テラーノベル
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年齢を重ねる毎に、淋しさは増していった。何の為に生きて来たのか、説明出来ない時期もあった。
苦労9割幸せ1割、そんなことは神代も米野も実体験として納得していたし、それでも生きていかなくてはならないのが人生である… それも知っていた。
働いて子を育てーといっても子育ての殆どは妻に任せっきりで、子が成人すると夫としての役割自体が終わる。
家庭よりも仕事を選んでいたわけでは無いが、結果的にそうなってしまったのだー定年間近になると、孤独感は更に増していた。
人間関係も同じで、年下上司に素直に従えない自尊心の為に周囲からは敬遠され、特に表現下手な神代は嫌われた。
その一方で、米野は本心を誰にも打ち明けることはなかった。
周囲と上手くやることで精一杯だったからだ。
そんな境遇同士、酒を飲めばどんなに楽しいものだろうと米野は思った。
しかし、今は違う。
東京国への参加は自分の意思であり、終いの人生に相応しい場所なのだと思い込んでいた。
全ては淋しさがそうさせていた。
そんな想いも知らずにいる神代の顔が恨めしい。
「ぬる燗、いいじゃん?」
「今日はダメだって…」
「そお?なんで?」
「なんでも良いじゃないか、前もって言ってくれよ」
「ケチ…」
神代は、米野の胸元をチラリと見た。
片手がずっと懐に入ったまま動かないでいる。
そこに違和感を覚えた。
「ヨネちゃんさ」
「なんだい?」
「…」
「なんだよ?」
「別にさ。邪魔もんじゃん?俺らって」
「一緒にすんなよ」
「一緒だぜ」
米野は、懐から手を放した。
酒はなくても少しだけ、神代と話がしたくなったのだ。
一方で神代は、目線の定まらない米野に不信感を抱いていた。
懐に手を入れたままの仕草や、足先がバンに片寄っている体勢、そして、軽く咳き込みながら喋る声質。
全てが偽りに見えていた。
しかし、東京国への参加の見返りとして、武器弾薬を盗んでいる最中だとは夢にも思っていなかった。
大方、同僚の金をくすねたか、個人情報を売り飛ばす気でいるのだろう。
余計な事案に首を突っ込みたくはない反面、同じ仲間として、米野を犯罪者にしたくはなかった神代は、遠回しに説得を始めた。
「ヨネちゃんさ…結局さ」
「ん?」
「煙たがられる訳じゃん…俺ら」
「まあ、そうだな」
「特にさ、こんなご時世」
「こんなね…」
「つまんないよ。仕事でも何でも」
「そだな」
「だから、呑みたかったの!」
「何処も開いてないって、避難勧告無視して店開けるか?」
「開けないよ」
「だろう?」
「公園あんじゃん、新宿中央公園」
「バカ!ヤダよ!」
「オーロラ眺めて酒!」
「やだね」
「じゃ、ひとりで飲むかな」
「そうしろよ」
「そうするよ」
「そうしろ…」
「あ。今度やろうよ!」
「…何を?」
「酒だよ!決まってんじゃんか!」
「ああ…」
「だからさ、それまでは踏ん張ってな!」
「踏ん張る?」
「今まで通りってこと!また声掛けっからさ!」
そう言い残して、神代は手を振って背中を見せた。
遠ざかるその後姿を眺めながら、米野はグッと唇を噛んだ。
久しぶりにあたたかい気持ちになれた。
年甲斐のない冒険心は、この駐車場に棄ててしまおうと決めた瞬間だった。