男「ッ…!」
男は突如目の前に振り落とされた剣から、1度屈んで飛び退く。
ゲティア「アンタが親玉か。」
そうゲティアは剣を向け、凄む。
男「王子様のところに向かわなくていいのか?」
(ローズ…!早くどうにかしろ…!)
ゲティア「すぐに倒れるような戦い方、俺は教えてないんだよ。剣の道で師匠を超えたんだ。なあんにも心配はいらない。ほら、いいのか?クリウス殿下一人まともに止められず行かせちまった、名ばかりの護衛兵に大物取られちまって。そんなプライドなかったのか?お前らは。」
ザックス「わざわざ、用意してくれたってのか?たまには気が利くじゃあねぇか。」
ゲティア「どーぞどーぞ。」
アロン「ゲティア…その言い方は…」
ゲティア「事実だろ。お前のその一貫した優しい態度が、俺は嫌いだ。…あの時、怒鳴ってくれた方が楽だったんだ。」
ローズと名乗る何か「ちょっと、私のこと忘れないで頂戴よ。」
アロン「ゲティア!」
ゲティアに振り払われた剣を、アロンは自身の剣で受け止める。
ゲティア「助かった。随分特徴的な喋り方を…」
ローズと名乗る何か「あらそう?私は生まれついてからずっとこの喋り方よ。」
ローズと名乗る屈強な体格の男はそう語った。その間にも剣撃は止まない。それを一つ一つ丁寧にアロンは流していく。
アロン「貴方は…」
ザックス「おいおい、お前だけ突っ立ってるつもりか?」
ゲティア「んなわけないでしょ。」
細身の男「づあっ…!?」
ザックスから逃げた先で細身の男にゲティアの剣撃が降りかかる。しかし、すぐに避けられ顔に切り傷が軽く入ったのみだった。
ザックス「おめぇ、すばしっこいだけで、ろくな戦闘経験積んでねぇな?はっ!そんななよっちさで、よく襲おうだなんて考えたなぁ?ええ?大方今まで逃げるだけの生き方してきたんだろ?こいよ、叩きのめしてやらぁ。」
ゲティア「悪魔を刺激するなこの大バカ!お前のその煽り癖…ほっんと…嫌いだ…。」
細身の男「蛮勇が…!」
ザックス「あぁ?蛮勇はおめぇだろ。」
細身の男「死にたくないんだよ!それだけだ!」
ザックスとゲティアが細身の男を剣で追い続ける最中、アロンとローズを語る屈強な男は、今も剣で戦っているとは思えないほど、自然と会話をする。
アロン「貴方はなんてことを…」
ローズと語る何か「あらやっと気づいたの?」
アロン「剣というものは個性が出ますから。」
ローズと語る何か「それでこそ、私の護衛兵ね。ねぇ、私の命令はどうしたの?私は貴方に私の邪魔をする命令なんてしてない。私はクリウスを守れと、ただそれだけを命令したはずなんだけど?」
不意に、ローズと名乗る男はアロンにぐいと顔を近づけ、その瞳で見つめる。
アロン「ッ…!」
アロンは飛び退き、顔に手を当てる。
アロン「その悪魔は囮だ!ローズ殿下を今すぐ止めろ!」
ゲティア&ザックス「はぁ!?」
アロンは握っていた剣を落とし、両手で顔を覆う。
アロン(まずい…これは…)
「目を合わせるな…!」
ゲティア「んな無茶な!」
アロン(…この感覚は…前にも…あれ…)
「何を…していて…あぁそうだ。クリウス殿下の元に向かわないと…」
ローズと語る何か「そうよ、それでこそ私の護衛兵ね。なあにその顔は?私はただ命令しただけよ。」
ザックス「ゲティア、お前はアイツの首でも見てろ。」
ローズと語る何か「あら急に冷静になったわね。」
ザックス「興ざめだぜぇ?ローズ殿下だか、なんだか知らねぇけどよぉ、俺はなぁ一方的に脅すやつァ嫌いなんだよ。それが悪魔だろうがなんだろうがなぁ。」
ローズと語る何か「私がいつ悪魔を脅したと?まっ、そうなんだけど。分かってないわね。本気で誰かを守りたきゃ、誰かを犠牲にする覚悟がなきゃ。狂気が足りないわね。」
ザックス「だろなぁ。でも、一つだけ否定するぜ。俺はなぁ、アンタと違って全部ひっくるめて守る兵士だ。誰よりもイかれてる自信はあるぜぇ?」
ザックス「つうことで、まずはお前を叩きのめしてやらぁ。おめぇもこんなんにヘコヘコしてんじゃねぇって、言いてぇとこだが…無理か。ありゃ正気じゃねぇ。」
ゲティア「アロンは…」
ザックス「ほっとけ。めんどくせぇから、クリウス殿下に押し付ける。」
ゲティア「不敬にも程がある。」
ローズと語る何か「あーあー、やだやだ。別に私は、あんたみたいに戦う趣味はないのよ。てことで、ちょっと早いけどやりなさい、ジハード。」
ジハードと呼ばれた細身の男は、ローズと名乗る男の言葉を否定する。
ジハードと呼ばれた男「だがまだ…完全じゃ…!」
ローズと語る何か「それくらいその辺のガキでも、喰ってどうにかしなさいよ。」
ジハード「約束が違う!」
ローズと語る何か「私の命令が聞けないわけ?」
ジハード「っ…」
ローズと名乗る男は、ジハードの首に剣先を突当てる。首から、一筋の赤い血が流れた。
ジハード「…『全ての苦悩は幻であり夢である。何も恐れることは無い。身を委ね、ただ眠ればいい。ただひとつ…』」
ローズと名乗る男は余裕そうに口笛を吹く。
ローズと語る何か。「相変わらず、見た目に似合わない綺麗な魔法ね〜。で…ロマンも欠けらも無いわねぇ。こーんな綺麗なものを見ても、剣を降ってくるなんて。」
ゲティア「ちっ…!」
ジハードに振りかざしたはずのゲティアの剣は、ローズと名乗る男の剣に受け止められる。
ジハード「『”魔力”を除いて。』」
ザックス「貰ったぜぇ!」
格好の的とでも言わんばかりに、ザックスは嬉々として、ただ立っているだけのジハードに剣を突き刺した。
はずだった。
ザックス「おいおい…」
ジハードに突き刺さったはずの剣は、ジハードではなく、ローズと名乗る男の腹に刺さっていた。
ザックス「ゲティア!魔法を使わせるな!」
ザックスがゲティアを呼ぶと、ゲティアはジハードに追撃を与えようとした。それすらも、ローズと名乗る男の手に突き刺さっていた。男は、自身の手に刺さった剣を掴む。赤い血が流れる。
ザックス(痛みを感じないわけじゃあねぇ。コイツは…)
ローズ「誰にも私の邪魔はさせない。目的を果たすためなら、私は自分の命だって賭けられる。」
ザックス「最強じゃあねぇか。」
ジハード「『おやすみ、そしておはよう。』」
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