死ネタ
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梅
背後から、ひゅ、という風の切る音。
中在家長次は即座に、其れが己の背を斬り裂いたことを理解した。だが立ち向かうことに意味は無い。この密書を届けるのが長次の仕事であった。仲間の元へはあと少し。前を向いて走った。ただ走った。走って、はしって、ようやく抜けた竹藪の先で、仲間に密書を手渡す。「追っ手がすぐ来る、早く行け。」そう言うと、仲間たちは駆け出して行った。
仲間の背が遠のいて、くらくらと視界が揺らいでゆく。致命傷を負ったのは見なくてもわかる。ひやりとした雪が長次の体を包む。体が夜露に濡れる。ああ、あつい、さむい、きもちいい。今までにないほど目まぐるしく動く感覚に、長次は少しの戸惑いと開放感を感じていた。
慣れない刀で思い切り袈裟斬りにしたその背中を、追いかけて追いかけたその先。七松小平太は己の白い息に混じって、追いかけていた忍びがどさりと倒れるのを見た。密書はもう持っていかれてしまっただろう。深追いは良くない。小平太はそう考え、己の持ち場へ戻ろうとした。
「こへいた」
微かな声が、小平太の鼓膜を震わせる。それは、同じ部屋で六年をすごしたあの声だった。声の主をちらと見る。
「長次・・・・・?」
先程まで温まっていた体は外の空気を感じ取ったかのように急速に冷えていく。整っていたはずの呼吸が乱れ、視界が白く濁る。ふらふらと膝をついた。頬に傷があるその顔は、愛しい友のものであった。
もう事切れていた。その体は雪に濡れていた。
遺体の処理は確りと為された。小平太は長次が真黒になるまで焼いた。身体も周りの燃えやすいものも濡れていて、火が全く着かなかった。仕方が無いから自分の袖を使おうとすれば其れも濡れていた。最後には己の髪を使った。ぱちぱちと燃えるのを、小平太はずっと眺めていた。最後の炎が消えたのを見て、長次だったそれに土を被せた。一呼吸ついて、上を向く。頬に何かが落ちてきた。
「もう、梅もこぼれる時期か」
土を被せただけの墓に小さな花弁を撒いて、小平太は立ち去った。
雪が降り始めた。きっとどこに死体が埋まっているかなんて直ぐに分からなくなるだろう。
コメント
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はぁぁぁぁぁぁ😭😭😭😭😭😭😭😭 辛い…辛い…絶対そんな未来にさせねぇからな…!!