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日本のどこにでもある公園に、彼らはいた。ベンチに座って、美味しそうにアイスを食べる娘を見守る父。ただし血の繋がりがないことは一目で察せられる。


父、男は短い黒髪の典型的な日本人だ。白いシャツに黒いジーパンと、ラフな格好だ。隣の少女を柔和な笑みで見つめている。

娘、少女は肩までの金髪で、見るからにふわふわそうな髪質だ。その瞳は青く、日本人ではないだろう。先ほど男に買ってもらった棒付きのアイスを夢中になって食べている。


二人の関係は義理の親子だ。あるきっかけでこの少女を引き取ることになった。男としてもそれは不満はない。引き取るまでに不思議なことが両手の指の数では数え切れないほどにあったが、今となっては些末なことだ。


「美味しい?」

「おいしい! あ、おとうさんも、たべて!」


にこにこと、幸せいっぱいの笑顔でアイスを突き出してくる。男は小さく笑いながら、小さくアイスをかじった。


「うん。うまい」

「うん!」


また食べ始める少女。見ていて飽きないとはこのことだ。俺の娘は世界一かわいい。

さて、と男は現実逃避を済ませると、現在の最大の問題と向き合うことにした。

少女を引き取ることに起きた出来事はその全てが些末なことだ。普通では考えられない現象があったりもしたが、そう、目の前のこれと比べれば、どうでもいいことだと思えてしまう。


男の目の前には、一組の男女。

一人はセミロングの銀髪に青い瞳を持つ少女。身に纏うものこそ日本の女子学生が好みそうな服装ではあるが、その右手には仄かに輝く剣が握られている。

相対するのは大柄な男。腰までの黒い髪に黒い瞳と、それだけ見れば日本人にも見える。しかし顔つきや表情はいわゆるマフィアのそれだ。強面すぎて怖い。

銀髪の少女が口を開いた。


「父上殿は私たち人間の国に来る。諦めて大人しく帰りなさい、魔王」


魔王と呼ばれた男は口角を持ち上げた。いきなりその全身を変化させる。背中には巨大なコウモリのような翼に、全身を覆う黒い鱗。頭には醜悪な角が生えている。どう見ても人間ではなくなってしまった。


「黙れ、勇者。父上殿は我らと共に来るのだ。貴様こそ、逃げ帰ればいいだろう?」


魔王が小馬鹿にしたように笑い、勇者と呼ばれた少女は頬を引きつらせる。次の瞬間、少女にも変化があった。身に纏うものが光り輝く鎧になったのだ。


「ここで白黒決着つける? 魔王」

「望むところだ、勇者」


何かが渦巻いているのが分かる。一触即発だということもよく分かる。だからこそ、ベンチに座る男は頭を抱えたくなる。いつものことながらふざけたファンタジーだ、と。


「ゆうしゃ! まおう! めっ!」


何となくで気づいたのか、金髪の少女がアイスを口に入れながらそう叫んだ。途端に渦巻く何かは霧散し、さらには勇者と魔王の顔色が真っ青になる。


「け、喧嘩をしていたわけじゃない。ほら、私たちは仲良し」

「そ、そうだ! 喧嘩なんてするわけがないだろう!? 勇者とは親友だからな!」


肩を組み、そう言ってぎこちない笑顔を浮かべる二人。それならいいやと少女はアイスに視線を戻し、そして勇者と魔王は安堵のため息をついた。

それら一連の流れを見て、男は天を仰ぐ。


「ほんと、なんでこうなったかな……」


心からの声をそっと吐き出した。


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