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寒い、寒い、寒い。
なんとなく外の空気が恋しくなる。おかしいな、冷えるだけって分かってるのに。
すこしだけ開けた、窓から。灯油のにおいと、とたんに流れ込む冷気。
ここ一週間で、急にぐっと冷え込んだような気がするのは、……気温の、せい、だろうか。
「…………さむ。」
結論は分かってるけど、まぁ、考えるかと言われれば、その気にはならない。
一週間前、MENが、家の都合と言って出ていった時のことを、覚えてる。思い出す。
多分二週間くらいで帰るよって、彼にしては珍しく、ひどく身勝手に。あと、いっしゅうかん。わかってる。わかってる。こんなの、大したことない。
なのに。
「………さむいなぁ」
燃料が足りなくなったみたいに、足は鉛になってしまった。
毎朝おはようを言ってるはずなのに、返してくれる人がいないや。
ううん、明日こそ、いるかもしれない。今日、ぐっすり眠ったら、気付いたら明日はMENがいるかもしれない。このことは全部夢だったのかもしれない。
どうしたのって、また笑って当然のように居座るMENがいるかもしれない。
絶対、そんなことはないって、分かるのに。頬をつねったら今日もやっぱり痛い。
「めん。」
名前を呼んだら、そこにいるかな。こんなに忙しい日々なはずなのに、からっぽの人間になってしまった。
たった一日がすごく長いや。今まで俺はどうしてたんだろう。
どれだけ人に寄りかかって生きていたのか。いざ寄りかかる相手がいなくなった時の、自分の体の細さ。弱さ。
めん。今日は美味しい豚汁作ったんだよ。
あなたがいなくなったら、もう凝る必要なんてないのに。ううん、きっとめんは、何時間かけた料理でもたった数分で食べてしまうけどさ。
それが嬉しかったんだなあ。
ああ、だめだ。だめだなあ。
こんなに、こんなに、………。
「…寒いなぁ……、」
人ひとり分、減って。そうして、誰も抱き締めてくれる人がいなくなった、この部屋は。
こんなにも、だだっ広い、氷点下の箱になってしまった。