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中等部での波乱万丈な初日を終え、寮の夕食でお腹を満たした二人は、着替えを持って大浴場へと向かいました。
時刻は少し早めの19時。多くの生徒が自習室や談話室に流れたタイミングだったのか、脱衣所のカゴはほとんど空っぽ。扉を開けると、湯気の中に広がる大きな浴槽が、二人を静かに迎えてくれました。
「……ひろと、誰もいないね」
「ああ、貸切だな。運がいい」
少し低くなった声が、高い天井に反響します。
二人は並んで座り、慣れた手つきでお互いの背中を流し始めました。保育園の頃からお泊まり会の度に一緒にお風呂に入ってきた二人ですが、中学生になり、少しずつ体つきが大人びてきた今の状況には、どうしても隠しきれない「照れ」が混じります。
「ひろと、背中……また大きくなった?」
「そうか? お前こそ、肌が白すぎて……その、なんか眩しいんだけど」
「えっ、そうかなぁ。……あ、痛かったら言ってね」
元貴の細い指先が背中に触れるたび、滉斗は心臓の音がうるさくなるのを感じて、わざとシャワーの音を大きくして誤魔化しました。
体を洗い終え、二人は大きな浴槽の端っこに並んで肩まで浸かりました。
「ふぅー……」と、元貴が幸せそうに息を吐き出します。
「……気持ちいいね、ひろと」
「……だな。学校、疲れただろ」
「うん。でも、ひろとがずっと隣にいてくれたから、大丈夫だったよ。……ねえ、見て。お湯の音、ここだと『ぽわん』って丸く聞こえる」
元貴は耳を水面ギリギリまで近づけて、静かな浴場の音を楽しんでいます。聴覚過敏の彼にとって、誰もいない静かな大浴場は、最高の癒やしスポットでした。
湯気に包まれて顔を上気させた元貴が、不意に滉斗の肩に頭をこてん、と乗せました。
「……もとき、のぼせるぞ」
「ん、あとちょっとだけ……。こうしてると、ひろとの心臓の音が聞こえて、安心するの」
滉斗はドクドクと速まる自分の鼓動がバレないか冷や冷やしながらも、逃げ出すことはできませんでした。結局、自分から元貴の肩をそっと引き寄せ、広いお風呂の真ん中で、二人だけの小さな円陣を組むように身を寄せ合います。
「……明日も、俺が全部の音から守ってやるから。安心して寝ろよ」
「うん……ひろと、大好き」
ホカホカに温まって脱衣所に出ると、そこにはタオルを首にかけた涼架が待っていました。
「あ! 二人とも、ちょうどいい湯加減だった? 二人が入っていくのが見えたから、僕、誰か来ないように入り口で見張ってたんだよ〜」
「えっ、涼架さん……わざわざ?」
滉斗が驚くと、涼架は「へへん」と得意げに胸を張りました。
「だって、初日は二人きりでゆっくりしたいでしょ? 僕ってば、気が利くお兄ちゃんだよねぇ」
天然なのか計算なのか分からない涼架の優しさに、二人は顔を見合わせて、今日一番の笑顔で笑い合いました。
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