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「護衛はこのアルバに、お任せ下さい。エトワール様!」
「凄い、張り切っているね……圧が凄い」
外出許可は簡単ではなかったが、一応降りた。護衛は、アルバとグランツなのだがそれだけでは心配だと、町の至る所に騎士達を配置してくれたらしい。というのも、アルバが彼らに圧をかけて、半径何メートル以内に近付くなとか言ったらしい。思考がたまに過激になるというか、私への忠誠心が凄いというか。兎に角私のことを大切に思っていてくれることには変わりないし、彼女は私を聖女と思っていない騎士達に強く言ってくれて、本当に心強い、優しい子だなあと思った。
グランツは、一言二言トワイライトに言っただけでまたいつもの無表情のまま彼女の後ろを歩いていた。私には挨拶もなしで。
「お姉様と同じ髪色ですね。黒髪のお姉様も素敵です」
「ありがとう、トワイライト。トワイライトも似合ってるよ」
「お、お姉様!」
と、また勢いよく抱きつかれて、私は危うく倒れそうになってしまった。寸前の所で、足で踏ん張って持ちこたえたが、踏ん張ったせいで足が痛い。
私とトワイライトの髪色は目立つし、トワイライトに関しては聖女の特徴の一つである黄金の髪のため、魔法で色を変えて目立たせなくするほかなかったのだ。芸能人がオフの時にファンに囲まれないように変装するのと同じように。最も、此の世界には魔法というものがあるので魔法で他人に変装することだって出来る。これは、上級の魔道士しか使えないらしいし、長時間の維持が難しいため、今回も同じく髪色を変えると言うだけの簡単な変装、魔法をかけてもらった。星流祭の時と同じだ。
しかし、それは置いておいてよく、外出許可がおりたと。災厄や、ヘウンデウン教の動きも活発になってきたため、本物の聖女が現われたと知れば必ず襲ってくるはずだからだ。聖女殿にいれば安全だし、籠の中の鳥のように大切にするのかと思えばあっさり。聞いたところ、リースがいいだろうと許可を下す相手に何か言っていたらしい。まあ、私が外に行きたいと聞いたら、説得してくれそうだが、彼も彼でこの間の調査のことがあって支持が下がったのかもしれないし。皇太子と言えど、帝国を継ぐものにふさわしいかは、常に帝国民に審査されているようなものだから。
日本の選挙だって、この人の考え方に賛成できるとか、この人なら国をよくしてくれそうとかあるから。もし、間違った人が皇帝になった場合、苦しむのは帝国民になるだろうし、帝国は傾いてしまうだろう。まあ、リースに限ってそんなことはないだろうけど。
そんなことをふと思って、私はトワイライトの方に目を移した。彼女は、初めて見る景色に目を輝かせながら、あっちへこっちへとふらふらしながら歩いていた。
「何処か、気になる場所とかある?」
「お、お姉様のおすすめの場所とか……に行きたいです」
「私の、お勧めか……私もそこまで詳しくないんだけど」
城下町には、星流祭の時によく行ったが何処に何があるとかはよく知らない。にわかに知っている程度で、案内しろと言われても案内が出来ない。それに、そこまで興味がないと言ってしまえば興味がないのだ。アニメショップとかは、ここに何がうっているとかあのお店の方が品揃えいいとか話せるけど、食べ歩きグルメとかいい宝石店とかは全く分からない。
「そ、そうだ。この間アルバと言った焼き菓子のお店に行こう。あそこ美味しかったから」
「焼き菓子ですか!? 私、甘いもの好きです」
と、トワイライトは嬉しそうに微笑んだ。
私は、後ろに控えていたアルバに目で合図をおくり道案内を頼んだ。場所は覚えているが、もし万が一にでも迷ったら大変だと思ったからだ。アルバは、まかせて下さいと嬉しそうに歩き出した。そんな彼女の背中を見ながら、それまで黙ってついてきていたグランツをちらりと見た。彼は変わらずの無表情でやはり何を考えているか分からない。分かったためしがなかった。
トワイライトは、私にどんなお菓子が好きか聞いてきて、今度一緒にお茶したいとも言ってきた。姉妹でお茶なんて、きっと幸せなんだろうなと想像しつつ、二人で話している内に目的の場所に着いた。昨日来たときと同じく相変わらず人気で賑わっていて、店員さん達は忙しそうに動き回っていた。
店の中は混んでいたが、私達はすんなりとケーキの並ぶショーケースの前まで来ることが出来た。トワイライトは、目の前に並ぶ色とりどりの美しいスイーツ達に感動したように息を飲むと、キラキラとした瞳を私に向けてきた。
その期待に満ちた眼差しを受けて、思わず苦笑してしまう。これは、あれだな。どれを食べようか迷ってる感じだ。私は、取り敢えず籠の中にアルバのお勧めのクッキーを入れて、彼女がケーキを選ぶのを待っていた。すると、再び私の方を振返って、お姉様も一緒に選びましょうと私の服の袖を掴んだ。
リュシオルやメイド達が作るお菓子も最高だが、こういうお店で買って帰って食べるお菓子も最高だと私は思う。料理は苦手ではなかったし、寧ろ好きだったため高校生までは自分でお弁当を作って、たまに推しの誕生日にケーキを焼いたりしていた。だけど、大学生になってからは自堕落が加速して、料理を作らず冷凍食品とコンビニ弁当ですませていた。それでもそこまで太らなかったのは体質だろうか。
そんなことを考えながら、誕生日には一度もケーキを貰った事がないなあ……何てことも思い出した。あの両親のこと、あの人達は忙しいからって言って誕生日の日に帰ってこないこともあった。おめでとうも聞いたことが無いような気がした。
バースデーケーキと思われるイチゴのたっぷりのったショートケーキを見て、私は何だか悲しい気持ちになった。このケーキを買って、子供に食べさせてあげる親の顔を想像して、私は思わず目をそらしてしまった。
「お姉様は、どれがいいですか? チーズケーキ? ブルーベリータルト? お姉様?」
パッと私の顔を見たトワイライトは、また不安そうな表情を浮べた。まるで、自分だけはしゃいで場の空気を濁してしまった罪人であるかのように、自分を責める顔に、私は思わず首を横に振った。そういうわけで見ていたわけじゃ無いと、弁解して、先ほど思ったネガティブな考えを頭の片隅に追いやった。
私は、無理に笑顔を作って、ショーケースにもう一度目を向けた。彼女の言ったとおり、真っ白で上にミントとブルーベリーののったレアチーズケーキや、イチゴのタルト、桃丸ごとケーキみたいなものもあり、そこはまるで宝石箱のようだった。
そんな中で、私はオレンジ色の鮮やかなケーキに目がとまった。
「お客様、こちらは当店のおすすめ商品となっております」
「あっ、はい。そう、そうなんですね」
と、いきなり店員に話しかけられてしまい、挙動不審になりながらも何とか返事を返した。
それは、マーマレードジャムとオレンジを輪切りにしたものが乗ったタルトだった。真っ赤なイチゴのタルトの横に並んでいても、全くその鮮やかさに押されないほど綺麗な色と形をしており、ぐうぅとお腹が鳴る。
そういえば、この帝国の特産物で、大切にしている果物はオレンジだったなと今になって思い出し、私とエトワールはこのオレンジのタルトとクッキー、オレンジの皮と輪切りのオレンジが並んだパウンドケーキを買って帰ることになった。勿論、荷物はアルバが持ってくれた。自分が持つと言っても、主人に荷物持ちをさせるわけにはいかないと聞いてくれなかったため、彼女にまかせることにした。全く、自分がお嬢様にでもなった気分だった。貴族ってきっとそういうものなのだろうなと思いつつ、この国の聖女の扱いがやはり少し行きすぎているような気もした。今に始まったことではないが。
「お姉様、お菓子に合うお茶でも見に行きませんか?」
「トワイライトは元気だね。私、あまり紅茶の事よく分からないから、今度はトワイライトのお勧めとかがいいな……あ、分からなかったらいいよ。ごめん、そういえば」
「大丈夫です。直感で選びますから!お姉様のお口に合う紅茶を!」
と、トワイライトが何もない空間にいたことをすっかり忘れていたため、つい言ってしまったが、彼女は嬉しそうに胸を叩いた。キラキラと輝く純白の瞳は、それこそどんな宝石よりも美しいと思った。二人で買ったお菓子と紅茶を飲んでお話しするのは本当に楽しそうだと思うし、今から楽しみである。
それから私達は、少し歩いて紅茶の店に入った。紅茶の店というだけあって、あちらこちらから良い匂いが漂ってきて、アロマ店にでも来たのかと錯覚する。甘い匂いから、少しスパイシーな匂いまで、きっとこの帝国で育てることが出来ない茶葉は取り寄せているんだろうなと思って、品揃えの良さに吃驚した。私達は店員の話を聞きながら、二人で話し合った結果、アールグレイを買うことになった。匂いもよく、日持ちもするらしいからいつでもお茶会が出来ると私とトワイライトは笑い合った。
帰り道、上機嫌になってそのまま飛んでいきそうなトワイライトの隣を歩きながら、他に行く場所はないかと、尋ねてみることにした。今後、こうして一緒に行ける機会があるかないかわからないから。
「満足した?」
「はい。とても」
「他に行きたいところはない?」
「他にですか? そうですね……あっ、お姉様と同じアクセサリーとか……そういうのが欲しかったりします」
と、トワイライトは、少し恥ずかしそうに言った。恥ずかしいのはこっちだったが、妹の頼みとあれば断るわけにも行かなかった。別にお菓子も紅茶も高かったわけではないのでコレで、浪費家なんて目では見られないだろう。私は、快く承知して、アルバとグランツもつれてアクセサリーを見に行くことにした。
しかし、アルバが連れてきてくれたところはアクセサリー店というよりかは宝石店で、キラキラとこれでもかと言うぐらい白い照明と、光を放つ宝石達が並んだお店だった。確かに、貴族達はこういうの付けるけどと思って見れば、アルバは親指を立ててグッとサインを出すばかりで多分私が思っていることを理解死でくれていないようだった。
私は、はあ……とため息をつきながら、宝石が散りばめられたネックレスや腕輪などを見て、どれもトワイライトには似合いそうだけど自分にはなあと、何処か他人事だった。そんな時、カランコロン……と店のベルがなった為、姿勢を正せば、見覚えのあるピンク色の頭が目の端に映った。