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❤side
目黒に会うのをやめてから、俺は空いた穴を玩具で無理やり埋め込んでいた。
体温も気配もないそれはただ単調で淡白な快楽しか生むことがなく、それはただ寂しさを膨張させるに過ぎなかった。
ただそのおかげで後孔はほぐれかけていて、久々だからといい挿入までに時間がかかることはなさそうだった。
再び俺に許可を取ってから、後孔に優しく指を沈ませた目黒はその柔らかさに一瞬疑問をいだいたような、もしくはなぜか不服そうな表情を浮かべては、独り言のように言葉をこぼした。
🖤「……俺を呼んでくれればよかったのに」
❤「ぇ、?」
🖤「なんでもないです」
それ以降表情が若干曇っているような気がしてならなかったけれど、そんなことを気にしていられるほどの余裕も快楽に蝕まれていった。
目黒の指が中に入っている。欲しくてたまらなかったその久しい感覚は、緩慢な動きで俺の欲望を掻き立てた。
無意識に前後に揺れる腰がベッドを軋ませて、聴覚を侵していく。そんな荒ぶる俺の身体に微笑んで指を添わせた目黒は、先程の不満そうな顔とは打って変わってどこか楽しそうに指の関節を曲げた。
❤「んぁ゛っ、そ、っこぉ、やっだ、んぁ、や゛めっろ、っれぇ」
🖤「ねぇ舘さん、気持ちいいですか」
❤「んぁ、ぇ、っめ、ぐろ、んぁ、っなん、っで、、?」
いつも問われるその質問の意図は、どろどろになった思考ではいつも掴めないけれど、なぜか今日の目黒は哀しそうに怒っていた。回らない頭でもそれが分かってしまうほど、明らかに。
だんだんと感情的になっていく目黒の細い指先が、なまぬるい快感を強く濃いものへとその手で変えていく。
🖤「……慣れた快感でも気持ちいいんですか」
❤「んあ、っなに、いって、んっ、んぅ゛あっ゛」
🖤「そこら辺の男のほうが俺よりもいいって言うんですか」
❤「ぁっ、はぁ、め、っぐろ、あっ゛、や、っばぃ、それっ、いっ゛ちゃ、」
目黒の言っていることが、俺には分からなかった。それになんで、なんでそんな傷ついた顔をしているのか、何に怒っているのか、懸命に考え込んでも快楽に邪魔をされて結論なんて出せやしなかった。
止まらない指の動きに喘いでは、なんだかいつもと違う感覚が迫りくるのに耐えるように俺は目をぎゅっと瞑った。
❤「な゛んっか、ちがっ、ん゛ぃあっ、めっ、ぅろ、い゛くっ、から゛ぁっ」
🖤「イっていいから、俺のこと以外全部忘れてください」
そう耳元で囁いた目黒の声に限界を迎えて果てたものの、絶頂に達した快感は中々引かず、打ち寄せてばかりの快楽に耐えかねて身を捩った。壊れてしまったかのように、身体の痙攣が止まらない。
なんだこれ、なんかやばい。
なんかいつもと違うような気がしながらもその正体に自分で気付くことはなく、満たされたような声で目黒に指摘され、やっと気がついた。
🖤「舘さん、出さないで中だけでイっちゃいましたね」
❤「っはぁ、っん、ぁぇ、?」
🖤「……かわいい」
ひとつの線引なのか、目黒は行為中絶対に俺の頭を撫でない。一度髪に手が触れかけたことがあったものの、一瞬でその手を引っ込めたから意図的にそうしてるに違いない。
そんな俺と目黒の間にある余白が、蝋燭のように不安定な関係性が、寂しくてもどかしくて仕方がない。
低めの声で名前を呼ばれ、ぼんやりとした視界のまま声の方に目を向けると「挿れてもいいですか」とまた許可を問われた。やっと身体の痙攣が治まってきた俺は、頭の回らないままに目黒に問いかけた。
❤「なん、で、きょう、いちいち、許可とるんだ、?」
🖤「え、あぁ、いや、あの……さっき、あんなことがあったから、突然触れられたら怖いかと思って」
❤「え……」
あまりに優しすぎる回答に、胸に抱えた罪悪感が再び顔を出した。どこまで優しいんだよ、こいつ。
そんな健気で優しい男に縋り付いて縛り付けて、無理をさせている自分自身を自覚して、身体が重たくなったような気がした。
自責に耽っていると他のことを考えている俺に気がついて目黒は再び名前を呼んで意識を現実に向けさせた。
🖤「今、他のこと考えないでください」
❤「……目黒。許可、とらなくていいよ」
🖤「え?」
❤「俺を抱いてるのが目黒だってちゃんと分かってる。だから、怖くないから」
そういった数秒後、俺の中に熱く固くなった目黒のソレが薄い隔て越しに俺の中へと入ってきた。
力を抜くように息を吐き出すと、掠れかけた自身の声が微かに濡れた唇からこぼれ落ちていった。
俺の腰を掴んでゆっくりと前後に揺すりながら、呆れたような笑みを浮かべて吐き捨てるように目黒は言った。
🖤「っそういうこと、他の男にも言ってるんですか」
❤「ぁっ、んぁっ゛、ほかの、っおとこ、??」
ここで俺はやっと目黒がしている勘違いに気がついた。
多分こいつ、俺が目黒以外の男に常日頃から抱かれてると思ってる。
それが分かった途端、先程からの発言も、曇ったような表情も、途端に理解できた。しかし、なぜ俺が他の男に抱かれることを目黒が嫌がる必要があるのかがいまいち理解できず、納得はできなかった。中古品は嫌だってことか?
❤「んっ、ぁ゛、だかれて、っない」
🖤「……は」
目黒は目を見開いて、驚くままに動きを止めた。
❤「っはぁ、目黒以外の男に、抱かれてなんかない」
🖤「じゃあ、なんで数カ月も会ってなかったのにこんな緩いんですか」
❤「っ……それは、」
恥ずかしすぎて、みっともなさ過ぎて、言えない。
目黒に会えないのが寂しすぎて、目黒に抱かれてる時を思い出しながら玩具で弄っていたなんて、言いたくない。
そう口を固く閉ざすと、目黒は強気な表情をして催促をするように腰を奥へと打ち付けた。
🖤「……うそつき」
❤「あ゛っ、う゛そじゃなっ、ぁいっ゛、ん、っん、あ、っぁ」
🖤「じゃあ教えてくださいよ、舘さん」
目黒はいつも耳元で名前を呼んでくる。それは大抵、俺が快楽に溺れはじめたときのことで、目黒に飼いならされた身体は、そう名前を呼ばれただけで感じてしまい、結んでいた口は呆気なく解けていった。
❤「おも、ちゃっ、つかって、った、っぁ、か、らっ゛」
🖤「玩具?」
❤「めっ、ぅろに、あえないの、うめたくて、ぇっ、ひとりでっっ、んぃ゛っあ」
🖤「え、なに、寂しくて一人で玩具で遊んでたってことですか??」
目黒の目がどんどん見開かれて、しまいには俺を貫いてしまいそうな眼光で見つめてきた。
どんどん速くなっていくピストンに身体を震わせ、目黒の質問に自棄になったように頷きながら、明日のラジオ収録のことなんて忘れて声を荒げた。
🖤「っなんで俺のこと呼んでくれなかったんですか」
❤「ん゛ぁっ、っめぐろ゛に、っむり、させたく、なかっ゛、た、っか、らぁ゛」
🖤「無理って、負担が大きいのは舘さんの方でしょ……俺は別になにも無理してないですよ?」
❤「っあ゛、すきでも、っない、男をだくっ゛、っのが、むりじゃないっ、てぇ、いうの、か、?」
🖤「は、? それは舘さんのほうでしょ? ……え、どういうこと?」
だんだんと速度が落ちていくのを感じ取りながら俺は後孔を締め付け、必死に乱れきった呼吸を整えようとした。
目の前の目黒はなぜか唖然としたまま固まっている。なに、なんか俺変なこと言ったっけ。
え、無意識に本音こぼしたとかじゃないよな?
指先から高ぶっていた体温が波のように引いていくのを感じる。この行為が、この関係が今夜で最後かもしれないと思うと、ずっと前から分かりきっていた終幕だと言うのに、それは絶望的なことのように思えた。
❤「……め、ぐろ」
何の気配もなくなったような沈黙に耐えかねて、縋り付くように目の前の男の名前を呼んだ。
そして背けられていた顔はこちらへ向けられ、その表情に俺は困惑した。
なぜか目黒は肌をじんわりと赤く染めて、手で顔を半分覆うようにしていた。熱っぽい瞳はクラクラと揺れていて、でも確かに、俺だけを見つめている。
胸が締め付けられたように苦しそうで、それでも表情は柔らかいままだった。
あれ、なんかこの感じ、知ってるような。
やっと口を開いた目黒の声は微かに震えていて、いつもの心の通ったような力強さは感じられない、柔らかく、あたたかく、優しく、儚い声色だった。
🖤「舘さん、……俺、舘さんのことが好きです」
❤「…………え、?」
いまこいつ、なんて言った??
妄想??幻覚の類いか、もしくは夢なのか? それならいったいどこから??
途端に脳内が疑問符でいっぱいになり溢れていく。どこまでが目黒の優しさで、どこからが目黒の本音なのか理解できず、俺は口が半開きになっていることにも気付かないままに、ただ目黒の言葉を受け止めた。
🖤「ずっと、ずっと大好きで、でも舘さんを困らせたくなくて、思いは胸に仕舞ってました。でもあの日、舘さんからキスされて、わけ分かんなくなって、気がついた頃には身体を重ねてて」
ゆったりとした口調の中に、若干の不安が混ざり溶けているのが垣間見えた。
そんな必死に紡がれたような声を聞けば、その言葉を、大好きな目黒を、疑うことなんて冗談でもできやしなかった。
🖤「少しでも舘さんの助けになりたくて……いや、違う。あの日の俺は自分のためにこの関係を持ちかけたんです、きっと。そうすれば誰よりも舘さんの近くにいれるから。舘さんに触れることができるから」
❤「……めぐろ」
🖤「すみません。……でも、だんだん苦しくなってきちゃって。こんなに傍にいるのに、いつまでも距離は空いたままで。いつからか仕舞っていたはずの感情が溢れてきちゃって、なぜか舘さんから連絡も来なくなって、もう限界ってなってるところに、今日、知り合いの俳優さんから連絡が来ました」
混乱と、喜びと、ほんの少しの不安。
美しい雪景色に胸をときめかせながらも、振り返った先には足跡が消えていて、途端に存在のない不安に覆われるような、そんな感覚がする。
🖤「『舘さんの様子がおかしい』って言われて、急いで家を出ました。あの人の黒い噂は、多少耳にしていたんで。舘さんが他の男に触られてるのを見て、抑えられなくなりそうなほど怒りが湧いてきて。傲慢だって分かってるんですけど、俺だけが舘さんの嫌なことを忘れさせられるって、それしか考えられなくなって。それで……」
ほんの少しでも目を逸らせば、目の前の男を傷つけてしまいそうな気がして、俺は瞬くことも忘れて目黒を見つめた。透き通るような美しい瞳もまた、真っ直ぐに俺を見つめている。
目黒が、俺のことを好き?
それは夢や妄想や冗談のようで、でも、今この空気を伝う言葉に乗せられた感情は、疑いようのない純粋な愛だった。
🖤「触れても、キスをしても、身体を重ねても、舘さんはいつも嫌がらなくて。もしかしたら、って都合のいいことばかりを考えてました。……舘さん、俺は、この関係はもうこれで終わりにしたいです」
まるでドラマのワンシーンのような光景はどうやら紛れもない現実らしく、脈拍がとくとくと駆け足になっていくのを微かに感じた。
🖤「舘さん、こんな関係になって、信じられないかもしれないですけど、俺本当に舘さんのことが好きです。……舘さんは、こんな酷い俺のこと嫌いですか」
あー、ずるいな、こいつ。この男はきっと、その気になれば女性だけでなく男だって容易く堕とせてしまうんだろう。そんな男が選んだのが俺だなんて、信じられるわけがない。でも、目黒の言葉を、俺は信じたい。
❤「……嫌いなわけないだろ」
嫌いな訳が無い。嫌いになれるはずがない。だってこんなにも大切で、苦しいほどに大好きで、隣にいてほしくて、離したくない存在なんだから。
❤「ずっと、目黒が欲しかった」
なんだか気恥ずかしくなってしまい、火照った肌のまま言い訳をするようにそう言葉をこぼすと、柔らかい唇が再び触れあった。
目黒の長細い指が、俺の黒髪を優しく梳いていく。待ち望んでいた初めての感覚に溺れそうになり、俺はしがみつくように目黒を求めた。
やさしく体温で互いを溶かし合うように舌を絡める。動きを止めていた腰を徐々に揺すられて、俺は「もっとこい」と言う代わりに目黒の身体に足を絡めて挑発をした。
驚いたように見開かれた目黒の瞳は欲に染まっていて、それはまるで捕食者のようだった。
あぁ、俺は今から喰われるんだ。他でもない、俺だけの目黒に。
🖤「舘さん、ごめん、今日俺止まれないかも」
❤「好きなだけ味わえばいいよ」
段々と加速していく律動とベッドの軋みが、幸福の中に揺蕩っている。
調子に乗ってしまえばいいのに、こんなときでも律儀に謝ってくる目黒に思わず笑ってしまいそうになった。
そんな健全な誠実さとは裏腹に、俺の腰を掴む指に込められた力は強く、「どこにもいかせない」とでも言うように俺の奥を穿ってくる。
遠慮なんてしなくていい。やりたいことをすればいい。だって、
❤「俺はもう、目黒のものなんだから 」