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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
スパダリ攻め(青)×ネガティブ思考受(桃)
桃視点
モブ桃要素ありますので苦手な方はお気をつけください
「さっきの人、社員さん?」
車の助手席に乗ったとき、隣の運転席の男はそう尋ねてきた。
「かっこいい人だったね」と、他意もなく感心したように付け足す。
「…メンバー」
「あ、そうなんだ。どうりで」
顔出しをしていないとはいえ、一般人には見えなかったということだろうか。
確かにまろは高身長で顔も整っているし人目を引く。
町中を歩いているときは気配が消えるのかしょうちゃん辺りにオーラがないとか言われるけど、それでも気づく人は気づくんだろう。
走り出した車内で、俺は窓の外を眺めた。
月明かりが眩しく感じて目を細める。
そんな俺の様子をどう受け取ったのか、苦笑い気味に男は隣から手を伸ばしてきた。
「ごめん、急に来て」
太ももの上に置いていた俺の手に、その手が重ねられる。
「…いいよ、別に」
来られたところで、やっぱり何も変わらなかった。
話をしようとしていた俺のことすら、まろは気に留めることもなく去って行ってしまった。
…まるで、目の前のこの男に委ねるみたいに。
無反応なまろの姿を見れば、早く諦められると思っていた。
自分がそう願ったはずなのに、それでもやっぱり俺が何をしていようが誰と会っていようが反応しないまろを見ては胸が痛む。
「送ってくけど、ちょっとだけ部屋上がってもいい?」
きゅっと左手で俺の手を握りながら、男は器用に右手一本でハンドルを切った。
危ないからやめてくれと言わんばかりに、俺はその手をすっと引き抜く。
「ダメ。ライブ前で家の中大荒れだし」
「別に気にしないのに」
「俺が気にすんの」
俺の家はメンバーが急に来ることもあるから、付き合っている人間を中に入れたことはない。
いつもなんだかんだ理由をつけて断り、この目の前の男も例外じゃなかった。
俺の手に逃げられ、行き場をなくした彼の左手はそのまま自分の上着のポケットを探る。
中から紺色のラインが入った煙草の箱を取り出した。
信号待ちになったところで窓を開け、そこに肘を置いてジッポで火をつける。
くわえた煙草に、ジジ、と赤が灯った。
その一連の動作を眺めていた俺は、ふと夕方のまろの言葉を思い出す。
『ないこ煙草の匂いがする』
脳裏をよぎったその声に、ズキンと胸が痛んだ。
俺から誰の匂いがしようが気にしない、その平坦な声が嫌いだ。
「…それやめて、煙草」
急にそんなことを口にしたのは、自分の意思でもなかった。
俺自身驚きながら顔を上げると、運転席の男も目を瞠る。
「珍しいね、いつもそんなこと言わないのに」
それでも俺に甘いこの男は、火をつけたばかりの煙草を惜しむ様子もなく灰皿に押し付けた。
…あぁ、やってしまった。
こうならないようにいつもは気をつけていたのに。
まろへの気持ちを持て余したときのはがゆさや不機嫌さは、これまで顔や態度には出さないように気をつけてきた。
それこそ『恋人』の前ではいつも幸せに見えるように笑って装っていたのに。
「どうしたの、今日機嫌悪いね」
問われながらも、「もうこの人ともそろそろ終わりかな」と漠然と考える。
2週間…もった方だ。
今までは早ければ付き合い始めたその日、一夜を共にしてそのままさよならなんて人もいた。
だけど別れるタイミングだけは間違えられない。
一歩間違って面倒くさい方に豹変されたら手間が増えるだけで、今この状況で別れを切り出すのは得策じゃない。
こんな時でも保身から打算的になる自分に呆れてしまった。
吐息まじりに俺はもう一度彼を振り返る。
「うちじゃなくて、そっちの家行こ。それならいいよ」
「え、家でやらなきゃいけない仕事あるんじゃないの?」
「明日早く出勤して片付ける」
ご機嫌取りでしかない俺の言葉に、彼は文字通り上機嫌に笑った。
「行為」が気持ち良くなかったことはない。
心は全く開いていなくても、刺激を受けて身体が悦ぶのはまた別の話だった。
ただ、誰とやっても結局同じ。
触れて触れられて、果ててしまえばそれでおしまい。
そこに心はなくて、結局誰とも奥底までは触れ合えることはない。
本当に好きな相手とだったら、もっと違う快感が得られるんだろうか。
もっと焦がれて、胸が切なく締め付けられるような…それでも幸せを感じるような。
きっと俺には一生得られることはないだろうそれを想像しては、いつもこちらに対して無反応なあの青い目を思い出す。
「ないこ…」
今自分を呼ぶのが、まろだったらと何度思ったか分からない。
唇をなぞる指が、頬を撫でるその手がまろのものだったらと願った回数は数え切れない。
だけど現実にそんなことはありえなくて、ただこの行為が早く終わることだけを祈ってしまっている。
自分が始めた関係のはずなのに、矛盾ばかりだ。
終わった後、いつもならそのままベッドで朝を迎える。
だけど今日はどうしてもそんな気分にならなくて、シャワーを浴びた後俺はすぐに元通り服を着込んだ。
「やっぱり帰る。仕事気になるから」
「え!? じゃあ送るよ」
慌ててベッドから立ち上がろうとする男を、片手を上げて制す。
まだ半裸状態の彼は驚いた顔でこちらを見ていた。
「大丈夫。タクシー拾うし、そんな遠くないから」
にっこり笑って、その唇を自分のそれで塞ぐ。
それ以上余計なことを言わせないための小狡い術だった。
「おやすみ」
「着いたら連絡ちょうだい」
心配性らしい彼に片手をひらひらと振って応じ、俺はその高級マンションの一室を後にした。
自宅に着いてすぐ、バスルームに駆け込む。
脱いだ服は全て洗濯機に放り込み、いつもより洗剤と柔軟剤を多めに入れた。
シャワーを浴びてきたばかりのはずなのに、またレバーを捻ってお湯を勢いよく出す。
それを自分の頭から浴び、全てを洗い流そうとした。
だけどどれだけシャンプーや石鹸を使って洗っても、煙草の匂いが肌や髪に染み付いている気がしてしまう。
「…っ」
明日は朝からまた打ち合わせがある。
土曜でまろは会社が休みだから、最初から参加する予定だ。
そんなスケジュールが脳裏をよぎり、俺は必死で自分の全身を擦った。
どれだけ足搔いても…何往復繰り返し洗っても、自分を覆う穢れと匂いは消えない気がしてしまう。
「…何やってんだよ、俺…っ」
自分の不甲斐なさすら流してしまいたい衝動にかられて、俺は更にシャワーの水量を増やした。
結局ろくに眠れず、翌日はいつもより早めに事務所に着いた。
会議室にはまだ数人の社員しかいなくて、軽く挨拶を済ませ打ち合わせの準備を進める。
そうこうしているうちにメンバーやスタッフらが徐々に集まり始め、開始15分前になってまろが姿を見せた。
「おはよ」
「…はよ」
いつも通りに声をかけてくるまろに、短く小さめな声を返す。
そんな俺の様子に目をぱちぱちと瞬かせた後、まろはぐいと俺の手を引いた。
「ないこ、ちょっとこっち来て」
「え!?」
強い力で引っ張られ、抗う余裕もなく引き連れられる。
会議室を出て廊下をまっすぐ奥へ進んだ。
その間まろは俺の手首を掴んだままだった。
長い足でずんずん進んでいくものだから、もつれそうになりながらも慌ててついて行くのが精一杯だ。
昨日帰り際に呼び止めたのは俺だったけれど、結局話せずじまいだった。
俺自身も何をどう言えばいいのか分かっていたわけじゃない。
だから今から何を言われるのか…自分はどう応じるべきなのかを咄嗟に何パターンもシミュレーションしようとする。
だけどいい答えは思い浮かばない。
そうこうしているうちにまろは奥にある社長室の扉をバンと音を立てて開いた。
「ないこ、メイク道具持っとったよな?」
社長室にたどり着いたところで、まろは俺の手を解放する。
どんな話題が飛び出すのかと身構えそうになっていた俺は、続いたまろの言葉に「え」と目を丸くした。
思いがけない問いに、戸惑いながらも小さく頷く。
急に外部の人に会わなければいけなくなったときのために、確かに一式ここに置いてある。
「一応あるけど…」
「コンシーラーかファンデーション貸して」
「? うん…」
首を捻りながらも、ラックの引き出しを開けてメイク道具を取り出す。
手近にあったスティックタイプのコンシーラーをまろに渡すと、あいつはそのままその蓋をきゅぽっと音を立てて外した。
「向こう向いて」
まろから顔を背けるような角度を指定され、俺は戸惑いながら言われた通りにする。
そんな俺の隣にこちらを向いて立ったまろは、くっと俺の顎を持ち上げた。
そして露わになった首筋に、ぐっとコンシーラーを押し付ける。
「…った」
スティックでグリグリと乱暴に塗りたくられて、思わず声が上がった。
けれどまろは気にすることもなくそのままその先端を強く押し付ける。
「痛い! まろ…っ」
抗議するような声が届いたのか、まろはそこでようやくピタリと動きを止めた。
蓋を元通りに戻して、それから今度は直に手で俺の首に触れる。
肩に手を置いて、親指だけが優しく首筋をなぞった。
つつ、と撫でられる感覚に思わずさっきとは異質な声が上がりそうになって、必死でこらえる。
何が起こっているのか全く理解できず、俺は視線だけを横に向けた。
俺の首筋を怖い顔で見据えていたまろが、やがてぱっと手を離す。
「ん、隠れた」
満足そうに笑ってそんなことを呟きながら、まろはコンシーラーのスティックを俺の手に返す。
もうさっきまでの険しい表情は片鱗も見せない。
『隠れた 』…??
首を傾げた後、数秒かかってようやくその意味を理解する。
「…!!」
バッと手で思わず首元を押さえたけれど、そんな行動に今更意味があるわけもなかった。
「絆創膏貼るよりは目立てへんやろ」
いつもの聖人君子のような平然とした顔。
「りうら辺り結構鋭いから、気をつけろよ」
ぽんと俺の頭に手を置いて、まろは通常通りの穏やかな顔で笑う。
「…っ」
声に乗せたい感情はあるはずなのに、うまく喉を通過しない。
そうしているうちにドアがノックされ、返事を待たずに開かれた。
「ないちゃん、まろちゃんここにおるー? あ、おった」
ひょこりと顔を出したしょうちゃんが、そこにいた。
それに「何?」と尋ね返しながら、まろはしょうちゃんの方へ行ってしまう。
「この前相談に乗ってもらった動画あるやん、打ち合わせの前に確認してもらいたいんやけど…」
「ん、えぇよ」
「あ、でも今ないちゃんと話し中やった?」
遠慮がちに俺の方をしょうちゃんが振り返る。
そんなしょうちゃんのところまで行って、まろは首を横に振る。
「もう終わったから大丈夫」
「そうなん? じゃあないちゃん、ちょっと打ち合わせまでまろちゃん借りるね」
小さく頷くしかなかった俺を見やってから、しょうちゃんはまろを連れて会議室の方へと戻っていった。
残された俺は、コンシーラーを塗ったばかりの首筋に指先だけで触れる。
まろが触れた箇所が熱い。
心臓はバクバクと鳴り止まないのに、顔だけが青ざめていく。
…そこにキスマークがつけられているなんて、全然気づいていなかった。
しかもそれをまろに見られたことが嫌だった。嫌で嫌で仕方がない。
なのに、俺のこれを見てもいつもと変わらない態度。
…むしろ動じることなく周りの目を気にして隠してくれる辺り、本当に俺に「そういう意味で」興味がないんだろう。
感情が、ぐちゃぐちゃになってどす黒く渦を巻く。
こんな想いをしたくなくて作ったはずの逃げ道が、余計に自分を追い詰めているのをこの時はっきりと実感した。
出会わなければ良かったとは、さすがに思わない。
活動者として出会えたことは運命よりも必然だと思う。
でも、せめて…。
「好きにならなければ良かった…」
苦い呟きが漏れた。
苦しい、辛い、解放されたい。
まろのことを好きにならなければ、こんな思いを抱くこともなかったのに。
これも全部、俺の心にするりと入って来てしまったお前のせいだ。
「…っ」
胸を押し潰すような言いようのない不快感が、自分の中で蠢くように這う。
まろに手渡されたコンシーラーのスティックを、俺は力の限りぐっと強く握りしめた。
コメント
2件
まだ感情がぐるぐるしちゃってます……😖😖でもこういう青桃さんも好きというのは感覚がおかしいのでしょうか…🙄🤍 コンシーラーで隠してあげる気遣いも優しいですけど…桃さん視点で見ると苦しくなるものがありますっ🤔 今日もまた癒されてしまいました……投稿ありがとうございます!!!
青くん桃くんの関係がもどかしい!!!はやくつきあっt((取り乱しましたすいません…コンシラーで隠してあげてる青くん優しい!!桃くんも頑張って青くんに気持ちを伝えて欲しい!今回もいいお話でした!これからも頑張ってください!