コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「本当にやるのか…?」
俺は今、多くのカメラに囲まれている。
「うん。ちゃんと台本通りにしてね?一発撮りだから」
「…わかった。マスクは変じゃないか?」
「カッコいいよ」
照れるやん。
冗談はさて置き、俺がこれから行うのは、一種の布教動画作成だ。
身バレを防ぐ為に顔はマスクで隠している。
後で加工しても良いんじゃないかっていったのだが、『加工したら映像も全部加工だと思われちゃうよ』の一言でマスク着用となった。
ここはアメリカのとある荒野。
ここでなら魔法を使っても問題ないと聖奈先生からお墨付きを貰っている。
「よーい、スタートっ!!」
聖奈監督の掛け声により、悪魔の時間が始まった……
「お疲れ様〜!」
聖奈が用意した台本に従い、俺は全てを出し切った。
そんな俺を笑顔で労う可愛い嫁。
これで俺がイケメンならハリウッドスターなのだが、そこは普通の人。
精神的に滅茶苦茶疲れた……
「ありがとう」
渡されたお茶を一口。ごくんっ。
「魔法も完璧だったよ!剣で岩を斬ったのも良かったねっ!」
「ああ。それはいいけど、本当にこんな子供騙しで信者が増えるのか?」
「ふふーん!それは大丈夫だよっ!疑った人にはちゃんとホンモノを見せるからねっ!」
えっ?ホンモノって、もしや……
「俺?」
「当たり前だよ。他にホンモノはいないよね?」
いやいやいやいや、そんなの恥ずかし過ぎんか?
デパートの屋上でやってる特撮モノみたいじゃないか!
「安心して!聖くんがいない時は、私が教祖様の一番弟子として魔法の実演をするから!」
「教祖様って、俺のことじゃないよな?」
「何言ってるの?社長、国王と来たら後は教祖でしょ?」
何その出世魚。
そもそも国王より上なのかよ。
教祖様ぱねぇな。
「凄く嫌なんだが…」
これがルナ様のためなら喜んで恥をかくけど…地球の人類の為って…はぁ……
仕方ないか。
「やれば楽しいって!だってその内『聖くんの言葉は神の言葉』って、みんなが思うんだよ?死ねって言えば死ぬし、美少女を差し出せって言えば差し出すんだよ?」
いや、最後!!
アンタの欲望じゃねーかっ!!
それに俺は好き好んで人を殺してねーよ!!
どこの猟奇殺人者だっ!?
「聖奈の性癖はもう知っているから。ともあれ、どうやって活動するんだ?」
「流石旦那様!活動は簡単だよ。まず貧しい国へ行って、そこで実演するの。それで、新たな信者にはDVDを配布して布教活動してもらうんだ」
聖奈の説明を端折ると『貧しい国で影響力のある人を抱き込み、その人に布教させる』ということだった。
「じゃあ、早速行こうか!」
「拒否はしないが…ミランは?」
「別の場所で探してもらっているよ」
すでに行動を開始していたのか……
ミランは慣れ親しんだヨーロッパにいるらしい。
先進国で新たに信者を増やすのは難しいだろうに。
ここはアフリカ大陸にある、とある国。
「神の使徒による奇跡を目撃しましたね?」
「る、月の神様ぁあっ!!」
「ルナ様!!」「使徒様ぁ!!」
聖奈の決め台詞の後、広場へと集まった人達から歓声にも似た声が上がる。
俺はその中心で、みんなから土下座をされている。
「か、神の祝福があらんことを」
「「「ありがたや〜!!」」」
ちなみにこの集落で行ったパフォーマンスは簡単なことだった。
ここは干ばつにより近くの川が干上がってしまった集落。
俺はその集落のそばにフレアボムを連発して大穴を開け、そこへアイスブロックを連発して、大穴を氷塊で埋めた。
最高気温40度近く。氷は見る間に溶けていった。
アイスブロック一つの水量はおよそ100万リットル。
いくらか抜けていくだろうが、原始的な水汲み分しか使わないこの集落であれば、かなりの期間持つことだろう。
「ルナ様を信仰し続ければ、教祖様のようなお力を神がお与えくださるかもしれません。かくいう私も教祖様には遠く及びませんが『アイスランス』ほらっ。この通り。ルナ様は我々を見ています」
「「「「ルナ様ぁあ!!月の神様ぁあ!!」」」」
やべぇな…宗教。
「では、我々を待つ人々がいますので、さようなら。皆さん、何度も言いますが神は見ていますよ」
「…『テレポート』」シュンッ
「き、消えた!?」「居なくなったぞ!?」「神様…」
俺は不承不承ながらタイミングを見計らい、近くに停めておいた車まで転移した。
「やったね!間違いなく信じたよ!」
詐欺師の言葉やん……
車に戻ると、聖奈は満面の笑みで告げた。
「何だか騙しているみたいで心苦しいぞ…」
「何言ってるの?何も嘘は吐いていないでしょ?」
「えっ……?ホンマや…」
何だか詐欺を働いているように感じていたけど、よく考えたら何一つ嘘は吐いていない。
神はいるし、力も与えてくれたし、ちゃんと見てもくれている。
唯一の嘘は俺が教祖様なことくらいだ。
俺は使徒様だからなっ!
使徒のがかっこいいし!
「それに慈善活動も付随しているから、みんなハッピーだよ」
「確かにな…よし!次に向かうぞ!」
聖奈の言葉で俄然やる気が出てきた俺は、舗装されていない道に車を走らせていく。
「凄いですね!もう村を三つも手中に収めたのですね!」
言い方…それだと侵略しているみたいじゃん……
まぁ遠からずだが。
「うん!ミランちゃんの方はどう?」
「私の方は何人かのインフルエンサーの予定を押さえられました。皆さん認知がヨーロッパを出ない程度なので、そこまで影響力はないのかもしれませんが」
いや、凄いなっ!どんな伝手だよ!?
俺にはそんな知り合いいないぞっ!!?
「ううん。充分だよ!!流石ミランちゃん!向こうで顔を売っていただけあるねっ!」
「あのメディアに出ていたことが役に立って良かったです」
ああ…確かにミランも一時ではあるが、有名人になっていたな。
今は飽きられるのも早いから、誰もミランを覚えていないだろうけど。
当初の俺の予想より、遥かに布教活動は進んでいる。
このままお布施だけで暮らせるんじゃ?
まぁウチ(ルナ教)の特色は、宗教なのに金が一切掛からないことだから無理か……
「本当にそんなことが出来るのかしら?」
いやー。綺麗なんだろうけど、顔が濃すぎて俺には彫刻にしか見えないなぁ……
「出来ます。それを見ても疑うのなら更に凄いこともお見せしますよ?」
うん!この天使が僕のタイプです!
いかん。ふざけ過ぎた。
目の前の美人さんはミランが見つけてくれたインフルエンサーさん。
イ◯スタの登録者が100万人を超えているんだって。しゅごい。
それでここは動画撮影の為という理由で許可を取り借りた場所。
人里離れており、小規模な爆破とかならしてもいいと許可も貰っている。
「へぇ。じゃあ見せてよ?」
「教祖様。お願いします」
コクンッ
「『フレアボム』」
ミランの合図に、用意した的へ向けて魔法を放つ。
ドーーーンッ
うん。あんな木でできた的なんて、文字通り木っ端微塵ですわ。
「う、うそ…ねぇ。どんな仕掛けなの?私もソレを使って動画を撮っても良いかしら?」
「仕掛けなどありませんよ。散々的を調べたでしょう?」
「……はぁ。いくら?5,000ユーロなら今払うわ」
そりゃ信じないか。
このお姉さんの動体視力だと、俺の手から放たれたことに気付けなかったのだろう。
「まだ疑っているのですね。ではこうしましょう。これより、空から馬鹿でかい氷の塊を降らせます。もちろん飛行機でも運べないようなサイズのものです。それなら疑いませんか?」
「出来るわけないでしょ?」
「教祖様。お願いします」
コクンッ
俺は頷くだけの教祖。頷き教の教祖である!
俺がこっそり詠唱に入ると、ミランは上空を見つめた。
そんなミランに続いて、疑惑の表情を隠すことなくお姉さんも見上げた。
「『アイスブロック』」
「何よ。無理なんでしょ?」
「来ました」
ミランのその言葉に、お姉さんは再び空を見上げる。
この魔法はタイムラグがあるからなぁ。仕方ない。
「う、うそ!?」
突如上空に現れた米粒程の物体は、ゆっくりと落下してきた。
もちろんそれは高過ぎてそう見えただけ。
デカいんだわ。
ドゴーーーーンッ
ガラガラッパラッ
落としたのは少し距離の離れたところ。
それでも衝突音と衝撃はここまで到達した。
「わかりましたか?これぞ、神の御業です」
うん。それはちゃう。
それだと俺が神様じゃん。
「凄い…ほ、他には?他にも出来るの!?」
この後滅茶苦茶……色んな魔法を見せてあげた。
「本当にダメなの?」
美女からそんな風に頼まれたら……
ごめん、タイプじゃないので、お断りします。
「ダメです。教祖様のお姿は、このDVDの映像のみ使用可能です」
お姉さんは俺とのツーショットをご所望だった。
それも魔法を使っている最中の動画。
絶対バズるって言われてもなぁ…バズりたくはないよね。
したいのは布教であって、目立つことじゃないからな。
「そう…わかったわ。これ以上ゴネても神様から神罰を受けるだけね。私もルナ教に入ってお月様に毎晩祈るわ。もしかしたら私もその力を授かれるかもしれないしね!」
「神様は見ておられます。不純な動機は捨てて祈ってください。ルナ教はお金も物も、何も望みません。唯一の望み…いえ、救いは祈りです。
お忘れなきようお願いします」
「わ、わかったわ」
美少女の威圧って凄いよね?
何もしてなくてもつい謝っちゃうもん。
後はこのお姉さんの影響力に期待するだけだな。
俺達はさらに二ヶ月、世界中を巡り、布教活動に励んだ。