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マリエルさんが戻ってくるまで、私とカレンは自己紹介も兼ねて色々な話をした。
カレンの年齢は13歳で、思った通り年上だった。彼女がジェムラート家で働きだしたのは5日前。私は王宮に行ったきり一度もお屋敷には戻らなかったので、彼女の事が分からないのは当然だった。
ちなみにカレンは正規ではなく臨時雇用らしい。なんでも友人と一緒に人探しの旅をしていて、ジェムラート家で働いているのはその資金を稼ぐためなのだそうだ。期間は1ヶ月だって。
「その人は私達にとってとても大切な方なの……」
「そうなんだ。早く見つかるといいね」
「ありがとう、リズ。エストラントに来たのには理由があってね。ずいぶん前になるんだけど、その方の目撃情報があったからなの。今はもう別の場所に行ってしまっているかもしれない……でも、足取りを辿るヒントくらいは見つけられるんじゃないかって……」
きっと複雑な事情があるんだろうな。大切な人が行方知れずになるなんて辛いにきまっているだろうに。もし、私の目の前から突然クレハ様がいなくなってしまったらどうする? 無理……想像しただけで発狂しそう。
「私にもお手伝いできることがあったら遠慮なく言ってね。その人の特徴とか聞いてもいい? もしかしたら町で偶然すれ違うなんてことがあるかもしれないし……」
「リズは優しいんだね。会ったばかりの私の話をこんなに親身に聞いてくれるなんて……」
「そんなことないよ」
カレンの境遇を自分に当て嵌めて考えたら、とても他人事とは思えなかったのだ。今までカレン達が必死に探して見つからなかったのに、そんな都合良くとは思うけれど絶対にないとは限らない。話を聞くくらいは良いだろう。
「えっとね、その人は……」
カレンは頬を赤らめながら、探し人について語ってくれた。どんな方なんだろう。
「カッコよくて優しくてね……でもちょっとうっかりしてる面もあって、そういう所も私は魅力的だなって思ってるんだけど……ほら、全部が完璧な人よりもそっちの方が親しみを感じられるじゃない? 私達が側にいてお助けしなきゃって気持ちも湧いてくるし。やり過ぎると照れて怒られちゃうんだけどね。ぶっきらぼうで口では素っ気ないことを仰っるんだけど、眼差しは思いやりに溢れてて……いつも私達のことを気にかけて下さっているの。まるで太陽みたいに暖かくて眩しくて素晴らしい方。こんな感じかな」
「……なんて?」
どうしよう……カレンがその人の事を大好きって事以外は何も分からなかった。その方がどれだけ素晴らしいのかを熱弁してくれたけれど、その中には見た目などの特徴が一切含まれていないのだ。男か女かすらも判別できない。カレン主導で話してもらうより、こちらから知りたい事を聞いていくスタイルにしよう。
「あっ、ああ……ごめんね。とっても素敵な方なんだね。えーと……その人は男性? それとも女性? 年齢は……」
「男の人だよ。歳は私と同じで13歳」
「13歳!?」
子供じゃないか……何となく大人のひとを想像していたので、これには驚いた。更に詳しく聞いていくと、行方知れずになっている理由は事件や事故ではなく、本人の意思によるものだという。
「もしかして……家出?」
「家出……とは違うんだけどね」
自発的に姿を消しているとなると、私には家出くらいしか思い付かない。でも、カレンの歯切れの悪い言い方からして、その方が行方をくらました経緯には、かなり込み入った事情がありそうだ。詳細を聞いても答えてくれなそうなので、他の質問をしていくことにしよう。容姿についても聞いておきたいし。
「事件とかでないのなら良かったよ。でも居場所が分からないのは不安になっちゃうね」
「うん。私達もご一緒しますって申し出たんだけど、それじゃ意味がないからっておひとりで……。あの方を信じて待つのが正しいと頭では理解してる。でもどうしてもじっとしていられなくて……怒られるのを承知で後を追っているの」
「本当に大切な方なんだ。ねぇ、カレン。その人はどんな見た目をしているのかな? 髪の色とか……体格とか、似顔絵でもあれば良いんだけど……」
「私、小さいけれど肖像画を持ってるよ。いつも持ち歩いているの。見せてあげるね」
カレンは襟元に手を差し入れた。そこから現れたのはロケットペンダントだった。彼女はこのペンダントの中に肖像画を入れているらしい。いいな……私も真似しようかな。
「あらあら、すっかり意気投合しちゃって」
「あっ、マリエルさん……」
カレンがロケットを開いて中を見せてくれようとしたのだけど……それは女性の声によって中断されてしまった。声の主は私とカレンをここへ連れてきたマリエルさんだった。カレンとの話に集中していて気付かなかったのだ。
「マリエルさん、いつの間に……ってモニカさんにナタリーさん……イヴさんまで!? どうしたんですか、皆さん揃って……」
なんとそこにいたのはマリエルさんだけではなかった。彼女の後ろには十数人程度の使用人達が控えていたのだ。それはクレハ様付きの侍女達を中心に見知った顔ぶればかりではあったけれど、状況が全く飲み込めない私はおろおろとしてしまう。隣にいるカレンも同様だ。
そんな私達を見て、この集団を引き連れて来たマリエルさん……ではなく、モニカさんが説明を始めた。
「びっくりさせてごめんなさいね。マリエルったら、ろくに説明もしないであなたをここへ連れて来たみたいね。そんなに身構えなくてもいいのよ。私達、リズに聞きたいことがあるの」
そういえば、マリエルさんもそんなこと言ってたな。てっきり私とカレンを会わせるために適当に作った理由だと思っていたから忘れていました。
しかし、それはそうと……私はいつになったらセドリックさん達と合流できるのだろう。