テラーノベル
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峰水香さんから、九さんが俺達に会って話したがってると連絡があった。うーん、と言っても仕事詰まってるんだよなあ、夕飯の後、夜ならまあ空けられるけど……。
とりあえず、夜なら空けられますと返事したら「それでいいそうです」と連絡があった。いいんだ? そんなに話したいことでもあるのかな?
約束の時間、九さんが玄関に現れた。
「夜にすまんのう、様子はどうじゃ?」
「こんばんは、なんとかやっております」
「……なんというか、お主、体の動きが妙じゃな?」
訝しげな顔をする九さんを見て、千歳が吹き出した。
『こいつ、昨日慣れない運動して全身筋肉痛なんだ』
「すみません、お見苦しいところを……」
頭を下げるだけで筋肉痛がする。
「何をしたんじゃ」
「知り合いの運動部の中学生に、エアロビクス勧められて、やってみたら全身やられまして……」
「ふーむ、まあ、お主らが仲良くやってるようで何よりじゃ」
九さんは微笑んだ。
とりあえず、九さんをこたつに招く。千歳が紅茶とクッキーを出してくれた。
三人でお茶をすすりつつ、九さんが口を開いた。
「ところで、お主ら外出禁止だそうじゃな」
『うん、ひきこもってる』
「安全のためだから、仕方ないですけどね」
「外に出られなくて、気分がくさくさせんか?」
「まあ、散歩できなくて運動不足だなとは……あと、祖母に近所の花の写真撮って送ってるんですが、しばらくそれもできないですね」
「ふーむ」
九さんは、ずいと膝を進めた。
「のう、お主ら、しばらく妾の家に来んか? 庭も畑も広いから散歩くらいできるし、花もたくさんあるぞ」
「え?」
「まあ和泉、お主にも仕事があるじゃろうから、ずっといろとは言えんが、夜だけでもしばらく泊まりに来んか?」
「え、ええと……」
なんで、いきなりそんなに誘うの? 理由がよくわからないから、はいもいいえも、おいそれとは言えないぞ……。
千歳がハッとした。
『あ、もしかして九さんちのほうがうちより安全なのか?』
九さんが頷く。
「そうじゃな、異界かつ妾の持ち物じゃからの」
「あ、そういうことですか……」
え、じゃあ、もっと安全なところに来ないかって俺達を誘ってくれたってこと?
九さんは千歳の方を向いて話しかけた。
「それに千歳、お主、組紐作りをせっつかれておるじゃろ。うちに来れば上げ膳据え膳してやれる、組紐づくりに集中できるぞ」
『え、えっと』
ありがたい話ではあるが、急な話である。千歳は戸惑っていた。
いや、でも、しかし。
「あの、なぜそこまでしてくださるのでしょうか?」
俺は九さんに聞いた。九さんは悪意で動く人ではないと思うが、理由を聞いておかないと何とも言えない。
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「何じゃ、裏があると思うか?」
九さんは苦笑して、それから言葉を続けた。
「まあ、なんというかのう……昔々、本当に昔、人間と沿うて子供も作って、けれど狐とだというのが理由で、夫も子供も置いて去らざるを得なかった化け狐がおっての」
「はあ、お気の毒ですが……」
『かわいそう』
その化け狐関係? いや、でもどういう関係?
九さんは、遠くを見るような目で話した。
「だから、その化け狐は、異なる存在同士で仲良くやっている者たちには、なるべく幸せにやっていてほしい、とのことでの。本人たちが仲違いしたならそれはしょうがないが、それ以外の理由で2人の仲がダメになってしまうところは見たくない、ということじゃ」
あ、ああ、そういうこと……。
「……仲良くやってるのは私と千歳、それ以外の理由は和束ハルの攻撃、ということですか」
『…………』
そこまでの理由があると思わなかったらしくて、千歳は息を呑んでいる。
九さんは、寂しげに笑った。
「ま、そうじゃ。本当はの、和束ハルのことがどうにかなるまで、お主らをずっとうちで匿ってやりたい」
九さんのその口調に、どこか切実なものを感じた。俺は、ここは素直に好意を受け取ったほうがいいんじゃないかと思った。
「……では、お気持ちに甘えさせていただいてよろしいでしょうか?」
俺は九さんに頭を下げた。
『お世話になります!』
千歳も頭を下げた。
「おっ、うちに泊まってくれるか?」
「泊まるだけなら、今日からでも。日中は……うーん、ネットと電気さえ引ければ仕事は何とかなるんですが……」
俺は考え込んだ。九さんちには一度泊めてもらったことがあるが、照明は狐火のような不思議火だったし、ネットどころか電気があるかすら怪しい。
九さんは俺にすがるような勢いで言った。
「日中は難しいか? 正直、和束ハルは、お主のほうを襲いやすいじゃろうから、本当はお主だけでもずっとうちにいてほしいんじゃが」
千歳は俺と九さんを交互に見ていたが、やがて言った。
『なあ九さん、前うちの玄関と九さんちの家までの道つなげられたろ、あれをうちの部屋と九さんちの部屋でできないか?』
「できるが」
『この部屋と九さんちのどっか空いてる部屋つなげてさ、うちからコードかなんかでインターネットと電気引っ張ってくればいいんじゃないか?』
た、確かにそれで解決する! 電気は延長コードあればいいし、ネットもWi-Fiルーターの位置を変えればどうにかなる!
「それいい! じゃあそうしよう!」
俺がそう言うと、九さんも嬉しそうに言った。
「よし! 早速、妾の家につなごう! 少し待っておれ」
九さんは、ベランダの引き戸に向かって何事か唱えた。そして九さんが引き戸を開けると、そこには畳の和室が広がっていた。
「広めの部屋につなげたぞ、こたつでも机でも何でも持ち込むとよい」
うわ、こんなに簡単なんだ。
「ありがとうございます、あの、何かお礼をさせてください」
俺は九さんにまた頭を下げた。
『金ならいっぱい払える! ワシ払う!』
「いらんいらん」
九さんは笑った。
「しかし、もし礼の気持ちがあるなら、そうじゃな。うちの子狐どもに、今のことを少し教えてやってくれんか。妾はいんたーねっともすまほもぱそこんもわからんでの、教えてやれんのじゃ」
子狐ども、と言うのは、九さんちで働いている化け狐見習いの女の子たちのことだろう。
「お引き受けします」
「すまんの」
それから、俺は筋肉痛の体に鞭打ちつつ、千歳と一緒に延長コードで電気を引いたり、ルーターの位置を調整したりして、なんとか仕事と生活できそうに部屋を整えた。
俺達の気配を素早く嗅ぎ取って、半端な化け具合の巫女服の子狐ちゃんたちがわらわらと覗きに来ている。九さんが子狐ちゃんたちをしっしっと追い払った。
「散れ! 隣の部屋に客用の布団を敷いてこい!」
子狐ちゃんたちから大ブーイングが起きた。
「だって男の人がまた来てくれたんですもん!」
「触っていいですか!?」
「人間のお客さんがまた来てくれるなんて!」
え、俺そんな注目されてるの?
九さんは「アホタレ!」と小狐ちゃんたちに怒った。
「一人前になってからじゃそう言うのは! おい、和泉、一応言っておくが、子狐どもに変な真似はするでないぞ!」
「しません! しませんよ!」
俺はあわてて否定した。女子校みたいなもんなのかな、ここ。そりゃ生徒に手を出すような男は追い出されるよな。
そこまで思い至ったあと、俺は唐突に気づいた。
あ、そうか、人間と子供作って、でも追い出された化け狐って九さんのことか。それで、後進の子たちは、せめて一人前になるまで人間の男と触れさせないようにしてるのか……。
コメント
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おお、九さんがついに和泉たちを匿う決断をしたのか…! 九さんの「異なる存在同士で仲良くやってる者たちには幸せでいてほしい」って言葉、めちゃくちゃ沁みたわ。過去に人間と愛し合って、狐って理由で離れなきゃいけなかった九さんの寂しさがにじんでて、胸がぎゅってなった。千歳の「部屋をつなげる」発想、ナイスすぎる。子狐ちゃんたちの「触っていいですか!?」の大ブーイング、めっちゃ可愛くて和んだわ。九さんの過去がもっと知りたくなったエピソードだった🔥