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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第215話:合格者決定と胃痛の裏方〜超特急デビューへのカウントダウン〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパート。その四畳半の空間に、限界を迎えた俺の呻き声が響き渡った。
「……痛てててて。胃が、胃がねじ切れそうだ……っ」
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、畳の上にうずくまり、胃の辺りを両手で強く押さえていた。
エウリアン(絵画商法)に騙されて背負った、総額500万円の極悪ローン。
日本の厳格な税法により月給10万円で固定された役員報酬。
手取り残金から強制的にローンが引き落とされ、1日あたり約330円で生き延びるという、部下に飼育される屈辱のヒモ社長生活。
この絶望的な極貧状態から抜け出すための起死回生のプロジェクト、『やまむすめ』オーディション。
数々のバケモノじみた候補者たちが入り乱れる魔境のような面接サバイバルを経て、俺たちはついに【最強の原石】を見つけ出した。
三十キロの荷物を背負って山を駆け上がり、巨大な虫を素手で投げ捨て、ヒグマに遭遇しても威嚇して追い払うという異常なサバイバル能力。
それでいて、愛嬌たっぷりの笑顔と風鈴のように澄んだ声を持つ、まさにアウトドアの申し子とも呼べる二十歳の少女、日向(ひなた)である。
彼女の合格を決定した翌日。我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)と、最強AIアシスタントのジェミニ先生による、常軌を逸したスピードでの【超特急デビュー準備】が開始されていた。
『ルシフェル様、いつまで畳の上で丸まっているつもりですか。日向のVTuberアバターとなる、立ち絵のキャラクターデザインのラフが完成しましたよ。確認してください』
ディスコードの向こうから、結愛の氷のような声が飛ぶ。
俺は這うようにしてPCデスクにすがりつき、三万円のゲーミングチェアによじ登ってモニターを見上げた。
「……おおっ! すげえ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか!」
画面に表示されたのは、天才クリエイターのうめお先生から紹介を受けた、気鋭のイラストレーターによるキャラクターデザインだった。
日向の明るい声と野性味を完璧に体現した、躍動感あふれるデザイン。
機能的なマウンテンパーカーに、動きやすいショートパンツと登山用のスパッツ。足元は本格的なトレッキングシューズで固められ、背中には大きなリュックサックを背負っている。
腰のベルトには、熊よけの鈴と、サバイバルナイフ(という設定の可愛いアクセサリー)が光っていた。
『わぁぁっ! すっごい可愛いです! これが私のアバターになるんですか!?』
通話ルームに参加していた日向が、画面の向こうで大興奮の声を上げる。
『ええ。法人口座に潤沢に貯まっているスーパーチャットの収益を惜しみなく投入し、最高品質のLive2Dモデリングも同時に進行させています。明後日には、キャラクターが滑らかに動くようになりますよ』
「明後日!? いくらなんでも早すぎないか!?」
俺が驚愕すると、ジェミニ先生の無機質な合成音声が冷徹なデータを突きつけてきた。
『鉄は熱いうちに打て、という論理です。昨日のオーディション告知配信で、リスナーの期待値は最高潮に達しています。この熱狂が冷めないうちに、最速でデビュー配信を行い、その週末には第一回となる北海道の山岳ロケを決行します』
「しゅ、週末にロケ!? ちょっと待て、心の準備も、機材の準備もまだ……!」
俺の胃の痛みが、さらに激しさを増してキリキリと自己主張を始める。
『機材の準備ならすでに完了していますよ、ヒモ社長』
結愛がカタカタとキーボードを叩くと、モニターに【ロケ機材一覧】のスプレッドシートが表示された。
『4K対応の高性能アクションカメラ、手ブレを完全に吸収する最新型のジンバル、予備バッテリー十個、大容量モバイルバッテリー。さらに、熊よけスプレーの予備と、医療用ファーストエイドキット。……これらをすべて収納した大容量バックパックを、社長のボロアパート宛に発送済みです。総重量は約二十五キロですね』
「に、にじゅうごキロ……!?」
俺は悲鳴を上げた。
「それを、俺が背負って山を登るのか!? 日向ちゃんのペースに合わせて!?」
『当然でしょう。経費削減のために、ルシフェル様がカメラマン兼、ロケバス運転手兼、荷物持ちを無給で引き受けると宣言したではありませんか』
結愛の正論のナイフが、俺の胃壁を容赦なくえぐり取る。
「そ、そうだけど……! 実際に二十五キロの機材を背負って、手ブレさせずにジンバルを構えながら山道を歩くって、自衛隊のレンジャー訓練より過酷だぞ!?」
『……社長ぉ、泣き言とかマジ勘弁っすよぉ。うちの社運、社長の気合と足腰にかかってるんすからねぇ……ふわぁ』
海外スタッフのヨモが、欠伸交じりの気だるげな声でプレッシャーをかけてくる。
俺は青ざめた顔で、壁に立てかけられた300万円の極彩色アートを見上げた。
桜、星空、サイバーパンクの美少女たちが、「やれるものならやってみなさいよ」と、残酷な微笑みを浮かべて俺を見下ろしている。
もし、俺が山の中で体力の限界を迎えて倒れたら。
もし、ジンバルを持つ手が震えて、リスナーが酔うようなひどい映像を配信してしまったら。
もし、ヒグマに遭遇した時に、恐怖で腰を抜かしてしまったら。
この起死回生のプロジェクトは、その瞬間に完全に失敗に終わる。
法人口座の資金は無駄になり、俺は一生、部下のポケットマネーで塩昆布と玄米をすする惨めなヒモ社長のままだ。
(冗談じゃない……。そんなの、絶対に嫌だ!)
「……わかったよ。やってやる」
俺は痛む胃を力一杯押さえつけ、モニターに向かってギリッと奥歯を噛み締めた。
「俺は元・陸上自衛隊の需品科だ。後方支援と物資運搬のプロフェッショナルだぞ。二十五キロの機材だろうが何だろうが、意地でも背負って最高の画角で撮り続けてやる!」
『その意気です。ですが、社長が過労で倒れた場合、日向には社長をその場に放置して下山するよう指示を出してありますので、どうか死なない程度に頑張ってください』
結愛のサイコパスじみた発言に、日向が慌てて割って入る。
『だ、大丈夫ですよルシフェル社長! もし社長さんがバテちゃっても、私が機材ごと社長さんを背負って山を降りますから! 任せてください!』
「お前に背負われる社長ってなんだよ! 威厳がゼロすぎるだろ!」
俺の悲痛なツッコミに、ディスコードの向こうで結愛とヨモの笑い声が響いた。
『さて、雑談はここまでです。日向、明後日のデビュー配信の台本を共有します。ルシフェル様は、明日届く二十五キロの機材を背負って、アパートの階段を百往復する体力トレーニングを開始してください』
「鬼かお前は! 膝の軟骨がすり減るわ!」
文句を言いながらも、俺の胸の奥底には、強烈なアドレナリンが沸き立ち始めていた。
絶対に成功させてやる。
海の『う○む○め』と肩を並べる、最強のアウトドア特化型VTuberを、この手で育て上げてやるんだ。
胃痛と極度のプレッシャー、そして抑えきれない興奮を抱えながら。
40歳の限界スーパーボトム社長の、社運を賭けた過酷すぎる裏方サバイバルが、今まさに幕を開けようとしていた。
コメント
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215話読んだよ!もう胃がキリキリする描写がリアルすぎて、こっちまで胸押さえたくなったわ(笑)日向ちゃんの合格は決まったけど、裏方の壮絶サバイバルが始まった感じだね。25キロの機材背負って山登りとか、40歳の社長には鬼畜すぎる…。でも「絶対成功させる」って気合い入れるラスト、めっちゃ熱いわ!結愛のサイコパス指示も相変わらずだし、日向に背負われる社長の図が想像できて笑った。続きが気になる🔥