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仙崎ひとみ/九龍
紙吹みつ葉
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和也は彩の手を引き、自転車置き場に向かっていた。
――さあ、ここからは気を引き締めて行かないと。
――事故が起こるとすれば、落下物か自動車だ。通り魔的な犯罪も考えたが、それは事故とは言えないし、通り魔なら俺がやられたら彩も無事じゃ済まないからな。
「どうしたの? キョロキョロして」
「いや、ちょっと探し物で……気にしなくて良いよ」
彩には拓馬達を二人っきりにする為と言っていたが、本当の目的は事故に巻き込まない為だった。拓馬が言う通り、一秒でも二秒でも早く事故に気付ければ無事にやり過ごせる筈。彩以外に気を配らない分、何とか出来ると和也は考えていた。
二人が特設ゲートまで来た時、和也は異常を感じた。
――ゲートの揺れが大きい。
その時、一際強い風が吹き、揺れていたゲートがゆっくりと倒れてくる。
――よし、これが事故につながるんだ。今のタイミングなら、彩を助けて俺も逃げられる。
和也がそう確信した瞬間。
「彩!」
彩を呼ぶ大きな声が聞こえた。
彩が声に反応して、立ち止まり振り返る。その動きに気を取られ、和也の動きが一瞬止まった。
一秒でも二秒でも早く気付けば逃げられる。逆に言えば、一秒でも二秒でもロスしてしまうと逃げられるタイミングでも逃げ切れなくなる。
このままでは鉄柱は彩の頭上に倒れてきそうだった。
和也は選択を迫られた。彩を助けて自分が被害を受けるか、彩を見捨てて自分が逃げるか。一瞬の選択だったが、和也に迷いは無い。彩を抱きしめて逃がし、自分はゲートの鉄柱を頭から受けた。彩を抱きしめた両腕から力が抜け、和也はゆっくりと倒れ込んだ。その拍子にポケットからかすり模様の着物を着たお守りの人形がこぼれ落ちる。
和也以外に大きな怪我をした者はいない。一番悪いタイミングだったのが、彩と和也だった。
「和也君……」
頭から血を流し倒れている和也を見て、彩はかろうじて名前を呟けただけで、その後は絶句した。
「和也!」
倒れている和也に拓馬と明菜が、人をかき分け全力で駆け寄る。
「彩は……」
拓馬に抱きかかえられた和也が虚ろな目で尋ねる。
「しっかりしろ! 彩は大丈夫だ」
「良かった……後は頼む……」
和也は彩の幸せを強く、強く、願いながら意識を失う。と同時に、地面に転がったお守りの人形が微かに光った。まるで和也の意識が乗り移ったかのように。
「和也!」
拓馬は和也の体を抱き締める。その横では彩が呆然としてへたり込んでいる。
「救急車を! 誰か救急車をお願いします!」
明菜が叫ぶ。
――私の所為だ……私が彩を呼び止めた所為で逃げ切れなかったんだ……。
迂闊な自分を後悔する明菜の足元で、拓馬は魂が抜けたように和也を抱きしめたまま呆然としている。
誰かが呼んでくれたのか、しばらくして救急車が到着し、和也は担架で車内に運び込まれる。真っ青な顔をした彩が一緒に乗り込み、救急車は出発した。
残された拓馬と明菜はその様子を映画でもみているような、現実感の無いままで見ていた。救急車が離れて行くと、拓馬は急に実感が湧いてくる。
「うううああー!!」
拓馬は地に伏せ叫んだ。
「拓馬君!」
叫び声で正気を取り戻した明菜が、伏せている拓馬の背中に声を掛ける。と、その時、地面に転がっていたお守りの人形が「リーン」と鈴のような音を出し輝いた。