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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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スパダリ攻め(青)×ネガティブ思考受(桃)
第三者黒さん視点
「…なんの騒ぎ?」
何日ぶりかに訪れた事務所で、スタッフがバタバタと忙しそうに走り回っていることに気づいた。
最近はダンスの練習やボイトレに勤しむことが多く、こっちに顔を出したのは久しぶりな気がする。
だけど事務所の扉を開いた瞬間から、その違和感には容易く気づいた。
「ちょっと発注ミスがあって…」
1番近くにいたスタッフに声をかけるとそんな言葉が返ってくる。
言いにくそうに言葉を絞り出している姿に、何となく事態を把握した。
恐らくあと数週間後に迫ったライブで使う何かの発注ミスだろう。
そしてミスをしたのはスタッフだろうけれど、その最終チェックはきっと…。
そんなことに思い当たったせいで、俺はバッと身を翻してミーティングルームへと足早に向かった。
「すぐデザイナーさんに連絡して、別の用途で使えんか聞いてもらって」
「あとこっちの伝票はこのまま処理してくれていいから」
部屋のドアを開けた瞬間、まろの声が聞こえてくる。
ひょいと中を覗くと、何人かのスタッフに次々に指示を出し、それを受けた彼らは忙しなく走り回っていた。
その奥にはダンボールの山が積まれている。
台車に乗せられ積み上げられた箱は、少しでも乱暴に触れれば倒れてしまいそうだ。
「すみません…」
発注をミスした張本人なのか、顔面を真っ青にして立ち尽くしているスタッフがいた。
普段から真面目で勤務態度も悪くない。
だからこそ責任を感じているんだろう。
「ん、返品はできひんから、別の方法考えよう。何とかなるから大丈夫やって」
まろのそんな言葉に、スタッフの目にぶわ、と涙が溜まるのが分かった。
それでも仕事中に泣くなんて自分に許せなかったのか、ぐっと堪えている。
そのまま彼はまろの隣で椅子に座っているないこに向き直った。
「本当にすみません…」
「…いや、俺が…」
言いかけた言葉を飲み込んだないこ。
…そう、ミスをしたのは彼だろうけれど最終チェックをしたのはないこなはずだ。
Goサインを出した以上、責任は上が取るべきだ。
「ほら、いいからあっち手伝ってきて」
何かを言いかけたないこの言葉を遮り、まろがそのスタッフに指示を出す。
既に対処に追われている他のスタッフを指し示すと、彼はペコリと頭を下げてそちらに向かって行った。
あーあ、と胸の内で思う。
まろはこういうとき怒ったりしない。
怒ったって仕方がないことだと分かっているし、それで事態が解決されるわけでもないからだろう。
だけど失敗して凹んでいる人間にとっては、優しい言葉は逆に辛いこともある。
怒鳴られて罵られた方が、逆ギレしたり開き直ったりできて気持ちが楽になることだってある。
現に彼は、今もまろの優しさに触れて必死に泣かないよう、内心で奮闘していることだろう。
そんなスタッフを見送ってからまろは、手元に残された書類に目を落とす。
何とか事態を凌ぐことができないか、頭の中はフル回転しているんだろう。
そんな中で、左手に書類を持って目ではそれを追ったまま、右手は不意に横に伸ばされた。
「……」
そのままその右手を、ないこのピンク色の頭にポンと乗せる。
それからクシャクシャと痛くない程度にかき混ぜるようにして撫でた。
言葉もないそれに、ないこが目を固く瞑って更に顔を俯ける。
…あーあ。
吐息まじりに肩を竦めただけで、俺はそこでは何も言及しないことを決めた。
「まろ」
事態が落ち着いたのはそれから数時間してからだった。
何とかライブの小道具として別の用途で使ってもらう目途がつき、騒ぎは収束したように思われた。
かなり時間が押した中、スタッフたちが帰っていく。
それらを見送った後、俺はまだ残務を手伝っているらしいまろに声をかける。
振り返ったまろが、「あにきおつかれー」と笑顔を見せた。
…疲れとるんはお前の方やろ。
誰よりも結局フル回転で働いとったやん。
そんな言葉を飲み込み、俺は隣からまろの顔を覗き込む。
「今日まろの家で酒飲まん?」
言った瞬間、青い瞳がふっと色を変えたのが分かった。
警戒するような色を乗せたそれは、けれどすぐにいつも通りに戻る。
社会人経験が長いせいで培われたポーカーフェイスだ。
「どしたん? うち今片付いてないけど」
「いつもやん」
「え、ひど」
んはは、と笑うまろに、俺は更に言葉を継ぐ。
「昨日バターチキンカレー作りすぎて持ってきとんねん。前に作ったときはまろ食べられへんかったやん?」
本当はこの後、初兎の家にでも行って食べさせるつもりだった。
…悪いな、初兎。
心の中で舌を出しながら呟くと、ぶーぶー文句を言う白い頭が容易く想像できる。
「…ん、えぇよ」
譲歩したように答えるまろ。
カレーに釣られたというよりは、俺がそこまでして話をしたがっているのが分かったからだろう。
普段だったら「あにきのカレー!?」なんてぽえぽえしながら嬉しそうに言いそうなものなのに、今日はその気配すらなかった。
2人揃って事務所を出て、まっすぐまろの家に向かう。
荷物を下ろしすぐにキッチンでカレーを温めた。
白米は急いで早炊きをし、ほんの数十分で2人分の夕食が仕上がる。
それに缶チューハイと瓶の酒を並べ、ローテーブルを挟んで座る。
「まろ、俺まどろっこしいん嫌いやん?」
瓶の栓を抜き、まろの持つ缶にコツリと合わせた。
乾杯に見立てたようなそれを受けて、まろは「せやね」と短く応じる。
「やから単刀直入にはっきり言うけど…ないこどうにかならんの?」
言って、瓶に口を付ける。
冷たい苦みが口内に広がり、香りが鼻を抜ける。
仕事終わりの酒は癒すようにその身に沁みわたっていく。
「どうにかって何?」
分かっているくせにきれいに尋ね返してくるのは、そのコンマ数秒の間に返すべき答えを考えているからだ。
恐らく自分には想像できないほどの速さでこいつの脳内は回っているに違いない。
「見てられへんやん、最近。今日も失敗してかなり凹んどったやろ」
ないこが仕事のことで落ち込むのは珍しい。
いや、珍しいというより、どちらかと言うとないこはそういう弱さを人に見せない。
落ち込んでいたとしても今日のように分かりやすく人前でうなだれることはない。
…それだけ、ここのところ精神的に参っているんだろうということは想像できる。
「ほとけに聞いた。自分の身を削るような付き合いしとるやろ、あいつ」
「…そんなん前からやって、あにきも知っとるやん」
そう、ほとけに言われる前からないこのプライベートが荒んでいることは知っている。
だけど最近は特にひどい。
前は誰と付き合おうが、それでも表向きは幸せそうにしていたのに。
「ないこ、好きな奴を忘れたくてあんな荒んだ付き合いしとるってほとけに言うたんやって?」
「……」
「なぁまろ」
缶チューハイを口にするまろの目を、まっすぐ覗き込む。
それを避けるように、まろは視線を外した。
「前も言うたけど、お前がないこに好きやって言うたったら全部済む話ちゃうん?」
「前も言うたけど、それじゃ何の意味もないんやって」
こちらの言葉をなぞるようにして、まろは被せるようにそう返事を寄越す。
ないこがずっと前からまろを好きだということに気づいているのは、多分俺とまろ本人だけだ。
そしてそれを告げる勇気もなくて…いやむしろ告げるつもりもなくて、想いを飲み込んでいることも。
そんな想いを振り切るために、他の誰かと付き合って忘れようとしていることも。
まろの気持ちは、多分俺だけが知ってる。
メンバーも…もちろんないこは当然知らない。
俺からしたら両想いな2人がくっつかずにいる理由が分からない。
互いの気持ちを伝えて万々歳…なんて、こいつらは…いや特にまろは、そう単純にはいかないらしい。
前にもまろに話したことがあった。
ないこのあの私生活を改めさせるには、まろがないこに好きだと伝えれば解決するんじゃないかと。
俺からしたらシンプルな問題でしかない。
だけどまろは決して首を縦に振らなかった。
「ないこはさぁ、変に自信家で変に自己肯定感が低いんよ」
矛盾したそんな言葉を口にしながら、まろは缶をテーブルの上に置く。
「完璧でありたいとか理想の自分でいたいとか…そういう気持ちが強くて、いやむしろ自分はそうであるべきでそう装えてるって、多分本気で信じとるんやと思う」
手を付けずに置かれたままのスプーンを、まろは何とはなしに見やった。
「周りの人間に、そういう『理想通りの自分』じゃない姿を見せることを許せない。それが自信家な面。だけど本人もほぼ無意識のうちに、知ってしまっとるんよ。自分は本当はそんな完璧な人間じゃないってことを」
だからこそ自分でも意図せず強がってしまう。
自分が完璧であるはずなら、誰かに頼るとか誰かに縋るなんてこと許せないから。
「矛盾しとると思う? でもそれがないこやねん。本当は知っとる、『自分が完璧じゃないこと』と『自分が無条件に愛される』わけじゃないことを。それが自己肯定感の低い面。本人もほぼ無意識」
まろの言葉に耳を傾けながら、俺も瓶をテーブルに戻した。
胡坐をかいた態勢で、ただじっとまろの目を見据える。
「だから、多分本人でも理解できない齟齬が生まれる。理想通り、完璧な自分を演じてるはずなのに愛されるわけじゃないって思ってる。俺が自分を好きになるはずがないって」
「…それやったら尚更、お前が好きやってちゃんと言うたったらえぇやん。それでないこやって自信持てるやん」
「……ほんまにそう思う?」
俺の言葉を遠慮がちに問い直し、まろは小さく息をついた。
「弱っとるときにさぁ、好きやって言われたらそりゃその時は誰でも救われると思う。でもそれってずっと続くと思う? また何かにつまずいた時とか苦しさに直面した時に、ないこの性格やったら絶対こう思うよ。『まろはあの時、俺がかわいそうで見てられないから好きだって言ってくれたのかもしれない。だって今こんなに不甲斐ない俺を、まろが本当に好きになるわけないじゃん?』って」
「……」
「俺は俺の意志でないこを好きになってそれを伝えたはずやのに、あいつは多分ずっとそれを疑い続けることになる。自己肯定感低く自分を否定し続ける限り、多分死ぬまで」
大げさな言葉選びだとは思ったけれど、伏目がちに言うまろから俺は視線を逸らすことができなかった。
多分、辛い思いを抱えているのはないこだけじゃない。
本当はきっとまろの方が…。
「『まろが俺を好きになるわけない』なんて思い込んで他の人間に逃げに走っとるうちは、ないこ自身が救われることはないよ」
「……」
「あいつがほんまに自分で考えて一歩踏み出さな、意味がないねん」
そこまで言ってから、まろはもう一度缶に手を伸ばした。
ぐいとそれを呷る。
その勢いはそのままいけばすぐに酔ってしまいそうなほど。
「一歩でも踏み出してくれたら、その手を取れるんやけどな」
苦笑い気味に言ったけれど、まろが嘲っているのはないこではなくて自分なのではないかと漠然と感じた。
「…そうやってないこのためにお前が引いて黙って見守って…そうしとる間にないこがほんまにお前を諦めて、誰かを本気で選んだらどうするん」
「……」
「それだけやない。もしかしたら変な奴と付き合って逆恨みされて、炎上のネタにされるかもしれん」
「………」
「そうしたらないこだけやなくて俺らやって共倒れやん? それでもお前はないこを恨むことはないん?」
「ないよ」
そこだけ被せるように即答して、まろはようやく俺の目を見つめ返した。
「ないこがほんまに俺のことを忘れて誰かのところに行ったら、それは見守るって決めた俺のせい」
微かに浮かべた口元の笑みが、切ないはずなのにまろがそれでも幸せそうに見えるのは何故だろう。
「変な奴と付き合って炎上、グループも批判の格好の的にされたとしても、そういうリーダーを選んだ俺のせい」
「……損な性分やな」
「自分でもそう思う」
それでもないこを想って笑うんだから、まろよりも俺の方が自分のことのように胸を痛めてしまう。
「ないこはさ、多分今頃こう思っとるで。『俺が今こんなに辛いのはまろのせいだ』って」
冗談めかして俺はそう言ったけれど、半分くらい本心だった。
こんなに好きになって辛い、まろのことなんて好きにならなきゃよかった…あいつは多分そう考えてる。
「な。かわいいよな」
「アホか」
惚気るように笑って言うものだから、俺は向かいのまろに手を伸ばしてその額にデコピンを放った。
「あーでもこの前、さすがにキスマーク付けてきたときは頭狂うかと思ったよ」
んはは、といつもの楽しそうな笑い声を上げてそう続けるまろに、今度こそ本気で呆れた目を向けてしまう。
「言葉通りには聞こえんねん、まろは。笑いながら言うことちゃうやろ」
俺のそんな言葉と視線を受け流して、まろはふと笑みを消して真顔に戻った。
ローテーブルに頬杖をつき、少しだけ遠い目をする。
「まぁでも、炎上にはならんように何とかするよ」
そうなりかけたらその手前でどうにかするということだろうか。
まろの本心は読めないままだったけれど、そんな俺にはお構いなしに言葉を継いだ。
「さっきの話さ。もしないこが諦めて本気で他の人を選んだら…てやつ」
「…あぁ」
小さく相槌を打つと、まろはそこでもう一度微笑んでみせた。
穏やかな表情で口元に笑みが浮かぶ。
「正直、そうなる可能性が一番高いかなとは思っとるよ。多分そんな未来ももうすぐそこまで来とると思う。…でもさぁ」
一度言葉を切って、まろは俺にデコピンされた額をさすった。
「そんなんは、最初から覚悟の上やから」
…なぁないこ。お前は本当にそのままでいいのか。
こんなに想ってくれる奴の気持ちを、自分の自己肯定感の低さから全て無にするのか。
少しでも視野を広げてほんの1センチでも手を伸ばせば、引っ張って抱き留めてくれるような奴をせっかくお前は好きになったのに。
「……」
自分のことのように痛む胸をごまかすように、俺は残った酒を飲み干すように呷った。
まろの家を出て自宅へ向かう頃には、日付が変わりそうな時刻になっていた。
ズボンのポケットに手を入れたまま、通り慣れた道を歩く。
夜のその道のりは驚くほどの静けさだった。
いつもなら誰もいないのをいいことに鼻歌まじりだったかもしれないけれど、今日はさっきまでの話題の重さからかそんな気分にすらならない。
「……っだ、…っ…!」
夜道をまっすぐ歩いているうちに、やがて聞き覚えのある声が耳に届いた。
何を言っているのかまでは聞こえない。
それでも静かな道路に響くような声に辺りを見回してしまう。
やがて前方に見えた人影に、俺は目を凝らして眉を寄せた。
静かな住宅街。
目の前には大きめのマンション。
そのすぐ手前で、声の主が慌てて車から飛び降りてくるのが見えた。
「……ないこ…?」
思わず呟いた声は、小さすぎてその耳に届いていないはずだ。
だけど俺の目線に気づいたのか、ピンク色の瞳はバッと勢いよくこちらを振り返った。
十数メートルは離れている距離だけど真正面から目が合う。
俺に気づいたないこは、バツが悪そうにそのまま目線を逸らした。
そして、そのまま逃げるように目の前の自分のマンションに駆け込んでいく。
「ないこ!」
その名を叫びながら、続くように車から飛び出ようとした男がいた。
運転席のその人物に目線をやると、相手もこちらに気づいたらしい。
俺のことを知っているわけではないけれど、第三者に見られた気まずさからか思いとどまったようだった。
もうマンションのエントランスの中に消えてしまった影を探してから、ちっと舌打ちまじりに唇を噛む。
そうして諦めたのか、そのまままるで逃げるかのように車を走らせて去っていった。
…あれがないこの「彼氏」か。
視界から高速で消えていく黒い車を見送ってから、俺は再びマンションを仰ぎ見る。
何があったかなんて知らないし、多分今ないこを追いかけたところであいつが俺に打ち明けてくれるとも思えない。
ただ、これまで自分の気持ちに蓋をして恋愛も仕事も全てうまくいっているように装っていたないこ。
その鉄の仮面が剥がれ落ちていく音だけは、確かに聞こえてきた気がした。
「……」
さっきまろが言っていたことを思い出す。
ないこが誰かの手を取ってしまう未来が、そう遠くない時期に来るかもしれないと言った言葉を。
本当にそんな現実がこの先にあるのかなんて俺には分からない。
ただ確実に言えるのは、これまで通りなんてもう不可能で、何かが崩れ去り…そして事態が大きく動き出す音がすぐそこに迫っているということだった。
「…頼むで、まろ」
俺だってないこが苦しむのは本意じゃない。
まろと両想いになって幸せになる…その未来が一番だと思っている。
そう願っているからこそ…自分には何もできないことを知っている分、切なる思いをそう口にした。
コメント
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青くんの言葉が…こころにっ!黒くんも青くんと桃くんの心配をするのも分かる…難しいところですよね。桃くんの心はきっとガラス細工みたいに繊細なんでしょうね…青くんは桃くんのことを思っての行動。黒くんの行動もきっと二人を思ってですよね…(ちょっと何いってるのか自分でもわかりません。つまり、今語彙力が終わってますw)とにかく今回は、黒くん青くんの優しさがよくわかりました!これからも頑張ってください!
今回も感情ぐっちゃぐちゃで終わってしまいました…😖😖 黒さんも水さんも優しさが伝わってきて好きですがやはり青さんの考えが深い…あおば様の思考力は計り知れない気がします…ここまで一人一人の思いや考えが書けるのが尊敬でしかないんです!! 青桃さんが結ばれる未来を願って次回を楽しみに日常を乗り越えようと思いますっ😣💘