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「わぁ~! アック様~! その調子ですよ~!!」
観客席から聞こえてくる甲高いルティの声援は他の誰よりも目立っている――というより、一般の観客はおろか騎士たちの姿が全く見当たらない。
何故ならノーブルナイト《貴族騎士》レギオンと呼ばれる剣闘場には、ルティを含めても数人しか来ていないからだ。
ここは基本的に騎士団所属かつ高レベルで高ランクのみで行う戦いの場らしい。だが極秘に取引を成功させたスキュラの思惑が成功し、参加を許された。剣闘場に集った騎士は全部で三十名弱ほど。
この中には、副団長と名乗ったキニエス・ベッツの姿が確認出来ている。しかしスキュラと裏取引をした自称団長のアルビン・ベッツの姿は無い。剣闘場での勝者にとある依頼をする思惑があるとかなんとか。
おれとしては、まずキニエスという男だけに集中する。
「イスティさま。わらわが手助けするのは今回だけなの! 今度からは、きちんとスキル上げをすること! い~い?」
――などと言われてしまったからだ。
そんなフィーサのおかげで、雑魚騎士はあっさり倒すことが出来た。レギオンは騎士団という一つのまとまり。個々の戦いでは無く、バトルロイヤル形式によって行われた出た結果だ。
「ちっ、ジョブなしのガキが生き残りだと? 揃いも揃って情けない奴等め!」
大柄の男キニエスは他の騎士同様に左手に盾を構え、右手に片手剣を手にして立っている。奴に対しておれは両手剣である宝剣フィーサを構えているだけに過ぎない。
防御に関しては恐らく敵に敵うことが無いはず。おれにはルティ仕込みの力があり、フィーサの助けとして素早い身のこなしがある。これならどんな硬さを持つ相手でも圧倒することが出来る。
対するキニエスという男は、装備一式全てを鋼鉄製で固めている。動きは鈍いが一撃が重いタイプだろう。現状でおれの装備は炎属性の防具でまとまっている。だからといって、相手の武器を焦がすといった付加要素は無い。
「いつでも来ていいですよ、騎士の副団長さん」
「ふん、バトルロイヤルだからこそのまぐれ勝ち狙いか」
キニエスは身を低く屈《かが》め、中段からの突進攻撃をする構え。盾を前面に立て、威力のあるアイアンソードを突き刺してくるようだ。
ソードスキルを得られたおれが取れる対抗手段はガード無視攻撃。フィーサの攻撃力は本気を出せば大岩も簡単に砕けられるが、今回は使用しない。あくまで敵に勝つ為だけのスキルを使う。
今回の目的は力業を披露することじゃない。敵の突進力を利用してかわし、敵の気が抜けた所で軽く急所に当てるだけで十分だ。それをしないと騎士でさえも簡単に破壊《ころ》してしまいかねない。
「この俺を舐めるな!! ぬおおおおおお!!」
予想通り中段構えのままでおれに突っ込んできた。おれは鋼鉄の盾に剣を向けたまま、逆らわずにそのまま振り下ろし返した。
「てぃやぁっ!!」
「――ちぃっ! ジョブなしの素人めが!」
両手で思いきり振り下ろされる宝剣は迷うことなくキニエスに重い一撃を与える。おれが感じた感触は相手を斬ったものではなく、直前に防がれたアイアンソードとのつばぜり合いによるものだった。
「……勝負を続けます?」
「ふん、所詮祭りごとだ。素人相手にくだらん!」
ソードスキルとフィーサのおかげで勝負はあっさりとついた。
「では、あの娘のことは引いてもらえます?」
「そんなもんは最初《はな》からどうでもいいことだ。好きにしとけ!」
剣を振れた感じは全然得られてないし微妙だったな。でも、これでルティの件をうやむやにさせなかったのは良かったけど。
騎士たちとの勝負を終えると大歓声に包まれる――なんてことはなく、剣闘場には既に誰の姿も無くなっていた。
いまいち盛り上がりに欠けた気がするが、レギオンの戦いだとそんなものかもしれない。
「はぁ~……イスティさまの実力を上げるのは大変そう」
「ま、まぁ、今回は実力じゃなかったわけだから、今度からはきちんとやるよ」
「うんっ! イスティさまのスキルを上げるのには、わらわが助けてあげなきゃなの! それでね、あのね――」
今回に関してはルティに降りかかる火の粉を、というのが目的だった。本人は気付いていないように思えるが、ルティは嬉しそうにおれに抱きついてきた。
「アック様~!! すごかったですよ~~! さすがわたしのご主人様ですね~えへへ」
「ちょっと、ルティ!? 近い、近い……」
「駄目ですよ~! これは盛大にお祝いをしないとなのです! アック様、ぜひぜひわたしの――」