騎士たちとの戦いは話に聞いていたほど大したものでも無く、実力を伴う戦いでも無かった。その場しのぎのソードスキルとフィーサの力で何とかなった。それだけに拍子抜けした感じだ。
それにしても、
「――何だって?」
「はい! アック様はわたしのご主人様ですっ! わたしの為に戦って頂けた。それだけで、ルティはすごく嬉しいのです!!」
ドワーフ娘な彼女はいつも賑やかだ。それにつられず、おれは感情を出すことは控えていた。
「う、嬉しいようで何より」
しかし自分の為に戦ってくれたということで彼女の中での喜びが溢れ、おれに対する眼差しと態度をガラリと変えてしまった。
「ルティは決めました!」
「何を?」
「わたしが、アック様を一生支えて行きます!!」
一生と言われてもな。この娘のことだからそこまで深い意味は無さそうだけど。
「こんなわたしの為に責任を果たすと言って頂けた。つまりわたしは、一生を遂げられるご主人様に出会えたということなのです!」
責任を果たす。
そんなことを彼女に言った覚えは――いや、確かおれの中でけじめをつけようという意味で言った気が。ルティの為にとは一言も伝えてなかったはず。
確かに彼女を守るための戦いだったけど、言葉の節々で勝手に感じ取ったんじゃ?
「うーん?」
「アック様! わたし、ご主人様にわたしの全てを……」
これ以上言わせるのは危険だ。宝剣から無言の圧力のようなものが感じられるし。ここは上手く誤魔化すしかない。
「おっと、もうこんな時間になってたか。剣闘場に誰もいなくなったことだし宿に戻るか~」
「駄目ですよ! こんなひと時は滅多に訪れないのです。ですから、アック様!」
「な、何かな」
危険だ、非常に危険な予感がする。
「ず~っと、ずっと! ルティシアのお傍にいてくださいっ!! 約束ですよ!」
「……え? 約束? 何だ、そうか」
何をされるかと思っていたら、素直な気持ちを告白されただけだった。ルティとはレア確定ガチャになったことで約束された出会い。ガチャきっかけで彼女と出会い、おれは秘めた飲み物やら何やらで着々と強くなりつつある。その恩恵があるからこそ責任という言葉が出たのは間違いない。
ルティの中におれに助けられたことで感謝が芽生えた感じか。
「ど、どうですか~?」
決して難しいことじゃないよな。純粋な気持ちと感謝の返事をするだけじゃないか。
「も、もちろんだ。ルティとはそういう出会いをしたわけだしな。一緒にいてもらわないと困――」
「――約束! ですよ~!! ではではっ、お先に失礼します~! アック様」
彼女の唇がおれの頬に触れた……気が。深い意味じゃないと思いたい。それでも、あのルティが素直な気持ちを初めて出した―ということか。
「イスティさまは、あんな小娘がいいんだ?」
「フィーサ!?」
「わらわがまだ鞘に収まってないままで、あんなのを見せつけるなんて」
感じていた気配は怒りの意味だった。剣の姿のままで怒っているのは、傍から見ればおかしいが紛れもない現実。
「ご、ごめん!」
「いいもん。わらわもイスティさまに期待するの! その為にも、もっと厳しくするもん!!」
ルティだけでも大変なのにフィーサも加わるなんて。いずれ何とかしないとしょっちゅうケンカが起こりそうな気がしてならない。ともかくアグエスタでの用はこんなとこだな。
あとは馬車を調達して、スキュラの取引結果を待った後にでもスキル上げを始めてみるか。
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