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#1
人は、お母さんのお腹の中から赤ん坊として産まれる。
その産まれる子はランダムに選ばれて産まれ、ランダムに親が決められる。
それを「子ガチャ」、「親ガチャ」と言い、流行語大賞として今では有名だ。
親が子供を選べないように、子供は親を選べない。
では、親は子を、子は親を選べたとするなら。
その親子の関係は、本物の『愛』と、呼べるのだろうか?
――私は三度、親に選ばれなかった。
生まれ損ねた魂は、ただ保護都市で次の面接を待つしかない。
『親を選べる世界』は、私のような“選ばれない者”を生む世界でもあった。
保護都市は灰色の街だ。空は常に薄曇りで、建物は同じ形の箱のように並んでいる。
面接では、主に『氏名、等級、記憶保持率、前世履歴、死因、得意分野、苦手分野、親希望条件』――そして、非公開事項。
非公開事項を除外した、プロフィールに10つの事項がある。
その条件に合った親が面接を希望し、私達はその親に引き取ってもらう様、訓練を怠らない。
面接は月に一度。
それまで、訓練室で笑い方や話し方、振る舞い方を磨き、過去の人生を棚卸しする。
「どんな親を望むのか」「どんな子であるべきか」答えは決められたマニュアルに沿っている。
私はそれを読む度に吐き気がした。
マニュアル通りに生きて、マニュアル通りの人生を過ごす。
そうしなければ、拾ってもらう事が出来ない。
『いい子で居て欲しい』――私達の親も、それを望んでいるのだ。
――今日も鏡の前で笑う練習をする。
鏡に向かって、鏡の向こうの自分に微笑む。
『もっと柔らかく』『愛されたい気持ちを目に出して』
管理者に指示されたように口角を上げ、目を見開き、ハイライトを入れる。
――時々思う。『本当の自分とは、誰なのだろうか』と。
――そんなことを考えながら、また微笑み掛ける……ところだったのに。
鏡には笑ってる、どこか怒ってる「前世のママ」が映し出された。
「あ…………や、だ」
挫け倒れて後ずさった。
真っ白だった視界が真っ黒に染まり、鏡の向こうだけが映し出される。
映し出されたママは片手に、どこか大きく、真っ赤なハサミを持っていて。――そして。
「やめ……て……やめて……!!」
ママはブツブツ何かを言いながら、ハサミを私に向けた。
怒鳴られながらら涙を流されながら。
腕を切られて、足を切られ、最後に目を刺された。
それからママは、バラバラにして私をトイレに流した。
――まるで、長い長い、リアルな夢を見ているような気分だった。
夢であってほしかった。でもそれは紛れもない現実で。
――そして、それが私の、生まれて初めての1番目のママとなる。
初めての命の始まりで、初めての死だ。
そう、“それが全ての初めてだった”。
――さむい、つめたい、いたい……
やめて…もうやめて……
「・・・・・」
聞こえる。
「・・・ろ!」
感じる。
「・・きろ!」
あの時の痛みが。
「ガハッ……」
目を開けると、そこはまた、真っ白だった。
髪と真っ白な服が濡れていて、踏んづけられた黒い跡がある。
気付いたら周りには誰も居なくなっていて、広く、真っ白な部屋に1人だけ。
管理者も誰も居ない。そうだ、私は放置されたのだ。
何を思ったのか立ち上がり、鏡の向こうの誰かに対して微笑んだ。
薄々気付いていた。私は愛して欲しい、その相手がいないから上手く表情を作れない。
――私は奇形持ちだ。
私の目は産まれつき、左目が赤色だ。
いわゆる、オッドアイというやつなのだろう。
普段、左目を隠している白い眼帯を外し、自分を鏡越しで見つめる。
今思うと、あのママは私の左目を見て、恐れてしまったのかもしれない。
なんせ、その赤い目は『不幸を呼ぶ目』と言われており、病名は『呪眼症』。
この病気は治療法が無く、奇形の中で一番、差別が酷い。
産んだら子によって家庭が不幸になる、だとか。正直言って、馬鹿げている。
――自室へ向かおうとしていた時のことだ。
「ねえ、皆はどんな親に選ばれたい?」
「優しい人がいい!」
「わたしもー!」
「面白い方がいいかも!」
「たしかに、楽しそう!」
「ね!一緒に部屋まで行こうー」
「そうしよ!」
「賛成!」
通りすがり、皆がワイワイと楽しそうに話をしていた。――私にはそのような楽しい話を出来る相手が居ない。
この左目によって、どうしても背徳感を感じ、毎度独立してしまうのだ。
いつの間にか、誰にも見向きもされなくなっていた。
今まで、ここで過ごしてきて5年の月日が経っている。
面接は月に一度だが、面接立候補の親が居なければそのまま待機となる。
そして、私は5年間生きてきて、面接は3度しかしたことが無いのだ。
こんな、奇形持ちの子供なんて、拾いたくもないからだろう。
支度を済ませ、眠りにつく。
――このまま、どのママにも選ばれなければ。
25年間以内という限りのある時間の中、誰一人にも選ばれなければ。
私の魂は消されてしまうのだろうか?
――いっそ、消えてしまいたい。
この世から私が消えてしまっても、誰も悲しまず、誰も気付きやしないのだろう。