとすらしていない
「なぁ日本聞いてくれよ〜親父がまたダークマター作ってさ〜」
「はは…それは大変でしたね」
「三枚舌のくせに味覚が正常なものは一枚もないとかおかしいよなぁ?いい加減メシマズなの自覚しろっての」
ペラペラと辞める気の感じられない会話を続けるアメリカ
対し、焦った様子の日本はただ、曖昧な返事と苦笑いを返すのみ
チラチラと目線を前に向ける入口には、案内待ちの人だかりができていた
「……間に合うかな、これ」
誰にも聞こえないくらいの小さな独り言
会社員のお客さんは休憩時間に来店しているため、勿論時間の制約がある
なので仕事に遅れさせない為にも、食べ終わったなら早く席を空けてもらいたい
でも…直接伝えるのは失礼にあたりそうだし、アメリカに遠回しな言葉は通じない
さて、どうしたものか…
いつものこととはいえ、困り果てる日本
その時、カランと入口の鈴が鳴った
入ってきたのはイタリア
待ちかねた様子で、嫌なほど冷めた目がアメリカを捉えている
「おいアメリカ、日本が困ってるんね。早く会社に戻れ」
「あ゛?俺に指図すんじゃねえよ」
会話を邪魔されて不機嫌なアメリカ
恫喝的な声に、近くに座っていた社員たちは震え上がる
しかしイタリアは臆することなく続けた
「イギリスがお前を呼んでいた。今すぐ向かうべきだと思うんだけど」
バチバチと睨みあう二人
痺れるような圧が店内を占拠する
いかにも険悪な空気にどう場を収めようかと巡る日本の思考
しかし、その必要はなかった
「………チッ、はいはい。今すぐ向かいますよっと」
大事な用事だと察したのだろう、アメリカは渋々帰る準備を始めた
席を立ち、大きめの紙袋を受け取って、カウンター越しに軽い抱擁をする
「じゃあな、日本。ご馳走様!」
そして、頬にキスを落としてから、See you again!と帰っていった
姿を隠すよう、静かにドアが閉まる
同時に、イタリアはすぐにハンカチを取り出して、日本の頬を拭った
「ぅむっ、ありが、とう、ございます」
「お礼なんていいよ、ioはただ業務連絡しただけなんね」
初夏の風を想わせる爽やかな笑み
愛おしさでいっぱいの笑顔にはもう、怒りの面影すら残っていない
「ドイツの説教が長引いて遅くなっちゃった。今日はあんまり時間ないしパスタを持ち帰りでお願いするんね!」
「ふふ、かしこまりました」
パスタ♪パスタ♪と歌いだすイタリア、それを優しく見守る日本
先程とは真反対な、なんとも微笑ましい雰囲気が包む
かくして、“いつも通りの一幕”が、仕事に戻る戦士たちとともに過ぎ去っていった
あれから数時間後の、空が黄色味を帯び始める夕方前
静かなオフィスに響く高速のタイプ音
音の方向には、数人分の仕事をものともせずこなしているアメリカの姿
突然、忙しない指先がピタリと止まる
そして、上書き保存を押し、スリープモードにしたパソコンを閉じた
「疲れたな……休憩でもするか」
机の下に置かれたバッグを漁って、手に取ったのは猫のマークがついた紙袋
昼にヒノモトで買っておいたものだ
中にはラッピング紙に包まれたバーガーとホットコーヒー
まだ温かいコーヒーのカップを手に取ってスリーブを確認する
それを見てアメリカは嬉しそうに微笑んだ
「いつ見ても可愛い字だな」
そこには手書きの文字で「今日もお仕事お疲れ様です!」と日本を模した丸い猫と共に書かれている
日本は持ち帰り用のカップに付けるスリーブに応援コメントを書くサービスをしている
しかもコメントは毎回違うもの
この優しい気遣いが疲れた心にじんわりと沁みるのだ
労いの言葉を充分堪能した後、汚さない様丁重にカップから外して卓上の箱へとしまう
また一つコレクションが増えたとご満悦だ
バーガーとコーヒーをペロリと平らげ、ぐっ、と伸びをする
「さーて、ラストスパート頑張るか」
気持ちの切り替えと共に解除されるスリープモード
完全に仕事モードになった彼は真面目にパソコンへと向き合った
コメント
12件
この話読んでたら無性にハンバーガーと明太フランス食べたくなった…主さん、このカフェはどこにありますか?
え、行きたい。何処にありますか?
私も日本が作ったハンバーガー食べたい……さっき食べたのにお腹空いてきた(深夜に食べちゃ駄目だろ)あ、でも今食べたら太るか…………もう遅いか……