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思わず感心したようにアルメリアがそう言うと、スパルタカスが答える。
「その通りです。それと、回廊から攻撃を行う部隊は持ち回りになっているので、全ての兵士が訓練を行い有事に対応できるようにする必要があるのです」
前世での軍隊は、分隊や小隊一個大隊と別れていたし部隊によって役割が違っていて、それに特化していたのを思い出した。このままでは効率が悪いので騎士団については、改善の余地がありそうだとアルメリアは思った。
そして、回廊から見える街並みに目を向ける。ここには数百、何千もの平和で穏やかな生活を送っている人々がいる。そして、訓練を重ね国を守ろうとしてくれている兵士たちの上にそれが成り立っていることを実感した。
ヒロインが救国してくれるのが一番良いのだが、それが叶わないときはなんとしてでもこの国を守ろうと、気が引き締まる思いがした。
「人々の生活があってこの美しい街並みを形成しているんですわね」
思わず呟いてスパルタカスに微笑みかけた。スパルタカスそんなアルメリアをじっと熱のこもった視線で見つめ返した。
「はい、とても……美しいですね」
アルメリアはそばにいる兵士を見ると、はっとして言った。
「あまりここにいては、兵士のみなさんが通るのに邪魔になってしまいますわね。行きましょう」
スパルタカスは我に返ったように頷くと、アルメリアの手を引いて回廊を歩き始めた。アルメリアは街並みを見ながら歩いた。
回廊を通り張り出し陣の西棟屋上に着いたときにはもう正午を回っていた。
「閣下、一度お食事に戻られますか?」
そう言われ、アルメリアは考えを口にする。
「お昼なんですが、一つお願いがありますの。聞いていただけるかしら?」
上目遣いでお願いするアルメリアに、スパルタカスはたじたじになりながら答える。
「わ、私にできることならばなんでも」
「門衛棟の食堂でお昼を取りたいのですけれど、よろしいかしら?」
思いもよらぬお願いに、困惑しどう対処したものか思考を巡らせているスパルタカスに、更に重ねて言い募る。
「ダメなんですの?」
そんなアルメリアを見て、スパルタカスは参ったと言わんばかりにそれを制すると顔を赤くした。
「わかりました。しかし今回だけです。貴族のご令嬢が兵士と同じ食堂で昼食を取ったと知れれば、どのような噂を立てられるかわかったものではありませんから」
「我が儘を言ってしまって、ごめんなさい。ありがとう」
そう言うとアルメリアはリカオンに向き直る。
「リカオン、貴方はわざわざ私に付き合うことはありません。自室で昼食を取ってもかまいませんわ」
流石に今日こそはアルメリアの誘いをことわって昼食を自室で取るだろうと思っていた。だが彼は首を振って答える。
「いいえ、お嬢様がこちらでお食事をなさるなら僕もこちらで取ります」
「無理しなくていいですのよ?」
「無理はしていません。僕がそうしたいのです」
そう言ったあとぼそりと呟く。
「面白そうなので」
アルメリアは聞き取れず、聞き返す。
「なんですの?」
リカオンは首を振る。
「なんでもありません。さぁ、食堂に行きましょう」
スパルタカスはそれを見て頷くと、次いで言った。
「では、回廊を戻りましょう。ここに来て私はやっと一つ閣下の希望に添えることができたようです。もっと努力せねばなりませんね」
そう言うと、アルメリアの手を引いて歩きだした。
今度は東棟へ戻ってくると、神官たちはまだそこにとどまっていた。アルメリアの姿に気づいたルーファスがこちらに頭を下げて近づいてくる。
「どうされたのですか?」
それにスパルタカスが答える。
「閣下がこちらの食堂で昼食を取ろうとおっしゃるので、戻ってまいりました」
ルーファスは驚いた表情で言う。
「貴族のご令嬢がこちらで!?」
「えぇ、そうなんですの、私の我が儘なんですの」
そう答えると、ルーファスは嬉しそうに微笑んだ。
「そうなんですね、では私もご一緒させていただいてかまわないでしょうか?」
それは願ったり叶ったりであった。
「もちろんですわ、大勢で食べれば楽しいでしょうし」
と言ったあと、はっとしてスパルタカスに向き直る
「もしかしておじゃましてしまって、兵士の方々にはご迷惑ではなくて?」
スパルタカスは微笑む。
「とんでもないことであります。歓迎こそすれ、閣下を疎ましく思う者などいるわけがありません。それより、本当にこちらの食堂のお食事でよろしいのですか?」
「もちろんですわ」
アルメリアは自分の指先を乗せているスパルタカスの指先をぎゅっとつかむ。
「連れていってくださる?」
つかまれた指先を一瞬見つめると、満面の笑みを浮かべたスパルタカスは、もう片手を胸にあて恭しく一礼した。
「お任せください」
そう言うと歩き始めた。食堂に入ると兵士たちが我先にと厨房前のカウンターに殺到している。笑い合う声と、食事の提供を催促する声、食器とフォークのぶつかる音などが入り乱れ、雑然としていた。
だが、アルメリアたちが食堂に入ると、兵士たちが一斉にアルメリアに注目し静まり返った。
「おじゃましてしまって、ごめんなさい。今日だけにしますから、みなさんとお昼をご一緒させてくださいませ」
アルメリアはそう言ってお辞儀をした。すると先ほどとは違って困惑した様子の兵士たちがこちらをみて何事か囁いている声が聞こえる。
「お嬢様!」
その中から一人の兵士が前にでる。その顔はクンシラン領で見たことのある顔だった。
「もしかして、トニーですの?」
トニーは農園を任せているニックの弟で、兵士に志願していた。そしてアルメリアが新たに設立した兵士訓練学校の第一期生でもあった。
「まさかお嬢様にこんなところでお会いできるなんて……」
すると、周囲にいた兵士がにやにやしながら肘でトニーをつつきながら言った。
「トニー、もしかしてこちらの方がいつもお前が言っている、尊敬してやまないクンシラン公爵令嬢なのか?」
耳まで赤くしながらトニーは答える。
「わ、ば、う、うるさい!」
「お嬢様、こいついつもお嬢様の話ばっかりしてるんですよ! そんなお嬢様に我々も実際にお会いできることがあるなんて、思ってもみませんでしたけど。それにしても、良かったなトニー!」