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同じ頃・新宿警察署地下駐車場に停車する1台のバンに、段ボール箱を詰め込む米野の姿があった。その大半は、仮監査室に保管されていた銃火器で、重たい箱を荷台へと持ち上げる毎に米野は息をもらしていた。

現場を引退したキッカケは長年患ったヘルニアの悪化で、定年までのつなぎとして内勤に配属される事となった特別な配慮は、彼の生真面目で人当たりの良い性格が、上層部に気に入られていた証拠だった。

それは、本人も重々承知していた。

裏を返せば、上には決して逆わない偉大なるイエスマン。

長いものには巻かれろ。

米野はそんな自分を蔑視していた。

東京国独立宣言がされて、都心の空に死のオーロラが出現して程なく、署内の人間の殆どは治安維持のため出払っていた。

また、警察官であっても、家族と共に遠方へ避難する人間も大勢いた。

その流れを、難められる者など居なかった。

段ボールに偽装の為に貼った『A書類』の文字を眺め、ふうと息を吸って重たい荷物を持ち上げる。

右坐骨が痺れてはいるが、ギックリ腰にはならない程度の痛みが走る。

こんな所で動けなくなったらお笑い種だと思いながら、米野は最後の箱を荷台に詰めて扉を閉めた。

米野は、東京国へ参加するつもりでいた。

自分の意思だった。

遠くから足音が聞こえる。

耳をすますとそれは、真っ直ぐ自分の方へと近付いて来た。


「お。ヨネちゃん見っけたよ!」


視線の先には神代がいた。

彼とは同世代同士、ウマがあった。

いつか落ち着いたら酒でも飲みたいねと、挨拶がわりの言葉を何度となく交わした。


」あ、神田か!?」


米野は、懐に手を忍ばせて言った。

レディースミスのグリップと、トリガーの感触は氷のように冷たい。

それでも神代はニコニコしながら近づいて来る。


「ヨネちゃん。どう!?」

「ん?何が?」

「やろうぜ」


神代は、酌をする仕草をして見せた。

足音が迫る恐怖に、米野の背中は汗で濡れ始めていた。

神代は朝まで飲むつもりだった。

都内の交通網は、東京国独立宣言以降麻痺したままで、この時間に自宅へ帰るには徒歩か、大金を叩いてタクシーに頼るしか無い。

それなら朝まで飲んで、自衛隊の避難バスに乗せて貰おうと目論んでいた。

特捜機動隊へ戻る気はなかった。

このまま千葉へ帰って、人知れずのんびりと生きていくつもりでいたからだ。

辞表はコトが落ち着いたら出せば良い。

それまでは、なんとでも理由をつけて仕舞えば問題無いだろう。

病気とか家庭の事情とか、辞める理由は幾らでも思い付いた。

離婚も視野に入れての老後の生活は、特捜機動隊に配属された頃から思っていた。

そんな胸中を吐露すべく、米野の元を訪れたのも 何処か同じ匂いがしたからだ。

神代は米野に言った。


「居ねえんだもん。聞いたら今帰ったって言うからさ」

「今終わったの?」

「そう」


立ち止まった神代は、もう一度お酌の真似をした。


「どお?」


皺だらけのその顔を見ながら米野は思った。

空気の読めないオヤジだと。


「神代、悪い。今日はちょっとさ…」

「帰るだけじゃん? 誰も待ってないって」


神代の言葉にはトゲはなかった。

思いついたままを口にする性格なのだろうと、米野は分かりきっていた。

それに、待ち人などいるはずも無く、日々家庭では煙たがられているのも事実だった。



東京が世界地図から消えたあの日の落日

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