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化ける力は、少しずつ広がっていた。
犬だけじゃない。
鳥にも、影にも、名前のない何かにも変われる。
自分の意志で、形を選べるようになったのだ。
透はその力に戸惑いながらも、少しずつ楽しみを覚えていた。
必要な時だけ、変わることができる。
逃げるためではなく、選ぶための力だと理解し始めていた。
しかし、心の片隅にはいつもユイがいた。
姿はもう見えないけれど、胸の奥で温かさを残している。
その力が、透を守り続けていることを知っていた。
化け犬は足元で、いつも通りじっとしている。
吠えず、ただ傍にいる。
その存在が、透の心を安心させた。
「……逃げるための力じゃない」
透は自分に言い聞かせる。
能力を使うときは、恐怖や弱さに飲まれるためではなく、
必要な時だけ、選ぶために。
空を見上げると、風が柔らかく透の頬をなでた。
自由に形を変えられる力を持ちながらも、
透が一番多く選ぶのは、人として立ち続けることだった。
その選択こそが、
ユイからの贈り物であり、彼が生きる意味でもあった。