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唇を強く噛み締める。
悔しくないわけじゃない、けれど言い返せない。
何故かって?
自信がないからだ。
自分は絶対に間違ってない、という自信も。
ミスを取り戻してきます、と宣言する自信も。
真衣香には、ない。
何もない。
坪井の笑顔を前にして、希望が持てたような気になったのは幻だったのか。
「てかさ、暇なんでしょ? フォローもまともにできないなんて。立花さん、会社に何しにきてるんですか〜?」
「……す、すみません」
「さっきからそればっかですね」
刺々しい森野を制した小野原が「立花さん、顔上げて?」と、優しい声で言った。
しかし恐る恐る顔を上げると、声とは裏腹、綺麗で大きな瞳が冷たい色を宿して真衣香を見ていた。
「とりあえず、次からは気をつけてね。 あと能力のない子が坪井くんにあまり懐かないで欲しい、迷惑になってるでしょ」
ハキハキとし、聡明な印象を持っていた小野原の、敵意に満ちた表情。
何に対しての敵意かを理解できないほど子供ではないつもりだ。
小野原から直接仕事を頼まれたのは、あの日が初めてだ。
ミスはミスとして怒りを買って、その怒りを増幅させているのは別の思いかもしれない……。
(なんて、思うの性格悪いなぁ、私)
「坪井くんが戻る前に部長には話し通すから、今日か明日の朝こっちに来てもらうかもしれないけど、よろしくね」
「は、はい。 わかりました」
(え、どうしよう、部長って、営業部長に話がいくの?)
人事総務部の部長に対しても緊張のある真衣香だが、その部長が『昔から、おっかない男だよ』なんて、肩をすくめていた姿を思い出してしまった。
怖い、と思った。
真衣香自身ならば、謝って、それなりに責任を取らなければいけないと言うのならばもちろん従おう。
(でも、だけど、坪井くんは)
脳裏には、何度も真衣香の心に暖かさをくれた笑顔が蘇った。
でも、その笑顔に、今日は苦しさを覚える。
『寄りかかって』なんて、程遠い。
それほどに坪井にとって、迷惑なことをしでかしてしまったのだ。
戻っていいよ、と。
さらに突き刺さるような冷たい声で、小野原に言われた真衣香は「失礼します」と、消え入りそうな声を出して営業部を後にした。
次に頭に浮かんだのは、気怠そうにため息をついていた、一昨日の坪井の姿。
今度は自分が、その表情をさせてしまうのか……と。