テラーノベル
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【8か月前】
―やっぱり目薬を持ってくればよかった―
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夕暮れなずむ街大阪市内にあるロマンティックなイタリアンレストラン(Lavagna )、道頓堀川のほとり、カップル用の洒落た窓側のテーブルに座った藤子は後悔していた
二年付き合っている藤子よりも3歳年上の彼氏、「信二」がサプライズとして予約したディナーで、藤子は何もサプライズの内容を知らされていなかった
しかし、席について信二が高価なワインのボトルを注文していたと知った時、彼女は察した、普段は居酒屋の生ビールが好きな二人にとって、この高級レストランとワインはあまりにもお洒落過ぎているし、贅沢を超えていた
つまり理由は一つしかない、彼は藤子に「プロポーズ」するつもりなのだ
―完璧なタイミングだわ―
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藤子はまずそう思った、自分は今年30歳になる、歳上の彼は33歳、年末までに式を挙げるとしても準備期間は十分ある、もしくは来年の6月でも全然良い、ジューンブライドにこだわりは無いにしても、やはり魅力的だ
仕事の事も考えなければいけない、なにせ自分は神崎広告代理店の売れっ子コピーライターなのだ
アットホームなあの会社が藤子は大好きだったし、クライアントにも友達が沢山いる。顧客は藤子の能力と明快で知的な手法に安心し、さらにプランナーの藤子の用意周到さに好感を持ち、彼女がすべてのキャンペーンにもたらした、ウィットと気遣いに「次も必ず藤子と仕事がしたい」と言う
子供も何としてもすぐに欲しい、結婚すればすぐに出来るだろう、子供が産まれてもあの会社なら産休を取った後も働きやすい
ウェイターが赤ワインのコルクを抜き、ワインのティスティングをする間ずっと二人は熱く見つめあった、そしてウェイターがいなくなり、やっと本題に入れると二人はグラスをカチンと鳴らした
いつもながら彼の顔はそんなにハンサムじゃないけど、スーツを着ている時の彼はそれは素敵な「雰囲気ハンサム」だった
藤子のクライアントの一つの、人材派遣会社の飲み会を通じて知り合った、彼は年齢にしては少し浮ついた所があるけど、おしゃべりな藤子の話を、いつも楽しく聞いてくれる、大人の男性だった
チャコールグレーのスーツを着て、藤子が彼の誕生日にプレゼントしたタグホイヤーの腕時計をつけている。彼へのプレゼントにしては予想以上の出費になったけど、男性の人生の節目となる33歳を迎えた彼が、最近仕事が忙しくて、疲れているようなので元気づけるつもりで藤子が贈ったのだ
「今日は、君に伝えたいことがあるんだ」
信二が親指で藤子の指を撫でながら言った、どうしよう・・・もし、フラッシュモブ・サプライズだったら本当に感動して泣いちゃうかも
「この間、俺の33歳の誕生日を迎えた時、俺が仕事で精神的にこたえていた事は知ってるだろう?」
「ええ・・・知ってるわ」
プロポーズを受けて、絶妙のタイミングで涙を流したい藤子は、わざと瞬きをしない様に目を乾かした
「それで・・・これからの人生をどう歩むべきかずっと考えていたんだ、自分が何を望んでいるか、わかっていたが、それが大きなステップになるから、及び腰になっていたんだと思う・・・」
彼はそこで間を置き、少し笑って二回大きく深呼吸して、胸に手を当てた
ハァ・・・「緊張してる」
藤子は安心させるように彼の手を握った
「一気に話した方がいいかも」
藤子はからかうように言った
「もう一杯飲んでもいいかい?」
クス・・・「ええ、どうぞ」
大きな目を見開いて涙をためる、涙は目の半分を覆っている、あとは一回瞬きをすれば、一筋綺麗な涙がこぼれるはずだ
―きっと彼のポケットにはベルベットの小箱が入っているはず・・・早く言って―
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「北海道に移住したいんだ」
「え?」
藤子は目をぱちくりした、その拍子に溜めていた涙がこぼれた
「北海道?」
思わず藤子はオウム返しに言った、信二がうなずく、そして一度勢いがつくと彼はペラペラ話し出した
「北海道支社で枠が一つ出たんだっ!それで上司に相談したら、ほぼ俺でOKが出たんだ!」
彼はまるで(テーマパークに連れて行ってあげる)と言われた子供の様にワクワクして笑った
「北海道だよ!!北海道!それも独身用の社宅もついてるんだ!!凄いだろう?」
「そ・・・それは、すごいわね・・・」
藤子は話を整理しようとワインを一口飲んだ
めあ
43
2,001
#ネタバレ注意
るあ
2,673
#イケメン
蒼乃 月
828
コメント
1件
星キラリさん、第32話読みました!「プロポーズかと思いきや北海道移住」という、読者の期待を裏切る展開が鮮やかで、藤子の涙がこぼれるシーンが切なくも可笑しかったです。設定の「8か月前」という時系列も気になり、今の物語とどう繋がるのか想像が膨らみます。続きが待ち遠しいです!