テラーノベル
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藍林檎学園の夜は、静寂そのものでした。
昼間の賑やかさが嘘のように、寮の廊下の明かりも落とされ、204号室は深い闇に包まれています。
元貴は、一度は深い眠りに落ちたものの、時計の針が深夜2時を回る頃、ふと意識が浮上しました。
一度目が覚めてしまうと、昼間は気にならなかった「音」が耳について離れなくなります。
遠くで鳴る冷蔵庫の微かな振動音、窓を叩く風の音、そして自分の規則正しい鼓動。
(……ねむれない。なんだか、すごく、こわい……)
聴覚過敏の元貴にとって、静かすぎる夜は逆に不安を増幅させることがありました。暗闇の中で一人、得体の知れない不安に飲み込まれそうになり、胸が苦しくなります。
昼間の楽しかった記憶が遠のき、自分が一人きりで暗い海の底に沈んでいくような、夜特有の孤独感が襲ってきました。
「……ひろと、」
震える声で、反対側のベッドに向かって呼びかけました。
「……ん、……もとき?」
滉斗はすぐに反応しました。眠りは浅かったのか、あるいは元貴の気配に敏感な彼だからこそ、その小さな震えに気づいたのかもしれません。
ガタ、とベッドから降りる音がして、滉斗が元貴のベッドの横にやってきました。
「どうした、寝付けないか? どっか痛い?」
「……ううん。なんか、こわくなっちゃって……ごめんね、起こして」
元貴の瞳が潤んでいるのを見て、滉斗は迷わず元貴の掛け布団をめくると、その中へ潜り込みました。
中等部のシングルベッドは、13歳の男子二人が入るには少し狭いけれど、今の元貴にはその窮屈さが何よりも救いでした。
「……バカ、謝んな。俺の隣、こい」
滉斗は元貴を背中から抱きしめ、大きな手で元貴の耳をそっと覆いました。
「俺の心臓の音だけ聴いてろ。……ほら、ドクドク言ってるだろ。俺はここにいるから」
「……あったかい」
滉斗の体温と、耳を塞ぐ手の温もり。そして、背中から伝わってくる力強い鼓動。
それらが混ざり合い、元貴の頭の中を占めていた「夜のノイズ」をかき消してくれました。
「ひろと……明日も、一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ。小2からずっと一緒なのに、今更どこにも行かねーよ」
滉斗のぶっきらぼうな、けれど愛おしそうに囁く声に、元貴はようやく深く息を吐き出しました。
不安で強張っていた指先から力が抜け、心地よい眠気が再び訪れます。
「おやすみ、ひろと……」
「……おやすみ、もとき」
翌朝、抜き打ちの点呼に来た寮監の先生に、二人が一つのベッドで丸まって寝ているのを見つかり、「仲が良いのもほどほどに」と苦笑いされるのは、もう少し先のお話です。
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