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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第216話:大型新人デビュー!〜野生の美少女と、ヒモ社長の胃痛〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパート。
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、四畳半の畳の上で正座し、脂汗を流しながらPCモニターを凝視していた。
時刻は午後七時五十五分。
エウリアン(絵画商法)に騙されて背負った、総額500万円の極悪ローン。
月給10万円という日本の税法に縛られた役員報酬。
部下から配給される最安値の玄米と塩昆布で命を繋ぐヒモ社長の俺にとって、この後に控えている配信は、文字通り「命と借金返済を懸けた大一番」だった。
『ルシフェル様、顔色が悪すぎますよ。画面越しに伝わるわけではありませんが、見苦しいので深呼吸でもしてください』
ディスコードの向こうから、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)が氷のような声で指示を飛ばす。
「む、無理だよ……。胃が、胃袋が雑巾みたいに絞られてる感覚だ」
俺は胃の辺りを強く押さえた。
『……社長ぉ、落ち着いてくださいよぉ。機材のセットアップも、Live2Dのトラッキングも完璧っすからぁ。あとはあの子が喋るだけっすよぉ……ふわぁ』
海外スタッフのヨモが気だるげに励ましてくれるが、プレッシャーは尋常ではない。
俺たちの最終目標は、アウトドア特化型プロジェクトの頂点に君臨する『う○む○め』と肩を並べること。
そのための第一歩が、北海道の大自然を舞台にしたサバイバル特化型VTuberチーム『やまむすめ』の立ち上げである。
厳しいオーディションを勝ち抜いた(というか、数多の戦闘狂の中から奇跡的に見つけ出した)原石、日向(ひなた)。
彼女の初配信が、あと三分で始まろうとしていた。
「ジェミニ先生、待機所の同接(同時接続者数)はどうなってる?」
俺の問いに、最強AIアシスタントのジェミニ先生が即座に無機質な音声で答える。
『現在、待機所の同接数は8,500人を突破。昨日のオーディション告知配信で異常な募集要項を公開したため、リスナーの好奇心と期待値が限界まで膨れ上がっています』
「は、はっせんごひゃく……!?」
デビュー前の新人VTuberとしては、完全にバグっている数字だ。
みんな「クマと戦えるアイドルってどんなバケモノだよ」という野次馬根性で集まっているに違いない。
『さあ、時間です。日向、準備はいいですか?』
結愛の問いかけに、別回線で繋がっている日向が、元気いっぱいの声で答えた。
『はいっ! ばっちりです! 私、全力で楽しんできますね!』
「頼んだぞ、日向ちゃん! 俺の500万の借金と、来期の役員報酬はお前の双肩にかかっているからな!」
最低すぎる激励を飛ばす俺を無視して、結愛が配信のスタートボタンを押した。
画面が切り替わり、ポップで可愛らしいBGMが流れ始める。
そして、画面の中央に、マウンテンパーカーとショートパンツ姿の躍動感あふれる美少女アバターがパッと現れた。
『みんなーっ! こんやまー! やまむすめ第一期生、日向(ひなた)です!』
風鈴のように澄み切った、底抜けに明るい声。
最新のLive2D技術によって、彼女の弾けるような笑顔や、ポニーテールが揺れる動きが、恐ろしいほど滑らかに表現されている。
『うわっ、めっちゃ動く!』
『声かわいいいいいい!』
『ガチの美少女じゃねーか!』
『え、本当にこの子がヒグマと戦うの? 嘘だろ?』
コメント欄が、凄まじい速度で滝のように流れ始めた。
『今日は私の初配信に来てくれて、本当にありがとうございます! 私、山を歩くのがだーいすきな、ごく普通の女の子です!』
日向は画面の向こうで、えへへ、と照れたように笑う。
その愛嬌たっぷりの仕草に、リスナーたちは完全に魅了されていた。
だが、彼らはまだ知らない。この子が、俺の提示したあの狂った募集要項を完璧にクリアした「本物の野生児」であることを。
『可愛い! 推せる!』
『社長、こんな正統派どこで見つけてきたんだよ』
『普通の女の子で安心したわ』
コメント欄が和やかな空気に包まれた、その直後だった。
『普通の女の子ですよー! この前も、おじいちゃんの畑で採れた三十キロのジャガイモをリュックに詰めて、ふもとの直売所まで二時間歩いて下ろしてきたばっかりですし!』
日向が、満面のアイドルスマイルのまま、とんでもない爆弾エピソードを投下した。
コメント欄の動きが、一瞬だけピタリと止まった。
『……ん?』
『今、なんて言った?』
『三十キロ? 二時間?』
『歩荷(ぼっか)訓練のガチ勢じゃねーかww』
『あ、でもその時、顔の横をすっごい大きなアブが飛んでて。私、両手が塞がってたから、首を振って避けながら、デコピンでバチンッて撃墜しちゃいました! えへへ!』
『デコピンで撃墜www』
『反射神経バグってて草』
『募集要項の「虫を素手で処理」ってこれかよ!!』
『普通の女の子(物理特化)』
リスナーたちが、彼女の異常性に気づき始めた。
見た目は最高に可愛い正統派美少女なのに、口から出てくるエピソードが完全にサバイバル部隊のそれなのだ。
『そうそう! リスナーさんから「クマが出たらどうするの?」ってコメント来てますけど、大丈夫です!』
日向は胸を張り、自慢げに言い放った。
『私、この前山菜採りに行ったらクマさんに会っちゃったんですけど、持ってたバケツをガンガン叩いて「あっち行けー!」って怒鳴ったら、逃げていきましたから!』
『ファッ!?www』
『ガチでヒグマ撃退してて草』
『クマスプレーすら使ってねえww』
『社長、マジでバーサーカー見つけてきやがったww』
『ギャップ萌えの次元を超えてるww』
ドカンッ、ドカンッ、ドカンッ!!
画面が、赤や黄色や緑のスーパーチャットで埋め尽くされ始めた。
【ヒグマ撃退記念】——¥10,000
【三十キロのジャガイモ代】——¥5,000
【最高の逸材を見つけた社長に拍手】——¥50,000
「よっしゃぁぁぁぁっ!!」
四畳半の畳の上で、俺は歓喜の雄叫びを上げた。
狙い通りだ。いや、俺の狙いすら遥かに超えている。
圧倒的な可愛さと、それを裏切るガチすぎるサバイバル能力。
このギャップこそが、飽和したVTuber業界をぶち抜く最強のエンターテインメントになるんだ!
『ルシフェル様、同接が15,000人を突破しました。初配信のスーパーチャット総額も、すでに恐ろしい勢いで伸びています。……日向のポテンシャル、私の計算を上回りましたね』
結愛の声が、確かな手応えに震えている。
『……あー、社長ぉ、これでやっと借金返済のメドが立ちそうっすねぇ……』
ヨモも裏回線で気だるげに感心している。
だが、俺の歓喜は、日向の次の一言で一気に氷点下まで引き下げられることになる。
『みんな、スパチャ本当にありがとう! このお金は全部、今週末のロケのガソリン代にします!』
日向は画面の向こうで、最高に輝く笑顔を向けた。
『今週末、さっそく北海道の山で『やまむすめ』の初ロケをやります! そしてなんと! カメラマンと荷物持ちは、インフィニティ・ワンのルシフェル社長がやってくれるんです!』
『社長が荷物持ちwww』
『ヒモ社長のタダ働きキターーー!』
『社長、生きて帰ってこいよww』
『社長さん、私のために二十五キロの機材を背負って山を登ってくれるんです! 皆さん、社長さんの腰と膝がぶっ壊れないように、応援よろしくお願いしますねっ!』
『社長の膝にスパチャww』——¥5,000
『労災は下りないぞ社長ww』——¥10,000
『絶対に見るわそのロケww』——¥50,000
異常なまでの盛り上がりを見せるコメント欄とは裏腹に、俺の顔からは完全に血の気が引いていた。
二十五キロ。
あの大容量バックパックに詰め込まれた、ジンバル、カメラ、バッテリー、クマよけスプレーの重さ。
それを背負って、三十キロのジャガイモを軽々と運ぶこの体力オバケの少女と一緒に、北海道の急勾配を登るのか。
「……結愛。俺、週末のロケで死ぬかもしれない」
『安心してください。ルシフェル様が山で散っても、このバズり具合なら日向一人で会社を支えていけます。社長の命は、インフィニティ・ワンの利益として永遠に語り継がれるでしょう』
「俺を殺す前提で話を進めるなああぁぁっ!!」
帯広の四畳半に、ヒモ社長の悲痛な絶叫が響き渡る。
大型新人の華々しいデビュー配信は大成功を収めた。
だがそれは同時に、40歳の限界社長に課せられた「地獄のロケ準備」のカウントダウンの始まりでもあった。
エウリアンの借金500万を返すため、俺は意地でもこの週末のロケを成功させなければならない。
ヒグマが来ようが、膝の軟骨がすり減ろうが、絶対にだ。
社長の命を削る過酷なサバイバルロケが、すぐ目の前まで迫っていた。
コメント
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まじで最高すぎた…!!😭💕💕 「普通の女の子」からの「三十キロのジャガイモ運び&デコピンでアブ撃墜&ヒグマ撃退」の畳みかけ、ギャップがエグすぎて笑いが止まらなかった😂✨ 可愛い声で淡々とサバイバルエピソードを投下してくる日向ちゃん、完全にバケモノ原石じゃん…!! 社長の「俺の膝にスパチャ」のくだりとか、四畳半からの絶叫シーンも含めて、エンタメとしての完成度ヤバい。 続きのロケ、心臓捧げて待ってます!!🔥