ジーク「…まじかよ…」
ジークは、自身が持っていたカップに並々注がれた紅茶と、目の前に寝ている2人の兵士を見て、そうこぼす。
アマラ「ジーク!」
突如扉がばんと大きな音を立て、アマラが入り込んでくる。
ジーク「もうちょっとお淑やかにしろ!」
アマラ「すまん!!今すぐ…」
ジーク「アリィは?」
アマラ「それが分からないから今から探しに行く!」
ジーク「分かった。こんだけ騒いでも、起きないし大丈夫だろ。一つだけ聞いてもいいか?」
アマラ「あ、あぁ。といってもアタシも説明できるかどうか…」
ジーク「そこは大丈夫だ。俺は『寝てない』。俺をどうやって見つけたんだ?」
アマラ「そ、そこなのか…。片っ端から扉開けまくっただけだ。」
ジーク「冷静に見えるだけで、お前めっちゃ慌ててるな。」
ルスベスタン「…冗談ですよね?」
クリウス「冗談も何も言ってない…本気で覚えてない。」
クリウスはルスベスタンに引っぱたかれた頬を擦りながら、そう答える。
クリウス「まさか叩き起してくるとは…確かになんでこんなとこで寝てたのかは不思議だけど…」
ルスベスタン「さっきまで悪魔を食い止めてて…あ、あれ…?ゆ、夢と現実がごっちゃになってる…?」
(そんなはずは…何より…自分の勘がそうじゃないって言ってる…。)
クリウス「それで…どこに行けばいい?ルスベスタン。」
今にも砂で閉じられてしまいそうな洞穴の中、2人の男は語り合う。
ローズと語る男「ご苦労様。後は貴方はここで、のんびり余生を過ごせばいい。」
ジハード「…あぁ。俺を殺せば、お前の計画は台無しになるんだぞ。」
ローズと語る男「そうね。でも貴方がどこかに行ってしまうとも限らない。なら、足は切り落とせばいいでしょ?腕があれば魔力の補給はできるでしょうし。」
ジハード「…そうだな。でも」
ジハードは、ローズと名乗る男の剣を掴み、振りかぶるのを止めようとする。
ジハード「痛いのは大っ嫌いだ…!!」
ローズと語る男「…そう。私の命令が聞けないのね。私を愛してくれないわけ?」
ジハード「愛してる…!?そんな訳ないだろう…!」
ローズと語る男「…残念だわ。貴方…最初から…」
ジハード「俺は、お前に会っておかしくされる直前にあの魔法を使ってる…!」
ローズと語る男「正気に戻ったと…本当に残念だわ。なら用済みよ。」
ローズと名乗る男は抑えられているとは思えないほど、自由に剣を動かし、ジハードの腹を突き刺す。
ジハード「がはっ…!」
ローズと語る男「ねぇ知ってる?悪魔の遺骨って…しばらく魔力が残留し続けるのよ。丁度今他にも、悪魔が数人居るみたいだし…替えは効くわ。…何その目。」
ジハードは口から血を吐き、うつ伏せる。しかし、ただ1点ローズと名乗る男を睨み続ける。
ローズと語る男「やだやだ。…貴方達まで私を悪者扱いするわけ?」
そう言い、ローズと名乗る男はジハードではなくルスベスタン達を見る。
ルスベスタン「キールさん。」
クリウス「分かってる。」
一言二言短い会話をして、クリウスはジハードとローズと名乗る男の間に立つ。ローズと名乗る男はクリウスの元に向かおうとする。しかしその足がそれ以上進むことはない。
ルスベスタン「貴方の相手は自分ですよ。」
ローズと語る男「あら、最愛の弟との感動の再会を邪魔するわけ?」
ルスベスタン「こんなことしておいて、まだ望むつもりですか?」
ローズと名乗る男「それが何か?」
ルスベスタン「…それは貴方の体じゃない。死後利用されていいヒトなんかじゃない。」
ローズと語る男「もしかして家族とか?あらごめんなさい。でも似てないのね。」
ルスベスタン「そうでしょうね。血は繋がってないですから。ずっと行方不明で…まさかこんなのに利用されているとは思いませんでした。…キールさんに気を使って言わないようにしてましたけど…もう限界です。ローズ・アルド・トーチアス、それはお前の為の体じゃない。彼の名は、タンザ。彼だけの体だ。返してもらう。」
ローズ「…へぇ?貴方中々やるのね。そこまで気づけたヒトは今まで居なかったわ。あぁ、家族だったものね?でもいいの?そんな大切な人に傷を付けることにっ…!?」
ローズの話が終わる前に、ルスベスタンの拳がローズに飛ぶ。
ローズ「容赦ないわね…!」
(面倒だけど…アレを…)
ローズ「っ…!」
(早い…!というか私の剣が一切当たらない…!?)
ローズ「目が…開いてない…!?」
そのあまりに一方的な戦いに、クリウスとジハードは呆然とする。
ルスベスタン「自分は悪魔なんて詳しくないですし、魔法なんてもっと分からない。でもね、先に戦ってくれたヒト達のおかげで、お前の発動条件は読めてるんですよこちとら。目を合わせること。なら、最初から目なんて使わなけりゃいい。」
クリウス「…大丈夫そうだね。」
そう言うとルスベスタンから、クリウスは目を逸らし、ジハードに手当をしようとする。
ジハード「ま、待て…俺は悪魔だぞ…!?」
クリウス「だからだよ。事情聴取ができるまたとない機会だ。…まぁあまり状況が飲み込めてないから、ルスベスタンの言う通りにしてるだけなんだけど…」
ジハード「……。」
クリウス「…言っておくけれど、彼が嘘をついたことは1度だってないよ。…だから多分、あのヒトは…」
ローズ「ああ!ああ!いやね!その全て分かってるみたいなすまし顔!まさか貴方、私と同じ化け物ってわけ?」
ルスベスタン「いいや?自分を信じているだけですよ。」
ローズ「ぐっ…!」
(かすり傷1つすら付けられない…!どうして…!)
ルスベスタン「音って、耳に届くまでがかなり早いの知ってます?」
ルスベスタンは顔色一つ変えず、そう問いかける。
ローズ「まさか…!?」
ルスベスタン「もらった!」
ローズ「あがっ…!?」
一瞬動きの硬直したローズの足を、ルスベスタンは掬い転ばす。
ルスベスタン「死んでもらいましょうか。」
ローズが体勢を整える前に、ルスベスタンはローズの首元に短い刃を突きつける。
ローズ「っ…こんなとこで計画を失敗させる訳には…!」
ルスベスタン「……。」
ローズ「…アロンは…」
ジハード「忘れたのか?俺の魔法は、『やり直し』だ。お前が死んでから効果が薄まり、あの時かけ直した魔法も対象に含まれてる。」
ローズ「…そうだったわね。」
クリウス「ルスベスタン。」
クリウスはルスベスタンに、自分の剣を投げ渡す。
クリウス「それじゃ、流石に切れないからね。」
ルスベスタン「…いいんですか?」
クリウスは何も言わない。
ルスベスタンは剣を使わず、ローズの首を強く手で打つ。
ルスベスタン「…いつ役に立つんだこんなの…と思ってましたけど役立つ日がついにきましたね。」
クリウス「ルスベスタン…いいの…?」
ルスベスタン「…良いわけないじゃないですか。…たとえ王子様が見届け人になってくれたとしても、これは国の問題で一般人が手を出すべきじゃない。」
クリウス「…気づいてたの?」
ルスベスタン「はい。でも僕の友人はクリウス殿下ではなく、キールさんです。」
そう言い、クリウスに笑みを浮かべる。
クリウス「嬉しいことを言ってくれるね。この悪魔はどうすれば…」
ルスベスタン「もう少しで来ますよ。それまで待ってください。」
クリウス「…来るって…」
ルスベスタン「ほら、これ被っててください。」
ジハード「ターバン…。」
ルスベスタン「さっき言ってたやり直しの魔法の精度がどれくらい高いのかは知りませんけど、精神に異常を与える魔法は、普通パッとは治らない。暫くそれで目を覆って深呼吸でもしてて下さい。…一応言っておきますが綺麗ですからね…。」
ジハード「…ありがとう。」
ルスベスタン「来ましたね。」
クリウス「え?」
クリウスが洞穴の外に目を向けると、そこには壁にしがみついた手があった。
クリウス「ばっ、ばけ…化けて出て…!」
クリウスが悲鳴をあげる前に手の主は、洞穴の中に入ってくる。
アマラ「ちょっと…まて…ひぃ…きゅうけい…」
ルスベスタン「お待ちしてました。『梟』。」
ルスベスタンは、水の入った皮水筒をアマラに差し出しながらそう言った。
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