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夏の夕方は、少しだけ時間がゆっくり流れる。
教室の 窓から、 オレンジ色の光が 机の上に 伸びていた。
校庭では 蝉が鳴いている。
「… 沙市。」
名前を 呼ばれて 振り向くと、
そこにいたのは、 親友の 糸原 彩海(いとはら あやみ) だった。
「ねぇ あそこ 行こ?」
その言葉で、 どこへ行くか 分かる。
「うん。」
五宮 沙市(いつみや しあ) はカバンを 持ち上げた。
二人の放課後には、 いつも同じ行き先が ある。
学校の 裏山の、小さな神社。
鳥居は少し色あせていて、 石段は 古い。
でもそこから 見える空は、 町で一番 きれいだった。
石段に座ると、 町の向こうに 夜空が広がる。
まだ薄暗い空に、 星が少しずつ 増えていく。
「やっぱりここ 好きだな。」
彩海が 言った。
「静かだし、 星きれい だし。」
沙市は 笑った。
「彩海が 最初に 見つけたんだよね。」
「うん!」
彩海は空を 見上げる。
「ここってさ、 季節が 全部分かるんだよ。」
「どういうこと?」
彩海は 遠くの山を 指さした。
「春は あそこに 桜が咲く。」
「秋は 石段が 落ち葉で いっぱい。」
「冬は 空が すごく 遠くなる。」
少し考えてから、 笑った。
「でも一番 好きなのは 夏。」
蝉の声が 遠くで響く。
夜風が 神社の木を 揺らした。
そのとき
すっと、 光が流れた。
「流れ星!」
彩海が 立ち上がる。
「お願い事!」
沙市は 笑った。
「もう消えたよ。」
彩海は 少しだけ 考えてから 言った。
「じゃあ お願いじゃなくて、 約束に する。」
「約束?」
彩海は 夜空を 見上げた。
月が 静かに 浮かんでいる。
「大人に なっても。」
「毎年の夏、 ここで星を 見よう。」
沙市は 少し驚いた。
「毎年?」
彩海は うなずく。
「もし遠くに 行っても。」
風が 吹く。
木の葉が 揺れる。
「同じ夜に ここ来たら、 同じ星 見れるでしょ。」
沙市は 空を 見上げた。
星は 変わらず 輝いている。
「…うん。」
沙市は 手を 差し出した。
「約束。」
彩海も 手を 重ねる。
その瞬間、 もう一つ流れ星が 空を 横切った。
二人は 同時に 笑った。
「見た!?」
「見た!」
神社に 笑い声が 響いた。
その夜、 沙市は 思った。
この時間が、 ずっと”続けばいいのに”。
季節は 静かに 流れていった。
春。
山に 桜が 咲く。
秋。
石段は 落ち葉で いっぱいになる。
冬。
空は 透き通って、 星が 増える。
そして、 夏。
高校2年の 夏。
いつもの 神社。
沙市は 石段に 座っていた。
でも 今日は、 彩海が まだ来ていない。
空には 月。
星も 出始めている。
「遅いな。」
沙市は 小さく つぶやいた。
そのとき
背後から 声がした。
「沙市。」
振り向くと、 彩海が 立っている。
少し息を 切らしている。
「ごめん、 遅れた。」
沙市は 笑った。
「今年も 来たね。」
彩海も 笑った。
「約束だから。」
彩海は 隣の石段に 座る。
夜空には、 星が 増えていく。
そのとき
流れ星が 落ちた。
「見た!?」
彩海が 言う。
「見たよ。」
沙市は 笑った。
彩海は 空を 見上げながら 言った。
「ねえ 沙市。」
「もしさ。」
少しだけ 声が 小さくなる。
「これから先、 会えない日が 増えても。」
沙市は 黙って 聞いた。
彩海は 夜空を 見たまま言う。
「この神社に 来れば、同じ星… 見れるよね、?」
沙市は うなずいた。
「きっと…見れるよ」
そのとき、 また星が 流れた。
神社の 空の下で。
二人は、 同じ夜空を 見上げていた。
何年後かの 夏。
沙市は 一人で神社の 石段に 座っていた。
町の灯りは 少し増えていた。
でも星は、 あの頃と 同じ。
月も、 同じ場所に ある。
沙市は 空を 見上げた。
「来たよ。」
風が 吹く。
神社の木が 揺れる。
まるで、 誰かが 隣にいるみたいに。
沙市は 少し笑った。
「彩海。」
「約束だから。」
そのとき 流れ星が 空を 横切った。
沙市は 目を 細める。
「…見た?」
夜空は 静かだった。
でも星は、 変わらず 輝いている。
沙市は 空を 見上げたまま 言った。
「大丈夫。」
「約束は、 ちゃんと続いてる。」
神社の 空の下で。
あの夏の 約束は、 今も星と 一緒に 残っている。
そして きっと これからも。
誰かが 迷った夜に、
この神社で 空を 見上げたなら。
同じ星を 見つけて思うはずだ。
約束っていうのは、
会えなくなっても 消えないものなんだって。
空ではまた、 星がひとつ 流れた。
それはきっと。
-完結-
『あの夏、星が落ちた神社で君と約束した』
❦𝔸𝕐𝔸𓆪.⚔️💜